見出し画像

お酒の知識・中巻

まえがき

上巻に続き、概略を平易に記している。
もとを辿ればこの記事は私がソムリエやその他資格をとるために書いた手記を参考にしている。
ともあれ、この頻度からくる本業のバーテンダーはどうしたと言われそうだが、暇な時に貪欲に知識を蓄えてこそ、人格の陶冶に磨きがかかるというものだ。掃除も大事だが、しかしSNS営業などの経営そっちのけであることは留意しつつ、ただただ勉強に励みたい心持ちである。

お酒の製造方法

上巻では各国の国酒を紹介し、それが何の材料によって出来ているかを記した。当稿では、その製造過程の概略と一部備考を記している。

<ウイスキー>

ウイスキーは下巻でより詳しく扱う。

原材料によってひとまずの味わいの方向性が決まる。
トウモロコシ・・・より甘め
ライ麦、小麦・・・すっきり
大麦・・・甘め

麦の発芽を止める方法で香りが大別化される。
機械的な熱風や温水・・・原材料の香りが強調
焚き上げによる熱風・・・石炭や木炭であれば炭っぽさ、焦げた印象がダイレクトに、枯れ木や植物層(ヒース)であれば独特の煙くささが付与

多くのスピリッツと同じく、穀物を原料に蒸留を行う。
蒸留2回・・・ある程度モルト感がのこる。
蒸留3回・・・雑味が減り、よりクリアになる。

おおまかに生産地方で香りや味に傾向性がある。
(スコッチの場合)
ハイランド、スペイサイド → 華やか
ローランド → すっきり
アイラ → 煙臭く薬品臭
アイランズ → 多種多様
キャンベルタウン → 塩っぽさと麦っぽさ
(アメリカの場合)
トウモロコシの比率と熟成年数で変わる。
トウモロコシの比率が高いと甘め、グレーンが多いとすっきり。
熟成年数が若いと荒々しく、ながいとまろやかに。
(アイリッシュの場合)
多くが蒸留3回なのですっきりしている。
(カナダの場合)
小麦やライ麦が多いのですっきりしている。
(日本の場合)
企業によって違うが、作り方はスコッチと同じ。
すっきり、甘めが好まれる。
(台湾の場合)
暖かいので若くても熟成がはやく、華やか。

ウェアハウス(貯蔵庫)がどのような環境にあるかでも風味が変わる。
・寒ければ熟成はゆっくりすすみ、暑ければはやくすすむ。
・内陸は風の影響をあまりうけず、海岸や港に位置するものは潮風の影響をうける。

どのような樽で熟成されたかでおおまかに区別できる。
アメリカは必ず新樽なので木の影響がダイレクトに出る。

バーボン → 華やかでいてオークの香りなど
シェリー → 入っていた酒精強化ワインの影響が色濃い。
フィノはフルーティーでありながらスパイシー、
オロロソ~ペドロヒメネス(PX)はフルーティーで甘口に仕上がる
ワインカスク → その地方のワインの特徴がでる。
ポートなら甘口、シャルドネなど白ならやや辛口、
ブルゴーニュなど赤ならフルーティさなど。
主に長くは寝かせず、後熟に使われるのが一般的。

熟成する樽の大きさによっても変わる。
大きい・・・樽と触れる面積が大きいので熟成が早い
小さい・・・熟成が遅い

熟成期間によって変わる。
長い・・・良くも悪くも、より樽の影響をうける。
短い・・・多くの国で最低期間が設けられる。(2~3年)

瓶に詰めたら、以後瓶の中で熟成が進むことはない。
(劣化はあり得るが進化はない)

<ジン>

ジンの祖先はオランダのジュネヴァにある。
(主な種類)
1.ロンドン・ドライジン 人工香料、着色は行わない。
2.ディスティルドジン 着色・香り付けされたもの。
3.スロージン スロープラム原料のリキュール。
4.バレルエイジド・ジン 樽熟成を行ったもの。

近年、2が増えてきている理由は
「味がわかりやすくインパクトがある」ということに尽きる。

<覚えておきたい有名なジン>
※四大ジン
ビーフィーター、ゴードン、
ボンベイサファイア、タンカレー
その他よくバーで使われるジン:
プリマス、ブードルス、ヴィクトリアンバット
香り付けがされたジンの代表:
ヘンドリックス、モンキー47
有名なドイツのジン:
シュタインヘーガー
少量の糖度が混入される甘口のジン:
オールドトムジン

<著名な国産ジン>
ギルビー(アサヒ)
六/翠(サントリー)
季の美(京都蒸溜所)
ゴトジン(五島つばき蒸溜所・長崎)
アカヤネ(佐多宗二商店・鹿児島)
和美人(マルス津貫・鹿児島)
ヒナタ(京屋酒造・宮崎)
桜尾(中国醸造・広島)
欅(新澤醸造店・宮城)
コズエ(富士白蒸留・和歌山)
カノモリ(養命酒製造・長野)
まさひろ(まさひろ酒造・沖縄)
コマサ(小正醸造・鹿児島)
オーディナリー(Motoki蒸研ヤマレスト・京都)

<ウォッカ>

原材料は便宜上「じゃがいも」と記したが、
でんぷん質があればなんでも原材料にできる。
代表例:
スミノフ、アブソルート、スカイ、シロック、グレイグース、
ヴェルヴェデール、ベルーガなど

<ラム>

砂糖を製造する際の副産物である廃糖蜜(モラセス)のみをアルコール発酵原料として使用する。蒸留酒の熟成に関しては、オークの木樽に入れて樽香を付けながら熟成されることが多いが、必ずしも木樽を使うわけではない。

(蒸留行程での変化)
ライト・ラム 連続式蒸留器で蒸留。風味も香味も弱い。
ミディアム・ラム 単式・連続式。風味も香味も中間的。
ヘビー・ラム  単式蒸留器で蒸留。風味も香味も強い。

(製造工程での変化)
インダストリアル製法
サトウキビから砂糖を精製分離した後の副産物であるモラセスを原料とする古典的製法。

アグリコール製法
サトウキビの搾り汁を直接原料とする製法。

その他
サトウキビの搾り汁を加熱し、シロップ化したものを原料スパイスト・ラム
インダストリアル・ラムにバニラなどの香辛料で香り付けを行ったものや、フルーツやハーブを漬け込んだもの。(ハイテストモラセスラム)

(代表的な銘柄)
キャプテンモルガン、バカルディ、ハバナクラブ、マイヤーズ、レモンハート、ロンサカパ、ロンリコ、トロワリビエール、ディプロマティコ、パンペロ・アニバサリオ、ディクタドール

<メスカル(テキーラ)>

メスカルはリュウゼツランを主原料とするメキシコ特産蒸留酒の総称。
特定のリュウゼツラン品種から法定産地で製造されるものをテキーラと呼ぶ。

(種類)
テキーラ100%アガベ(Tequila 100% de Agave)
副原料(主に砂糖のこと)を用いないもの。
ラベルには必ず「100% de Agave」刻印がある。
別名、プレミアムテキーラ。

テキーラ(Tequila)
主原料アガベと一緒に発酵させる副原料の使用は49%まで認められており、副原料も一緒に発酵させたもの。

(クラス(熟成度))
ブランコ(Blanco/Silver)
製造されすぐに瓶詰めされたもの。
テキーラの風味・特徴がはっきり現れる。

ゴールド(Joven/Oro/Gold)
ブランコと熟成されたものをミックスさせたもの。

レポサド(Reposado/Aged)
2ヶ月〜1年未満樽で寝かせたもの。

アニェホ(Añejo/Extra Aged)
最小600リットルのオーク樽で1年~3年寝かせたもの。

エクストラ・アニェホ(Extra Añejo/Ultra Aged)
3年以上寝かせたもの。

※テキーラの誤解
テキーラはサボテンが原材料ではなく、リュウゼツランというリュウゼツラン科の単子葉植物。

(著名な銘柄)
サウザ、クエルボ、パトロン、ドン・フリオ、エラドゥーラ、オルメカ、ポルフィディオ

<ブランデー>

ブランデー(フランス産のお酒)については、後述します。

(コニャック)
白ブドウの果汁を絞り、ワインを作ってからワインを蒸留して得られる。
単式蒸留器で多くのウイスキーのように2度蒸留してから、樽熟成させる。
少なくとも2年以上寝かせ、またシャラント県のコニャック村付近でないと、コニャックというアペラシオンを名乗ることはできない。

(等級)
たまに文献によって言っていることが違うが、
要はコニャックとアルマニャックの等級の区別法は違うということ。
(詳しく後述する)

VS(ベリースペシャル)・・・最低2年熟成。
スリースター・・・同上。
VSOP(ベリー・スーペリア・オールド・ペール)・・・最低4年熟成。
XO(エクストラ・オールド)・・・最低10年熟成。
ナポレオン・・・最低6年熟成。
オールダージュ・・・特例。
<有名なコニャック>
ヘネシー、カミュ、レミーマルタン、マーテル、クルボアジェ

(アルマニャック)
同じく白ブドウの品種が使われる。
蒸留器はウォッカなどと同じで、連続式蒸留機。
飲む時は空気にゆっくり触れさせる。
アルマニャックはバルーンではなくチューリップ型のグラスが望ましい。

(等級)
VS・・・最低1-3年熟成。
スリースター・・・同上。
VSOP・・・最低4年熟成。
オールダージュ・・・10年以上熟成。
トレ・ヴィエイユ・アルマニャック・・・20年以上熟成。

<有名なアルマニャック>
ジェラス、ド・モンタル、サン・ヴィバン、シャボ

(カルヴァドス)
別名「体を温めるシードル」と呼ばれるらしい。
生産者はどのような商品を作りたいかまず想像し、その上で三種のリンゴ「甘味」「酸味」「苦味」に寄ったリンゴをうまく配合し、まずシードルを作ってからそれを蒸留する。

(種類)
等級はないが産地統制がある。(AOC)
カルヴァドス・・・
ノルマンディーのシードルから作られ、最低2年間熟成。
ペイ・ドージュ・・・
単式蒸留器を使用し、ペイ・ドージュ産のシードルで最低2年間熟成。
ドンフロンテ・・・
連続式蒸留機を使用し、ドンフロンテ産のポワレ(洋梨)を30%使用し、最低3年間熟成。

<有名なカルヴァドス>
ブラー、ポム、シャトードブルイユ、クールドリヨン

(グラッパ)
イタリアの蒸留酒。 
ワイン醸造で残るブドウの絞り粕で製造されるグラッパは、ブドウには捨てるところがないということが理解できるたいへん興味深い蒸留酒となっている。例に漏れず、どの品種を使ったか、樽熟を行ったかどうかで味わいが格段にわかれる。

(主な種類)
1.若いタイプ 熟成なし
2.熟成タイプ オーク樽で最低12ヶ月熟成
3.オールドタイプ オーク樽で12-18ヶ月熟成

<ビール>

チェコはピルスナー発祥の地。
低温殺菌法が開発され、はじめておいしいといえるビールがはじまった。
ピルスナーは下面発酵なので、ラガービールとなる。
代表例:
日本のビールの99%がピルスナー

イングランドはポーター発祥の地。
もともとはいろんなビールを混ぜた結果できたもの。
スタウトはポーターより度数が高く、より強烈で重みがあるものとしてカテゴリが独立したが、本来はスタウト・ポーターなので、同じお酒。
焙煎した麦をつかうので色が濃く、樽熟成するので味わいも深い。
つまり、黒ビールのこと。
通常、冷やして飲まない。(好みの問題ですが)
代表例:
ギネス(スタウト)
  
ベルギーはトラピスト発祥の地。
トラピスト会修道院の監督のもと作られるビールのことを指す。
認可されればベルギー国外でも可能。(現在11箇所)
代表例:
シメイ、オルヴァル

ドイツはヴァイツェン発祥の地。
1516年、麦を製パンに割り当てるためにビール純粋令を発布。
これによりビールの製造が厳しくなり、19世紀初頭までにドイツに醸造所はわずか2件しか残らなかった。
ヴァイツェン醸造所が盛り返したのは1980年から。
(主な種類)
1.クリスタル  白色、ろ過あり
2.ヘーフェ   オレンジ色、ろ過なし
3.ドゥンケル  栗色、ろ過なし

アメリカはIPA=インディアンペールエールが代表的だが、これはもともとはインドと交易していたイギリスが発祥で、保存料としてビールに多量のホップを投入したのがはじまり。
税金の値上がりや戦争なので、贅沢な作り方であるIPAは徐々に忘れ去られていくが、良質なビール作りを目指すクラフトブームに乗っかり、IPAも復活をとげる。
製造には実に230のホップ品種が吟味され、多くのビールよりふんだんに使用され、味に複雑さをそえる。
(種類)
・アメリカンIPA 苦味が強い
・セッションIPA 軽め、ほのかに苦い
・ブラックIPA 焙煎麦芽を使用。(黒ビール風)
・ニューイングランド クリーミーでアロマチック。
・ダブルIPA アルコール度が高く、かなり苦い。

<ワイン>

(フランス)
フランスのワインといえば、やはりまずは2000年以上の歴史をもつブルゴーニュワイン。この地帯は堆積物が集中する断層線が伸びており、独特な土壌を形成しており、特徴のひとつとして「モノセパージュ」がある。
(一品種のブドウのみで作られる)
白はシャルドネ、赤はピノ・ノワールのみ。また、ブルゴーニュワインが世界全体で占める割合は1%以下であるにも関わらず、高価格ワイン50種のうち、32種がブルゴーニュワインという、たいへん上質なワインの産地として世界に名高い。
(代表的な地区)
1.シャブリ
2.コート・ド・ニュイ
3.コート・ド・ボーヌ
4.コート・シャロネーズ
5.マコネ

次に、ボルドーワイン。
1855年、パリ万博の際にナポレオン三世が格付けを決定したことを期に、
グラン・クリュ・クラッセ(第一級~第五級)として、ワインの等級を厳格に決定づけ、今に至っている。
ブルゴーニュと違い、ボルドーのワインは基本的にはブレンドで、
ブドウの品種ごとに醸造してから混ぜる様式をとっている。
メドック・グラーブといった大西洋に面した西岸はカベルネ・ソーヴィニヨン、リブルネなどの右岸はメルロを使うのが主体的。

また、近年ボルドーは地球温暖化の影響をうけているとされ、ワインのアルコール度数はブドウの成熟度に左右されるが、30年前はボルドーワインは9%前後であったにも関わらず、現在は15%程度となっている。

著名ではあるが、高級ワインの五代シャトーは全てボルドーワイン。
1.シャトー・ラフィット・ロスチャイルド
2.シャトー・マルゴー
3.シャトー・ラトゥール
4.シャトー・オー・ブリオン
5.シャトー・ムートン・ロスチャイルド

次に、シャンパン。
シャンパンの先駆者は修道士ドン・ペリニョンである。
美味なワインを作るために複数のブドウのブレンドを思いついたことがはじまりで、現在もこの手法がとられており、区画や年などにこだわらずブレンドされている。
栽培種はピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエのみ。
ブラン・ド・ブラン(白の白)と呼ばれるものはシャルドネのみ、
ブラン・ド・ノワール(黒の白)はピノ・ノワールやピノ・ムニエが使われている。
シャンパンは白ぶどうと黒ぶどうの生産率はほぼ半々ではあるが、どちらにせよ皮部分を使わないので、シャンパーニュは白色になる。
シャンパンの気品は泡に宿るといわれており、実際に泡はアロマを立ち上がらせ、グラスの上部へ運ぶ重要な役割を担っている。
そのため、グラスを傾けるのはシャンパンでは厳禁とされる。

(ドイツ)
リースリングは白ワインの一種。
グレ・ブランという品種から派生し、ライン地方産が格別とされる。
通常、他のブドウを混ぜない製造法がとられ、シャルドネ、シュナン、ソーヴィニヨン・ブランと並び、白ワインとして最上に位置する。
ドイツのワインはアイスワインという認識が巷にあるが、これは間違いであるらしく、通常現地では冷やして飲むことはないようで、また保管力にも優れており、上質なリースリングは10年以上劣化することがないとされる。

(アメリカ)
アメリカのワインの9割はカリフォルニア・ワインである。
ひとつの特徴として、醸造家とワイン栽培者は分業制であり、兼業はすくないことが挙げられる。そのためか、他国と違って使用されるぶどうの品種は100種以上と多い。
そのぶどうたちはのびのびと1000kmにわたる太平洋沿岸にわたる畑で、爽やかな海風をうけて育つ。そのなかでもノースコーストと呼ばれる北部には有名なナパ・ヴァレーやソノマがある。

(オセアニア)
フランス・ローヌ産のぶどう「シラー」を、オーストラリアではシラーズと呼ぶ。高級オーストラリアワインはシラー100%が多く、またタスマニア州はシラーの栽培に向かないとされる。アデレード北西、バロッサ・ヴァレーが秀逸とされ、新世界ワインでも高価に取引される傾向がある。
対してニュージーランドだが、基本はフランスのぶどう種が根付いたが、
ニュージーランドではソーヴィニヨン・ブランが格別とされている。
ニュージーランドを中央で割るように南アルプス山脈が縦に伸びているので、その山脈が湿った西風を防ぐため、上質なワインができるとのこと。

(ラテンアメリカ)
チリは世界中のぶどうを死滅させたフィロキセラ害虫の被害を受けなかった国としても有名である。フランス産のメルロー主体だったが、偶然メルローのなかに別の品種を発見したことで、カルメネールというメルローよりゆっくり熟成する粒の大きいぶどうがチリワインの代名詞となった。
味としては丸みがありスパイシーで、まったりとしているのでペアリングは難しいとされるが、味の濃い料理とであればまずまず合う。

アルゼンチンもチリにならって大量生産ではなくクオリティ重視にシフト。
メンドーサ地域には国内生産の7割が集中し、マルベックという種を主に栽培している。マルベックは別名黒ブドウと呼ばれ、フランスでは色合いの足しとして、特にボルドーでは多くても5%程ブレンドする傾向があるぶどう種のこと。

<酒精強化ワイン>
(ポルトガル)
ポルトガルの酒精強化ワインをポートワインと呼ぶ。
発酵中にブランデーを投入することで酵母が非活性化し、果糖が残るのだが、このため長期保存が出来るようになり、また独特の甘さが残ることになる。
(種類)
・オーク樽で熟成した酸化熟成ワイン
・瓶内熟成した還元熟成ワイン。
ウイスキーの樽になるのは、前者。

白・・・白ワインをブレンドし熟成。
ロゼ・・・赤ワインをブレンド。熟成なし。
ルビー・・・赤ワインをブレンド。瓶で2年熟成。
タウニー・・・赤ワインをブレンド。樽で5年熟成。

(スペイン)
スペインの酒精強化ワインをシェリーと呼ぶ。
蒸留酒を混ぜて酵母を非活性化させるのはポートと同じだが、
シェリーに使われるのは白ワインのみである。
また、ヴァン・ド・ヴォワルと呼ばれる敢えて樽内に酸素を残してワインを酸化させる手法は、シェリーならでは。
ブドウの栽培地域は特に限定はないが、熟成は以下3つの地域でなければならない。

1.ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ
2.プエルト・デ・サンタ・マリア
3.サンルーカル・デ・バラメダ

(種類)
大きく分けて2つある。
フィノ・・・自然熟成。(辛口)
オロロソ・・酸化熟成。(甘口)

細かく分けると、より複雑化する。

フィノ・・・同上。
マンサリーニャ・・・サンルーカルで作られたフィノ。
パサダ・・・マンサリーニャの熟成がすすんだもの。
オロロソ・・・同上。
アモンティリャード・・・フィノを酸化熟成させたもの。
クリーム・・・オロロソに甘味を加えたもの。
モスカテル・・・モスカテル種を使ったもの。
ペドロ・ヒメネス・・・ペドロ・ヒメネス種を使ったもの。

(熟成方法)
ソレラ・システムという画期的な方法がとられる。
ワインを詰めた樽は3~4段に積み重ねて保存し、上の段から順に新しいワイン、一番下にくるのが一番古いワインが入った樽が保管される。
瓶詰するときには下段の樽からワインを一部取り出すが、このとき樽内のワインを3分の2以上残す。そして、取り出された分の量をすぐ上の樽から補充する。出荷するワインの品質を常に一定にする方法として名高く、ウイスキー業界にも多大な影響を与えている熟成方法である。

(イタリア)
イタリアの酒精強化ワインを、ベルモットと呼ぶ。
酒精強化した白ワインに、多種多様なハーブを加えたもの。
製造にはワインの比率が75%以上、度数が14.5-21%以内、
アブサンにも使用されるニガヨモギを使用することとあるだけで、
製造は基本的に自由がきくため、ベルモットを手掛ける会社はすべてレシピを非公開にしていることが特徴。

主な種類:
セッコ、ビアンコ、ロッソ

<リキュール>

(スイス)
アブサンは、フランス人医師、アンリ=ルイ・ペルノが医療として処方したのがはじまり。アンリはこれが流行ると考え、蒸溜所を設立した。
スイスから遠くフランスまで届いたアブサンの噂は、フランスのワインの売上を落とすほどにまで広まったため、アブサンの主成分であるニガヨモギ――抽出体のツジョンに毒性があるとワインメーカーはこぞって喧伝した。ツジョンは大麻のテトラヒドロカンナビノールと分子構造は似ているものの似て非なるものであり、毒性といいつつそれは多量摂取した場合に限る。
酒である以上、多量摂取すれば一様に毒性は生じることは当然なのだが、
その後、成分量を変更したりなどより安全化に努めたアブサンであったが、今でも欧州では危険な飲料というイメージは払拭されていない。

(フランス)
別名リキュールの女王、シャルトリューズ。
もともとは長寿薬として配合されていたもので、長くそのレシピは秘伝とされ、現在でもレシピを知っているものはシャルトリューズの修道士二人だけという極めて伝統的な相伝方法をとっているそう。(ロマンある)
主にヴェール(緑)とジョーヌ(黄)が流通している。

(イタリア)
カンパリの創業者はピエモンテのガスパーレ・カンパリ。
彼は14歳にして酒造をはじめ、1860年にようやくミラノで店舗を経営することに成功。そうしてオープンしたのが「カフェ・カンパリ」。
現在でも続くミラノの社交場である。
現在、彼の息子が会社を大きくし、カンパリ社となってからリキュール部門で世界7位の巨大企業となっている。
もちろん、レシピは非公開。

<日本酒と焼酎>

(日本酒)
麹が発見されるまで、おおよそ2000年前から日本酒は人間
(主に巫祝の女性)が噛んで作っていた。
これは唾液が米のデンプンを糖に変え、発酵を促すからである。

さて、日本酒の質は、主に以下にかかっている。

・杜氏(とうじ)の腕前
・良質な水
・米の出来具合

加えて、米の研ぎ具合も重要。
磨けば磨くほど洗練され、上質かつまた高価になっていく。

米だけを発酵させたものを・・・純米酒
醸造アルコールを添加するものを・・・吟醸酒

また、日本酒の特徴のひとつとして、温度がある。
5度まで冷やすもの、50度ほどまで温めるものと様々で、
同じ銘柄でも温度が違えば、まったく味わいが変わるのも日本酒のひとつの特徴である。

5度・・・雪冷え
10度・・・花冷え
15度・・・涼冷え
20度・・・冷や
30度・・・日向燗
35度・・・人肌燗
40度・・・ぬる燗
45度・・・上燗
50度・・・熱燗
55度・・・とびきり燗

(焼酎)
実は国内において、消費量は日本酒より焼酎のほうが多い。
製造は温暖な南が向いているとされ、原材料の香りを残すことを重点的に
考えられて作られている。
(主な原材料)
小麦、さつま芋、米、そば粉、紫蘇、黒糖、とうもろこし、ピーナッツ、グリーンピース、海藻など様々

単式蒸留器を使うと・・・本格焼酎
連続式蒸留機を使うと・・・甲類焼酎

水割りの時は酒が先、お湯割りの時はお湯が先という
作り方のルールがある。

ソムリエのためのフランス地域備考

<ブルゴーニュ>

パリからみて東南部、リヨンの北部に位置する。
コート=ドール県、ニエーヴル県、ソーヌ=エ=ロワール県
ヨンヌ県から成るが、やはり覚えるべきはコート=ドール。
ワインの銘醸地は、まさしくこのコート=ドールのことで、
赤はピノ・ノワール、白はシャルドネが代表銘柄なのは周知のこと。
フランスの家庭料理として著名なブフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)発祥の地でも知られる。ウォッシュチーズの代表であるエポワスの名産地としてもしられる。(行きてぇなぁ)

<ロレーヌ>

ミラベルはとりあえずおいておくとして、アルザスとシャンパーニュというワインの銘醸地の間に位置するロレーヌ地方では、やはりワインが生産されており、メジャーではないものの知っておいて損はない。
これは余談だが、世界史好きな人たちにとっては、アルザス・ロレーヌは質はそれほどでもなかったようだが鉄鋼の地であり、そのため同地域は国境を接しているドイツと何度も領有を争った経緯がある。筆者はそれほどヨーロッパ史に詳しくないのであまり書くとボロが出るが、フランス民族主義者アルフォンス・ドーデの「最後の授業」にてその領有権の移動にあたってのセリフ「明日からはフランス語ではなくドイツ語を学ぶ必要がある。フランスよ、万歳」は有名だが、もとを辿れば同地域は神聖ローマ帝国領域であるためか、きわめてドイツ語に近い言葉を今でも喋っているらしく、実際のところ現地の人々は困ることはなかったらしいという話をきくと、やはり白人節はドラマティックだな、という話である。勿論これは、お酒は関係がない。

<エペルネー>

エペルネーといえばシャンパン。シャンパンといえばモエ・シャンドン。
そんなモエの本社がある土地として有名なエペルネーは、アクセスもたいへん良好。パリ、或いはシャルル・ド・ゴール空港から車でどちらも2時間圏内という近さ。シャンパン飲み歩きと車はなんの親和性もないけれど、観光としてはたいへん魅力的な近さだ。
ちなみにエペルネー近郊の村、オーヴィレにはドン・ペリニョンの修道院がある。

<ノルマンディー>

この稿ではシードルのことは書かない。シードルの蒸留酒、カルヴァドスのことを扱う。そしてひとくちにカルヴァドスといっても、色々あるということを書いた。

カルヴァドスには、ワインと同じAOC(原産地呼称規制)がある。
カルヴァドスのAOCは、
「カルヴァドスAOC」
「カルヴァドス・ドンフロンテAOC」
「カルヴァドス・ペイ・ドージュAOC」の3つがあるのだが、このなかでは
ペイ・ドージュAOCがより地域が限定化されたものになる。
そもそもノルマンディー地方とは、セーヌ=マリティーム県、
ウール県、カルヴァドス県、マンシュ県、オルヌ県から成り立つもので、
3つのなかでもより広域を指定しているカルヴァドスAOCでは、そのセーヌを除くすべての県に加え、別地域であるロラールのマイエンヌ、サルト、ウール=エ=ロワール県をも含む広大な土地であることを知っている人は少ない気がしている。
別にだからといって品質がペイ・ドージュに比べて圧倒的に劣悪であるとは無論ながら言えないが、ラベルに呉春と書いてあって裏の商品説明をみると丹波産と書いているみたいなものだろうかと思うと、なんだか不思議な気持ちになるのも仕方がない。

<シャラント>

シャラントときけばコニャックもそうだが、ピノー・デ・シャラントという酒精強化ワインを想起される方もいらっしゃるかもしれない。
今回はそれは名前だけに留めて、通常通りコニャックのことを書いていく。

コニャックと名のることができるのはシャラント県、シャラント・マルティーヌ県で作られるブランデーのみ。
前項で記したようにブランデーの製造にはまずワインを作る必要があるが、
このときに使われるぶどうは主に「ユニ・ブラン」種。
イタリアの「トレッビアーノ」種のことで、白ぶどうの一種だ。
またユニ・ブランは別名「サンテミリオン」とも呼ばれる。
これはフランス・ボルドーの右岸産地と名前が一緒なので混同しやすいから気をつけないといけない。
また、もう一つ間違いやすい呼称として、ぶどうの栽培区域の呼称についても触れておく。
「クリュ」とは要はフランス語で「畑」のことだが、そのコニャックにおけるぶどうのクリュの区域呼称が、たいへん紛らわしい。

シャラント=マリティーム県

地図にもあるように、区域の呼称は
・グランド・シャンパーニュ
・プティット・シャンパーニュ
・ボルドリー
・ファン・ボア
・ボン・ボア
・ボア・ゾルディネール(ボア・ア・テロワール)

もうおわかりかと思うが、コニャック生産地域のシャンパーニュは、フランス北東部にあるシャンパーニュ地方とは全く別の地域だ。
なぜこのような同名の名前になるのかというと、地域の土壌地質がどちらも白亜系に属するために、語源のルーツが一緒になるからだという説がある。

話がそれたが、他にコニャックに使用されるぶどうとしては、
・フォル・ブランシュ
・コロンバール
上記とユニ・ブランをあわせて三品種が最低でも全体の90%以上構成していることがAOCとして定められ、そういったことを“Appellation of Origin”通称BNICというコニャックを統制している機関が厳しく統制している。

等級についても加筆すると、まず大前提として
コニャックは2018年という年号を考慮する必要がある。
其の年に呼称規定に変更が入ったからである。
(ナポレオンという呼称は非公式だったが、この度明確に定義された)
・V.Sとスリースターズは同級。
 ブレンドに使用された最も若いオー・ド・ヴィーの熟成年が2年以上。
・V.S.O.PとReserveは同級。
 ブレンドに使用された最も若いオー・ド・ヴィーの熟成年が4年以上。
・Napoleonはブレンドに使用された最も若いオー・ド・ヴィーの熟成年が
6年以上。
・XOとオール・ダージュは同級。
ブレンドに使用された最も若いオー・ド・ヴィーの熟成年が10年以上。

ここで注目したいのは、全ての等級説明に「ブレンド」という言葉が使われていること。ごくたまにウイスキーとブランデーの製造工程を比べてウイスキーを――特に昨今のウイスキー・シングルモルトに対する神格化(?)感からブランデーを貶す傾向が、みられることがある。
製造地、原料、熟成工程等が全く違う飲み物を単純に比べることがすでに愚かではあるが、そもそも批判対象のことをよく知りもしないで論うことは単純に議論として破綻している。これは酒に限った話ではないが、批判者とは常に最上の理解者であるべきなのだ。

+ブランデーについて

というわけで、最後にブランデーについての理解をもう少し深めるために
いくつか記して終わろうと思う。

ブランデーについては、添加物論争が必ずついてまわる。
「ノンシュガーノンカラメル(加糖・加カラメル)」
という話はよく聞く話だが、前述したAOCには加糖やカラメルを禁止する条項はない。なぜないのかという歴史的背景を説明するのは今回はなしにするが、要はサントリーのオールドにカラメルとかなんやらが入っていた事件と内実はほとんど一緒である。

「長持ちさせて、またおいしく流通させるために必要な処置」
という前提のもと、あとは個人の感覚でそれらの商品を捉えるしかない。
それだけだと話が広がらないので、もうちょっと専門的なことを書くと、
EU諸国には「食品添加物に関する規定書」(2008年~)というものが存在し、それは無論ながらAOCより上位の理念であって、AOCはあくまでその基準に従っているに過ぎないということをまず留意すべきだ。
その規定には
「実際のアルコール度数と見かけ上のアルコール度数の差が4%以内」
とある。
ここで知っておきたいのは、

・TAS(true alcoholic strength)
・AAS(apparent alcoholic strength)
・Obscuration

という3つの言葉の存在だ。
これは酒類全般にいえることで、基本的に製造者がアルコール度をまずはかり(AAS)、公的な機関が再度アルコール度をはかる。(TAS)
ラベルに表記されるアルコール度は、無論TASのほうである。
Obscurationとは、そのまま意訳すると「不明瞭」――つまりは不純物のことだが、この中に上記添加物も含まれている。
ただ4%も砂糖やカラメルが入っているわけでは決してない。
製造者が意図していない、よくわからない謎の物質も混入している。
(なにかまでは知らない)
一説には1リットルにつきだいたい17グラムの加糖が行われれば4%に届きうる、らしい。大さじ一杯がだいたい15グラムだから、一回の飲酒でその全てを飲み干さない限り、気にしても仕方ない程度に思えなくはない。

補足として、原則ブランデーは単一のオー・ド・ヴィーというものを崇高視しておらず、複雑な香りを獲得するためには「ブレンド」という工程が重要な作業である、としている。
ブレンドを担当するマスター・テイスターは「メートル・ド・シェ」といい、品質が一定であるよう常に配慮し続けるという点において、ウイスキーのブレンダーとなんらかわりはない。
一部の地域では熟成年数が同一の原酒しかブレンドしない造り手もあり、これがブランデーでいうところのシングルモルトに位置するという説明もあるが、前述したようにブランデーに使うぶどうの品種はいくつもあるため、
ブランデーに「シングルモルト」という単一材料のみを使用した呼称を当てはめることは原則できない。(寧ろブレンドにおける熟成年数の比率の不明瞭さはウイスキーのほうが顕著)

そんなこんなで、なにがいいたかったのかもはや筆者にもよくわからなくなってきたが、無糖というカテゴリに執着するのであれば、やはりウイスキーだろうし、別にそこにこだわりがないのであれば、ブランデーだって嗜好品のひとつに変わりはない、という話である。

「どちらも製品として立派に統制されている」という観点からすれば、
国産ウイスキーのほうがブランデーより余程に怪しいだろうに、と筆者は思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?