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石ころと女の子

これは私が保育園に通っていた頃の話である。

何歳の頃かは定かでないが、記憶があるのでおそらく5歳前後と思われる。なので平成5年頃の話だ。



晴れた日だった。自由時間のかたわら私は友達としゃがみ込み、地面に石ころで絵を書いていた。その頃、私は絵を描くのが好きだった。
筆(石ころ)に迷うこともなく、保育園の一角の地面にもくもくと絵を描き続けていた。

程なく、絵描に満足した私たちは違う遊びをすることにした。その時、使っていた石ころを後手で放った。



しばらくして、保育園の建屋前が騒がしくなっていることに気が付いた。何があったのかと思いそちらへ向かうと、どうやら女の子が怪我をしたらしい。
先生が何か叫んでいる。それは思いもがけない言葉であった。

「この子に石を投げ付けたのは誰ですか!?」

先生の手には、先程まで私が絵描きに使っていた石ころが握りしめられていた。

あ、それ、私だ。



信じられなかった。
女の子に怪我をさせるような悪人がこの保育園にいるのかと戦々恐々としていたのも束の間、その悪人は他で無い私だったのである。
何とも言えない居心地の悪さを感じた。おそらくこれが、私が初めて覚えた罪悪感だったと思う。

弁明という訳ではないが、私はそれが故意ではなかった旨を先生に伝えた。しかし、犯した罪が無くなる訳では無い。女の子は頭を縫う大怪我を負っていた。

その夜、私は母親と一緒に女の子の家に謝罪へ行った。頭を下げる親の姿を見るのは何とも苦い時間であった。その時、私がどうしたのかは、覚えていない。



大人になってから、この女の子が当時両親からひどい虐待を受けていたらしく、問題になっていたという話を聞いた。

私の胸に嫌な感覚が滲んだ。
この期に及んで石をぶつけてしまったのかという罪悪感もあったが、もしかしたら、私が石を放り怪我をさせたせいで、女の子は親からひどい叱責を受けたかも知れない、怖い目にあったかも知れない、もしくはもっと想像もできない酷い事をされたかも。。。と考えた。

しかし、あれはもう数十年も前の出来事だ。
今更真相を知る由もないし、詮索する程に趣味も悪くない。何よりこの事実は遥か過去の物だ。気にしないでおこうと、そう決めた。

そう決めたのに、それでも今もふとした瞬間に思う。


あの女の子、元気にしてるかなぁ、と。

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