マガジンのカバー画像

【長編小説】清掃員の獏(完結)

20
夢の中ではお前の信じたものが真実になる。 目覚めたければ黙って俺を信じろ。 ◼あらすじ 自分の夢の中に閉じこめられた沙凪。 夢の住人・イミューンに襲われたところを、突然現れた男…
運営しているクリエイター

記事一覧

【長編小説】清掃員の獏(20・最終話)

前回 6  自分で持てるのに、荷物は全部父が持つと言って譲らなかった。退院手続きも母が全…

6

【長編小説】清掃員の獏(19)

前回 *   *   *  イミューンが完全に消え去ると、神谷は電池が切れたみたいにひざ…

2

【長編小説】清掃員の獏(18)

前回  ぐっと腰を落とし、床を蹴った。  沙凪との距離が十分にとれると、神谷は誘うように…

2

【長編小説】清掃員の獏(17)

前回 *   *   *  神谷の顔が凍りつく。  風の音に紛れて、ぺたんぺたんと気の抜…

3

【長編小説】清掃員の獏(16)

前回 *   *   *  神谷は駆けだした。  巨大なイミューンが広げた手の平を振り下…

2

【長編小説】清掃員の獏(15)

前回  目を開けると、沙凪の体に戻っていた。  自分の腕が、さっきと比べてずいぶん細く華…

4

【長編小説】清掃員の獏(14)

前回 5  しばらくすると、空澄は手招きして歩き始めた。 「どこへ行くの?」 「彼を迎えに行かなきゃ」  暗闇の中、ぼんやりと光って見える空澄の背中を追いかける。歩くのが速い空澄に置いていかれないように、沙凪はたまに早足になったり小走りになったりする。空澄は、沙凪がギリギリついてこられる速さを保って歩き続けた。  しばらく歩くと、暗闇の先が白くかすみ始めた。空澄はその手前で足を止める。 「彼が必要。沙凪だけじゃここから出られない」  空澄が横にずれて道を開ける。ここからは

【長編小説】清掃員の獏(13)

前回  彼女に反対されたことで、むしろ決心が固まったというのは皮肉だったけど、それからの…

3

【長編小説】清掃員の獏(12)

前回  深水と再び出会ったのは、社会に出てから数年後のことだった。沙凪が働いている文房具…

3

【長編小説】清掃員の獏(11)

前回  それ以来、彼女は抗議をやめた。けれど決して屈しなかった。壊れた持ち手を修理して、…

2

【長編小説】清掃員の獏(10)

前回 *   *   *  沙凪は小学校一年生で、初めての恋をした。  その日の授業は、…

5

【長編小説】清掃員の獏(9)

前回 4  横になって目を閉じたが、確かに眠ることはなかった。眠りの手前の穏やかな浮遊感…

1

【長編小説】清掃員の獏(8)

前回 3  扉を閉めた途端、コンクリートの崩れる音や柱の咆哮は、嘘のように消えた。  そ…

2

【長編小説】清掃員の獏(7)

前回  流れ出てきた冷気が、沙凪の足を包んだ。  部屋の中は完全な闇だった。廊下から射すわずかな明かりのおかげで、床があるということだけは分かる。それ以外は闇に飲みこまれて何も見えない。  胸の奥の方で、度胸がくしゃくしゃに縮み上がっていく。  沙凪は慌てて、かぶりを振った。  嘘でもいいから、できると言え。 「大丈夫。できる」  小さくつぶやき、部屋に足を踏み入れる。  部屋の中は、冷凍庫のように冷えこんでいた。肌がぴりっとはり詰める。吐きだした息が白くなった。  いよい