マッキンゼーを落ちた私が泣きながらボスコンに受かった話(前編)
春ですね。
こんな春の日は、就活の内定を勝ち取ったいつかの春を思い出します。
外資系コンサルに憧れて
マッキンゼーを秒速で落ちて
悩んで
頑張って
ヘコんで
やっとの思いでボスコンに受かった春でした。
ちょっと長くなりますが、思い出しながら書いてみようと思います。
これを読んだ人の中で就活・転職中の人、これからする人の応援に少しでもなれたらなと思います。
外資コンサルに興味を持ったきっかけ
そもそも外資コンサルなんて受ける気なかったです。というかそんな職業あるのも知らなかった。
当時国立大学の理系だった自分は、大学院に行く気マンマンでした。
きっかけは三年生の秋のある日、食堂でクラスの仲間と昼飯を食べてる時に就活マニアの一人が「外資コンサルっていう最強の職業があるらしい」と話始めたこと
氏いわく、
え、知らねーの?東大京大が受けても倍率100倍くらいで全然受かんない。日本の大企業も経営戦略考えてんのは全部外資コンサルで、日本経済操ってるよ。入った瞬間から大企業の社長にアドバイスして、二年目で年収2000万超える。モテるし金もあるから、外資コンサルに就職した〇〇先輩は家にモデルと女優が同居してるらしい。(実際そんなことないんだけど、それを分かるのはコンサルに入ってからの話。)
ウッソ!?やばない?最高すぎw
二年目で年収2000万!?それはウソ
つかそんなん絶対受からんやろ、、
反応は様々。
当時の私達にとって外資コンサルの話は、「アメリカには200億円の宝クジがあるらしい!」と同じレベルの話でした。食堂で500円の野菜炒め定食食べてる自分達から見ると、それくらい現実味のないこと。でも同時に「もしそれが現実なら」と思うと最高に興奮したのも覚えてます。
昔からいろんなことを考えるのが好きだったし、筋道立てて物事を見るのも好きだったので「かなりの論理的思考を求められる」と聞いて、もしかしたら自分でもイケるんじゃないかなーと期待してました。
しかもタイミングよく週末には噂のマッキンゼーの説明会があるらしい…
これは行くしかないでしょ。
マッキンゼーの会社説明会が輝きすぎ
これはもうホントやばかった。説明会終わった瞬間に「もうここ行くしかない」って思ったくらい。
もうね、何がやばいって、、
全て。
あらゆる大企業の経営の根本に関わる仕事をしていること、しかも国際プロジェクト
会場に来てる人のキラキラ感。社員の話し方や知性、大らかなコミュニケーション
人を大事にする姿勢。トレーニングや評価制度。会社補助でMBA留学行って世界銀行でインターンしてる人からのビデオレターまであった。
後半は凄すぎてにやけてた。「こんな会社本当にあんのかよ」って呟いてた。
就活マニアが言っていたことの答え合わせもできた。
2年目で2000万はなさそうだけど、本当に一年目から大企業の社長にプレゼンする場合もある事。
女優やモデルと同居してるわけではないけど、商品のCM制作にも関わり、撮影スタジオでモデルさんと知り合うこともあるなど
最後に社員から『絶対受けてよ、どんな人の挑戦もウェルカムだから』と白い歯で言われて、クラっと来てしまった。
『絶対受けます。』即答してた。
筆記試験とか余裕でしょ。って思ってました。あの頃の自分に言ってやりたい、『ナメるなよ。』
説明会ですっかり魅了された自分はすぐにウェブエントリーを申し込み、徹夜して志望動機を書き連ねて応募しました。
「なぜコンサルなのか?」「なぜマッキンゼーなのか?」という感じの質問だったけど、どちらも会社説明会での感動をそのまま書いた気がする。
ここで微妙な内容を書いた学生は国立大でも落ちる可能性があると聞いていたので若干心配してました。届いたメールにはこう書いてあった。
「ご応募ありがとうございます。是非アセルスさんには次のステップに進んでいただきたいと思います。」
合格の伝え方までオシャレかよ!!
メールが届いた時には思わずガッツポーズしてました。
ただなぜかこの頃から、
「あ、これマッキンゼー受かることが自分の運命なんだわ」
と都合よく思い込むようになり、どんどん根拠のない自信ができていったように思う。
就活マニアからたまたま外資コンサルの話を聞いたことや、マッキンゼーの説明会に完璧なタイミングで行けたことなどの偶然が重なったことで、全ては運命だと思うようになっていたのかもしれない。
しまいには
「筆記試験も何も対策しなくていいっしょ。これでも一応国立受かってるんで、」
とナメくさってた。というか、「対策せずにフラッと受けたら、受かった」という格好いいストーリーを体現したかったのかもしれません。
このあと筆記試験に向かった私は衝撃を受けることになります。そしてこの甘い考えを心底後悔することになるのです。
マッキンゼー筆記試験の衝撃
試験当日、意気揚々と試験会場のホテルへ向かう。
ホテルロビーは我こそは最強の秀才なりと信じて疑わない学生が集まり、かなりピリついた雰囲気。
講演会スペースに入ると、白いテーブルクロスがひかれている長机がズラッと左右に20列くらい並び、100人以上が背筋を正して着席。試験問題は自分の目の前に裏を向けて置いてある。
「自分とマッキンゼーの出会いは運命である」という勘違いストーカーのような気持ちで試験に臨んだ自分は、当然何の予習もしていない。
「はじめてください」の合図で問題用紙をめくる
!?
目に飛び込んできたのはこんな感じ
McKinsey&Company "Problem Solving Test Practice Test A"より転載
え、、、英語なの?
というかそういう問題でもなく、なんぞこれ?
全く意味が分からん。。。もっと数学の基礎知識とか、文章題とか、小論文だと思ってた。
ゴングが鳴って、拳を合わせようとしたら右ストレートが飛んできた感じ。しかもこっちはノーガード戦法。
面喰らい過ぎて1分くらい天井を見上げる。「宴会場の天井って何で格子模様なんだろう?」
いかんいかん、問題文が意味不明だとしても、頑張ればもしかしたら解けるはず。
何回も読んでたら何となく分かった気になってくる。幸い問題は選択式だ。
マッキンゼーの筆記試験は上のような長い文章が最初に出てきて、この内容についての選択式の問題が3-5問出題される。これが1セットになっていて、全部で5-7セットくらいのボリュームを1.5時間くらいで解かないといけい。(今は多少変わってるかもしれません。)
基本的に最初の文章を10回くらい読まないと意味が分からなかったので、時間は一瞬でなくなる。しかも文章理解が曖昧なので、問題に進んでもやっぱり曖昧。
何とかそれっぽいと思われる回答を選択し、とりあえず完答。
マッキンゼーとの運命を信じて臨んだけど、終わった頃には暗雲がたちこめていた。
結果発表そして。。。
試験の帰り、たまたま同じ大学の友人Kくんとホームで一緒になる。
アセルス:試験どうだった?
Kくん:いや、ヤバイでしょw
アセルス:英語って知らなかったんだけど…
Kくん:まじ!?まあでも知っててもあんま変わらんよ
アセルス:かもね笑
Kくん:でも、マッキンゼーは筆記難しいで有名だし、5割くらいでも通るらしいよ?
アセルス:マジ!?
というこの会話でまたマッキンゼーとの赤い糸を再び信じ始める私。5-6割なら何とかいってる気がする。
お互いの結果を報告する約束をしてK氏とは別れた。
1週間ぐらいすると「〇〇が合格メール受け取ったらしい」という情報が流れはじめ、焦る私。
大学のメールアドレスを使ってたので、毎日朝昼晩大学のパソコンをチェックするが、
メールはまだ来ない。
続々と合格者が出はじめるが、まだ来ない。
さらに数日後、メールボックスに一件のメールが、、、
[マッキンゼーアンドカンパニー]
恐る恐るメールを開ける。
「この度はマッキンゼーの採用に応募いただきありがとうございます。検討の結果、この度は採用を見送らせていただくこととなりました。アセルス様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。」
…
信じられない。受け入れたくない。でも現実なので受け入れるしかない。
好きな人に告白してフラれる時ってこんな感じなのかな?告白したことないけど、
大学のパソコンルームからよろよろと立ち上がり、最寄駅へと歩く。
歩きながら涙が滝のように流れて来た。誇張なしで。
なんでダメなの??
他の奴は受かってるのになんで?
結構勉強も頑張って来たのに、ロジカルシンキング(?)ってやつも多少自信あったのに。
なんでもっと筆記試験の内容調べなかったんだろう。フラっと行って受かるような天才でもないのに。
人生に一度しかチャンスないのに。もうこれでマッキンゼーには行けない。
自分が否定されてる。悔しくてたまらない。
人生でこんな悔しいことあるんだ。
しばらく泣いていると、今度は別の感情が芽生えてくる
怒りの感情。
闘争心。
バカにされたという気持ち。
もっと自分はすごいはずなのに、受かるべきなのに、私を落としたマッキンゼーは間違ってる。
落ちていった他の人たちと一緒にされたくない。
自分を落としたことを、後悔させてやる
心の中にはっきり炎が燃えたのが分かった。
大学に入ってからの自堕落な生活で完全に忘れてた感覚だった。
オッケーマック、私が本気出したらどうなるか見せてやろうじゃん。
気づいたら涙は止まってました。
ここから本気を出した自分は戦コン就活をバンバン突破して、、、いくつもりだったけど、現実はそんなに甘くはなかった。
手当たり次第
不合格になったマッキンゼーを見返してやるために、まずは情報収集を始めた私。
どうやら外資コンサルと言っても色々あるらしい。
世界的にビッグ・スリーと呼ばれる
マッキンゼー
ボスコン
ベイン
さらに日本では比較的プレゼンスの高い
ATカーニー
ブーズ
アーサー・ディー・リトル
ローランド・ベルガー
IT領域を得意とする
アクセンティア
会計系から派生した
PWC
KPMG
マッキンゼーを落ちてしまった自分は狙うべきターゲットをボスコン、ベイン、ATカーニー、ブーズ、アーサー・ディー・リトル、ローランドベルガーの6社に決めた。
この6社全てから内定を取り、自分の能力を証明したい。
まずは全ての会社にエントリーすることから始めた。残念ながらATカーニーは応募が終了しており、結果5社にエントリーすることに。
さらに各社の筆記試験の傾向と対策をしっかりとリサーチ。外資就活ドットコムなどを活用し、調べた限りで以下が判明。
ボスコン→判断推理
ベイン→GMATのCritical Reasoningの日本語版とベン図問題
ブーズ→マッキンゼーと似たビジネス問題+判断推理
ローランド・ベルガー→ケース問題
ADL→ESのみ
これらを踏まえて、エントリーシートを片っ端から送信した後に自分なりに組み立てた対策が以下。
<筆記対策>
判断推理の教科書を二冊(「公務員試験対策」みたいなやつ)を二周解いて解法をマスター
GMATのCritical Reasoningのテキスト(洋書)を全て三周解いて対策
<ケース対策>
コンサル志望の同級生とケース面接ごっこを行う(面接官と受験者を交互に行い、お互いの回答を批評)
ロジカルシンキング系の本(照屋華子さん著の「ロジカルシンキング」とか)を勉強
マーケティングなどの経営書を読み漁る
正直かなりの時間を投資したと思う。
本格的に対策を開始したのが12月だったが、12月まるまるはろくすっぽ授業も行かずに試験対策ばかりを行なっていた。
これは来てる。(たぶん)
日に日に力がついてる。(気がする)
ブーズ、ローランド・ベルガー、ADLの三つの選考が先だったので、まずは余裕で受かるつもりで挑む。
その結果は…
ブーズのGD、ベルガーの筆記、ADLのESを一つづつ解説して行きたい。
<ブーズ>筆記はマッキンゼーの内容に少し似てるビジネス的な問題だったが、判断推理や算数とも似ていた。日本語で記載されいたし、判断推理は対策していたので、比較的落ち着いて解くことができた。
なんとか筆記は合格し、グループディスカッションに呼ばれることになる。(やっと人と喋れる!ケース対策の見せ処や!)
が、ここでやらかしてしまう私。
自分のグループメンバーは、東工大、京大、東大、慶應、プラス私の5人グループ。
お題は「ある消費財商品の売上を伸ばすには?」だった気がする。
グループディスカッションは協力しながら議論し、答えを導いていく中で自分の頭の回転や思考の鋭さをアピールするもんだが、GD童貞の私は「相手を論破すること」で優秀さをアピールできると勘違い。ひたすらに他のメンバーの考えたプランの論理的な欠点を指摘し始める。
「いや、今打ち手の話じゃなくて課題の話してるから」
「高齢者は違うセグメントでしょ?」
「そのアクションは今話してるよりも一段細かい話だからあとで」
話しながらだんだんイライラしてくる自分、更にこれに怒った東工大君もヒートアップし、泥沼化。もはやただの口喧嘩となる。
それでも終わった後は『終始私が会議をリードしてたな。これは受かったっしょ。』のドヤ顔。
そら落ちるわ
頭が良いとか悪いとか以前の問題だし、言ってることも形式的で、内容を深めようとしていない。完全にアウト。面接官も「うわあ…」ってなってたと思います。というか東工大の彼に謝りたい、、、
今ならこれがどんだけ愚かな行為か分かるが、当時の自分はどう「優秀さを示すか」 しか頭になかった。
優秀さは示すもんじゃないのにね。考えが十分深ければ、アピールや勢いは要らない。
結果は当然不合格
ちなみに当時の私はその結果にも納得していなかった。笑
<ベルガー> ベルガーの筆記試験はなんと六本木ヒルズで行われた。ヒルズの上層階にある会議室フロアに行くだけでドキドキした。
マッキンゼーの時よりも広い会場に300名近い受験者。
課題は「ある食品〇〇の日本における消費量を求めよ」「その食品の市場拡大の施策を求めよ」 の二つ。
これについては、
一人当たりの消費量 × 対象人数の式で求めた。
消費量計算自体はストレートフォワードだったが、ここから気の利いた施策を出すのに苦労した記憶がある。
それでもブーズのグループディスカッションも経験している自分としては、それなりの出来栄えだと思っていた。
結果は、
不合格
うろ覚えながら分析するに、消費量計算に相当の時間を使ってしまった自分は、第二問の施策部分で丁寧に課題や対象セグメントを設定することをせず、
「イベントを開いてキャンペーン化する」「子供に食べてもらうように〇〇」のようにいきなり打ち手を書いてしまっていたように思う。おそらくはそこが不十分と判断されたのではないかと。
<ADL>ADLは筆記試験がない代わりにESが少し捻ってある。
「自分だけが気づいていると思う世の中の仕組みは?」みたいな質問で、回答者の思考の深さや面白さを測っていると思われる。
夜通しかけた考えを書き込む。「消費税の税込価格表示は実は増税を消費者に悟られないようにするためではないか?」みたいな内容を書いた気がする。
ただこのESの内容も、過剰に文章を飾って表現していたし、そもそも内容もイマイチ説得力に欠けた。
結果、ES落ち
とうとう書類選考も受からなくなったか…もはや笑うしかない。
普通に頑張って受けて三社とも不合格。もう悔し涙は出なかった。
外資コンサルはムリゲーなのか
まさかの三戦全敗。
しかもマッキンゼーの時のような、準備不足の言い訳もできない。純粋に自分の力が足りてないと判断するしかない。
駅のホームでサラリーマンを見かけると、
「この人もどこかの企業に必要とされて、面接全部受かって採用されたんだよなあ。」
どの企業からも必要とされない自分と比べて落ち込んでしまう。
今まで働くことは普通だと思ってたけど、会社に必要とされるって難しいことんだな
大学では「外資コンサル内定者が教えるケース面接セミナー」「外資金融内定者だけの勉強会」という張り紙やfacebookグループが続々と出来上がり、外資コンサル・外資金融内定者と非内定者で大きな落差が生まれてました。
ゴールドマン・サックス内定者、マッキンゼー内定者の彼らは神扱い。『彼らの言うことはなんでも正しい』くらいのノリだった。
ゴールドマン内定者の知り合いと話す機会があったが、典型的なマウンティングタイプで「軸はなんなの?」「それ意味あんの?」「オレなら〇〇」のオンパレード。少しでもアドバイスを聞こうと思ったが、負け犬の自分に丁寧にアドバイスする気はないようだった。
余談だが、社会人になって戦略コンサルを実務としてやるようになった今でも、こういう「相手を負かしやろう」モードで話す相手は苦手である。笑
残されたのはボスコンとベインのみ。
自信もテンションも最低レベルなのに、二社の筆記試験は迫っていた。
一筋の光明
ブーズ、ベルガー、ADLで全敗した自分としては、ボスコン、ベインなど受かる気がしない。半ば惰性で筆記試験を待っていた。
そんなある日マーケティングの本を読んでいると、著者のコメントで
『オレは毎日広告のことを考えている。テレビのコマーシャルを見るときは、どういう狙いでこの広告を作ったのだろうと考える。周りの全てから学べる』
というのが気になった。
私はそこまで戦略のことを考えていたか?
ケースの真似事はしているが、身の回りにある商品やサービスの分析は考えたことがなかった。
さらにベルガーの筆記やブーズのGDの時に感じたはのは、根本的に情報不足だということだった。
例えば「ペットの数」のケースをするにしても、「日本全国の世帯数」といった基本的な数字が分からない限りどうしようもない。「ホテルの市場規模」といっても、日本にどれくらいホテルがあるのか分からない。
これらの問題意識を加味して、もう一度自分の対策を練り直してみた。
<ケース対策(改)>「世帯数」「年齢別の人口」「旅館の数」などの計数情報を全て暗記する
目に入ったプロダクトの市場規模と成長戦略を最低一日5つ考える(イス、タクシー、石油ストーブ、テレビなど身の回りには無限に商品がある。)
さらに自分が考えた商品についてメーカーが実際に行なっているキャンペーンやマーケティングを調べ、どういう狙いか理解、自分の考えと比べる
これをやって1週間くらいすると、あることに気づいた。結構多くのケース問題に共通の考え方があるのだ。
「眼鏡」「時計」など身に付けるものは似たようなロジックや計算方法
「エアコン」「机」「椅子」「ガスコンロ」などは設備産業であり、どこで使われるのか?を法人・個人で分けて考えるとやりやすい
などなど…
これを継続すると自分でも「これは深いな」という答えを出せるときもあった。
今思えば、大量のケース問題を強制的に解くことで、商品に適したセグメンテーションを自然に意識するようになったのだと思う。また多くのケースをやることでケースに対する思考の瞬発力が上がったのだろう。
少し自分に自信を取り戻したところで、ついにボスコン、ベインの選考が始まる。
ベイン選考の始まり
ベインの選考の特徴は筆記試験の難易度にある。100人受けて10人程度しか受からない。全30問のうち、3問間違ったらアウトというのが当時の噂だった。
試験会場は100名以上の受験者がいたが、自分は12月まるまるかけて実行した筆記対策のお陰で、ある程度余裕を持って臨む事が出来た。
試験終了後、マッキンゼーの試験で一緒になったKくんとばったり。採点〜発表まで2時間近くあるので、ランチしながら待つことに。
大戸屋でチキンお母さん煮定食の美味しさを力説しながら食べるKくん。余裕あるなあ。
アセルス:どうだった?
Kくん:ん〜わかんないな。自分的には満点のつもりだけど。多分みんなそうでしょ。
アセルス:そうだね。自分も全部出来た気がする…
Kくん:でもアセルスはなんか受かってる気がするな。
アセルス:え?なんで?
Kくん:なんとなく
二人ともマッキンゼーは筆記落ち。さらにKくんはボスコンも前回セッションを受けて失敗しているため、本当にこれが崖っぷち。余裕に見えた表情は達観していただけかもしれない。
その後も私たちはいろんな話をした。外資コンサルのこと、ムカつく内定者のこと、就活の不思議など。
でも、
なにかに挑戦しながらこうやって友人とランチ食べて語る時間も悪くないな。
自分を追い込むことばかり考えて、結果ばかり気にして、こういう時間を忘れてた。
二人して爽やかな顔で試験会場に戻る。
ホワイトボードに合格者の番号が書かれた紙が張り出される。
自分の番号は…
あった。
Kくんと話したことで達観していたのか、あまり派手な喜びは湧いてこなかった。
どうやら試験当日にぶっ続けで面接があるようだ。合格者は社員の方と時間調整をしている。
残念ながらKくんはダメだったようだ。自分だけ受かって申し訳ないが、ここまで来たら彼の分も頑張らなくては。
準備をするため、できるだけ遅い時間のスロットで面接を予約することに。
スタバで各種の計数の復習と、いくつかのケース問題を解いて準備。あっとゆう間に3時間が経過し、面接会場のホテルに向かう。
この面接で、自分でも驚くほどのパフォーマンスを出すことになる。
ベイン一次面接で渾身の出来
面接会場に到着。待合室から見える夕日を見ながら心を落ち着かせる。
名前を呼ばれ、一次面接が始まった。(*ちなみに現在ベインは一次〜三次面接までを1日で行い、その後短期インターンで採用が決まるらしい。当時は少しプロセスが違った。)
お題は「日本のシャンプーの市場規模を求めてください。」
ケース対策で相当地力がついた自分は、1分の持ち時間のあとで冷静に解答してく。
シャンプーの市場規模はボトル消費量 × 一本あたりの値段で求められます。
ボトル消費量は以下に定義します。
ボトル消費量(本) = (人口 × 1年間のシャンプーの回数 × シャンプーの時のプッシュ数 × ワンプッシュの量)÷ ボトルあたり容量
順に求めていきます。
人口は女性6000万人、男性6000万
1日あたりのシャンプーの回数は「夜だけ」と「朝と夜」の比率を5:1程度(自分の友人を参考に)と考え、(1 × 5 + 2 × 1) ÷ 6で1.1666666。ざっくり1.2回
シャンプーのプッシュ数は男性1回、女性3回とします(自分の家族や友人を参考に)
ワンプッシュの量は5ml
ボトルの容量は500mlとします。
上記仮定より、
(6000万人 × 1.2回/日 × 365日 × 1プッシュ × 5ml + 6000万人 × 1.2回/日 × 365日 × 3プッシュ × 5ml)÷ 500ml ≒ 10億本
これに当時自分が買っていたTSUBAKIだと一本500円くらいなので、
市場規模は約5,000億円と考えられます。
という流れを紙に書きながらノンストップで回答。開始して10分程度しかたっていなかったと思う。
もちろん、多少粗い回答なのは分かっていた。男性、女性で6000万人づつと言っても、乳幼児や超高齢の方は毎日シャンプーを使わない可能性もあるし、ワンプッシュの量やボトルの量も感覚でしかない。ただこの構造式と計算をスーパースピードで見せることに意味があると思った。
実際のシャンプーの市場規模は4000億円程度だと思われるので少し大きく出てはいるが、十分許容範囲だと思う。
以下富士経済のヘアケア市場レポート↓
http://www.group.fuji-keizai.co.jp/press/pdf/170713_17063.pdf
戦略コンサルの採用担当の目線でこの回答を振り返った時に、良かったと思うポイントは三つ
計算の中でしっかりと「女性」「男性」というセグメントを意識していること。
→シャンプーという商品において、性別は消費量、ニーズともに大きく異なる。その後の打ち手にも関係する部分なので、セグメントを分けていることが好印象。当時これが出来たのは、数多くのフェルミ推定を考えることで、有効なセグメンテーションを設定する意識が磨かれていたからだと思われる。
計算をリアルタイムでさくさくと行ったことで、「計算力」をアピールできたこと。
→この時から自分の中で「型」になったのがこの方式。世帯数や建物の数など、計数を暗記していることと、何度もフェルミ推定を考えることで、桁の感覚を持つことができ、スラスラと暗算していける。
細かすぎず、粗過ぎない分解。
→「ケース面接」と「自分一人で解くフェルミ推定」の最大の違いは何か?それは、制限時間。ゆるすぎる分解は思考の浅さを露呈してしまうが、一方で分解を細かくしすぎると、その計算に追われていつまでたっても答えが出てこない。今回の場合でも、「一日のシャンプーの数」「一回のプッシュ数」などはある程度分けているが、人のセグメントは「女性」「男性」程度しか分けていない。年齢でこれを分けるとさらに細かい計算になっていただろう。こういう場合は一度一通りの計算をした後で「より詳細に分析するなら〇〇の仮定を深掘りします。」と言うのが好印象。
面接官からも「すばらしい。」と一言。かなりの手応えを感じる。
二次面接続行
単なるフェルミ推定としてはこれで十分と考えたのだろう、次の質問が飛んでくる。
では、「あなたが化粧品メーカーなら、どうやってシャンプーの売上を伸ばしますか?」
議論しながらやっていきましょう。と言われる
面接官:どう考えますか?
アセルス:まず、女性市場と男性市場は別物と考えます。女性はシャンプーに対して大きく拘りがあり、一つのブランドにある程度拘る傾向がある。ブランドの切り替えは大変で、多くの競合が存在。一方男性用シャンプー市場については目立ったブランドはありません。(*当時は目立った男性向けシャンプーは販売されておらず。)
面接官:なるほど。
アセルス:ですので、女性向けのシャンプーを開発、プロモーションしても大きなシェアアップや売上アップは難しいと考えます。そこで男性向けのシャンプーにフォーカスしたいと思います。
面接官:アセルスさんもおっしゃるように、もし男性がシャンプーに拘りがないとすると、一度は買ってくれたとしても、安いブランドに流れてしまうように思いますが。
アセルス:はい。ですので、男性にとって最も関心の強いニーズを捉えるシャンプーを開発します。
面接官:それは何でしょうか?
アセルス:抜け毛対策用のシャンプーです。例えばある程度抜け毛が進んでいる男性が、このシャンプーを使い続けることで抜け毛を防止し、毛の成長を促進するようなシャンプーを開発します。リアップのシャンプー版のような商品です。それが可能な開発チームがいれば、ですが。
面接官:なるほど。それは面白いですね。一旦開発可能かどうかの議論は置いておいて、開発できたとしましょう。ただ、男性シャンプーの市場規模は女性の三分の一と小さいですが、インパクトはありますか?
アセルス:このシャンプーは使えば使うほど効果があるシャンプーとします。つまり夜と朝など12時間に一回使った方が効果が高いシャンプーとします。これによって男性のプッシュ数が女性より少なくても、シャンプーの回数を増やすことで消費量を増やすこともできます。
面接官:最後に質問です。競合が同じ戦略をとってきた時はどうしますか?
アセルス:まずは抜け毛効果で他社に勝たなくてはいけないと思います。その上で、最初に販売することでブランド力を早急に作ることが重要だと思います。
かなり良いできだったと思う。ブーズの面接で生産性のない突っ込みをしていた頃と比べると、自分でも驚くほどの変化だった。
この回答の良かったポイントは
ターゲットをしっかりと絞っていること、また絞っているロジックがある程度あること
→ターゲットを絞ることはできるが、思いつきの場合も多い。「市場の魅力度」「競争環境」「自社優位性」などが理由になり得るが、この中で「競争環境」を背景に説明している部分に納得感がある。現在は男性向けにもある程度シャンプーブランドが出てきているが、就活していた頃は、ほぼ皆無だった。
セグメントニーズをしっかりと捉えていること
→「抜け毛が治るシャンプー」反則技のような商品ではあるが、男性にとっての抜け毛問題が非常に大きなニーズであることは事実なので、そこにフォーカスしていることは良い
「シャンプーの回数を増やす」という発想がアウト・オブ・フレームであり、面白い
→単なるシェア奪取だけでなく、市場のパイ自体を広げようとする発想が打ち手に含まれていることが良い。またそれを広げる方法として、「二回やれば効果が上がる」という理由づけもちょっと無理はあるがある程度受け入れられる。これも抜け毛予防というニーズに対する商品だからこそ可能な戦略であり、結果としてセグメントの選択が一石二鳥の役割を果たしている。
余談だが、この頃は「抜け毛防止のためのシャンプー」という発想は『そんなもんあったら苦労しねーよ』というレベルのアイディアであり、当時の自分も(まあそんなん開発できないだろうけど…)くらいに思いながら発言していた。
その後、自分が戦略コンサルで働き始めたあとで、自分のケースの話は的中する。
そう、スカルプDが大々的なコマーシャルと共に発売され、バカ売れした。
もちろんスカルプDは当時の自分が想像していたR&Dドリブンな商品というよりは、ブランディングドリブンな商品だし、1日に複数回使用することを推奨したりはしないが、概ねターゲットセグメントやコンセプトは考えていた通りであった。
面接官の反応も、最後の方はにやけていた。
採用面接をやったことがある人なら分かるかもしれないが、「気持ちいいくらいいい回答」をされた時は思わず笑ってしまうことがある。その状態だったように思う。
最後に十分程度雑談をして、『またお会いできるのを楽しみにしてます。』と言ってもらえた。
会場を出たあと思わずガッツポーズ。自分を褒めてやりたくなった。
後日合格通知が届き、二次面接へ向かうことになる。
(後編へ続く)
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