沈黙診察の始まり
自分「… … …」
先生「… … …」
((あれ、ながいよ、沈黙))
▶︎クリニックはビルの上の階にある。フロアに着くと底面がすこしガクッと落ちる年季の入ったエレベーター。高所恐怖が強かった時期なら、まず乗るのを躊躇してしまう、そんなエレベーターで上へあがった。
▶︎問診票はHPにアップされていたので、あらかじめ知り得ていたが、来院理由は記述式で、選択欄は設けていない。ゆっくり記述できるよう、受診時間よりもかなり余裕を持って到着した。
▶︎受付を済ませ、問診票を埋めていく。氏名、職業、家族構成まではさらさらと書いた。が、来院理由でつまづく。書くことは決まっているのに書けなかった。しばらくすると、白い服を羽織った男性が、視界に入ってくるような。でも、自分にはまだ時間がある。
▶︎自分には時間はなかった。背後から声を掛けられた。
先生「◯番さん、どうぞ」
自分「あ、いや、まだ書けてなくて」
先生「途中までで結構なので、どうぞ」
((全然、結構じゃない))
▶︎先生が先に入室し、その開きっぱなしのドアを自分が閉め、やや低めのイスに座った。HPのイメージとはかけ離れた暗い印象。ローテンション且つこもったような声で、開口一番、「どうですか」と問われた、かもしれない。おそらく、そんな言葉を聞き取った気がする。挨拶無し、自己紹介無し、問診票無視(ほとんど埋まってないけれど)。先生側からつよい視線を感じた、ほとんど目を合わせられなかった。
そして、冒頭の沈黙。
▶︎ここまできても、伝えられなかった。頭の中の ″きしねんりょがあります″ を、音で映せばよいのに。それを発した後の話の展開や先生の反応が想像できない。声に出せないと、その考えが自分にとっての真理かさえも疑うようになる。
◼️あとがき
振り返ると、どうしても反応できない場面、というのが多々あった。それは、″頭の中で文章を組み立てている時間″ だったり、″声に出すGOサインを待ってる時間″ だったりする。