見出し画像

【未発表シナリオ】中野区人情物語「タコのはっちゃん 男一匹人情語り ~麗しの 白い天使は 結婚詐欺師!?~」

登場人物
 
八兵衛:元ホームレスのたこ焼き屋
一斎:町にある古い寺の住職
浜勝:八兵衛のたこ焼き屋の師匠
牧田静香:近くに住む女子高生
 
久米達也:自称親分の息子。詐欺グループのリーダー
山田:久米の仲間
蒲谷:久米の仲間
 
ヤス:ホームレス時代の先輩

宮代レイカ:謎の女性

■町中
 
何かに追われて走っているレイカ。
時折振り返ると二人の男が彼女を追いかけている。
見るからにガラの悪そうな二人組である。
振り切るように横道を入り、さらに入り組んだ道を走る。
やがて、見知らぬ町の商店街に出る。
前方に目をやると、たこ焼き屋の屋台が見える。
屋台の前には静香が立ったままたこ焼きを食べている。。
レイカは屋台に向かって駆けだした。
 
■屋台
 
たこ焼き屋では八兵衛がいつも通りたこ焼きを作っている。
たこ焼きをフウフウ言いながら食べている静香。
 
静香 「やっぱり、はっちゃんのたこ焼きは最高」
八兵衛 「高校生が立ったままたこ焼きを食うってのはなあ」
静香 「なによ文句ある?」
八兵衛 「絶対彼氏なんかできねえぞ」
静香 「じゃあはっちゃん、私とつきあっちゃう?」
八兵衛 「アホか」
静香 「あー! そーゆーこと言っちゃうわけ?あたしがすっごくいい女になったとき、後悔するよ」
八兵衛 「おー、ぜひ後悔してみたいもんだ」
 
そこへ、レイカが屋台に飛び込んでくる。
 
レイカ 「お願いします! 助けてください!」
 
一同、驚く。
 
八兵衛 「ど、どした?」
レイカ 「悪い人たちに追われてて!」
 
八兵衛が見ると、二人組の男が遠巻きに屋台を見ている。
 
八兵衛 「あいつらか?」
レイカ 「は、はい・・・」
八兵衛 「静香っ!」
静香 「はい!」
 
静香、屋台からたこ焼きをひっくり返す串を抜き取って八兵衛に手渡す。
それを受け取って、かっこよく構える八兵衛。
同じく、かっこよく構える静香。
どうする?という表情の男二人組。やがて、きびすを返して帰っていく。
 
八兵衛 「けっ、おととい来やがれ」
 
■近くの公園 ベンチ
 
ベンチに八兵衛とレイカ、静香がいる。
 
レイカ 「助かりました。ありがとうございました」
静香 「お姉さん、なんであんな奴らに追われてたの?」
レイカ 「いろいろあって・・・」
八兵衛 「言えないってか?」
静香 「でも追われてるって普通じゃないよ。まさか、あいつらのお金盗んじゃった?」
レイカ 「まさか」
八兵衛 「こんな綺麗な人がそんなことするわけねえだろ」
静香 「えーでも、気になるぅ」
レイカ 「あの実は・・・ お見合いから逃げて来たんです」
静香 「お見合いから逃げた? マジで?」
レイカ 「はい。お見合いの相手が、新宿を仕切っている久米組っていうヤクザの親分の息子さんで・・・お断りしたんです」
静香 「お見合いだもん、断る権利はあるよね」
レイカ 「でもあの人たちが、兄貴の顔を潰すのかってすごく怒って・・・」
八兵衛 「で、怖くなって逃げたら追いかけてきた、と」
レイカ 「はい・・・」
八兵衛 「これからどうするんだ?」
レイカ 「分かりません・・・ でもあの人たちがこれで終わりにするとも思えませんし・・・」
 
うーん・・・と考え込む二人。
 
■一斎の寺
 
一斎 「で、ここに泊めてほしいと?」
 
一斎の前に座っている八兵衛と静香、そしてレイカ。
 
八兵衛 「今晩だけでいいんです。家に帰って待ち伏せされてるかも知れないし。お寺なら、まさかあいつらも乗り込んでこないでしょ」
一斎 「まあ、私はかまわんが・・・」
 
と、レイカを見る。
 
一斎 「お嬢さん、名前は?」
レイカ 「宮代レイカと言います」
一斎 「宮代さん。あなたはよろしいのかな?」
レイカ 「ご迷惑でなければ」
一斎 「よかろう。他ならぬ八兵衛さんの頼みだ」
八兵衛 「ありがとうございます!」
 
頭を下げる八兵衛と静香。
 
■帰り道
 
八兵衛と静香が歩いている。
八兵衛、上の空である。
 
八兵衛 「宮代・・・ レイカさん、かぁ・・・」
静香 「だらしない顔してるよ」
八兵衛 「レイカってどんな字を書くのかなぁ」
静香 「しーらない」
八兵衛 「いい女ってのは、ああいう人のこと言うんだなあ」
 
静香の顔を見る。
 
八兵衛 「静香は、無理か」
静香 「無理ってなによ!」
 
そう言って、八兵衛の胸にグーパンチを叩きつける。
 
八兵衛 「いってえ、何するんだよ!」
静香 「はっちゃんとは絶対ありえないから」
八兵衛 「わかんねえぞ」
静香 「それにね、なんか怪しいんだよなあ、あの人」
八兵衛 「なんだ? 嫉妬か?」
静香 「なんでよっ! あの人とはあんまり関わらない方がいいって。これは女の勘。」
八兵衛 「おまえごときの女の勘なんて信じられるかよ」
静香 「うっさい!」
 
再び、グーパンチ。
 
八兵衛 「だから痛いって」
静香 「はっちゃん女運ないんだから、せいぜい気をつけな。ほんじゃおやすみ!」
 
静香、走っていく。
その後ろ姿を見つめながら、
 
八兵衛 「女の勘ねえ・・・」
 
ふと夜空を見あげる。
いくつもの星が瞬いている。
 
八兵衛 「レイカさんかぁ・・・」
 
自然と顔がほころぶ八兵衛。
 
■屋台
 
翌日。相変わらず屋台でたこ焼きを焼いている八兵衛。
 
レイカ 「八兵衛さん」
 
八兵衛が顔を上げると、レイカが八兵衛の顔をのぞき込んでいる。
 
八兵衛 「れ、れい・・・ 宮代さん」
レイカ 「レイカでいいよ」
八兵衛 「あ・・・ はい・・・」
レイカ 「おいしそうね」
八兵衛 「あ、ああ、うまいよ」
レイカ 「一斎さんも言ってた。日本一おいしいたこ焼きだって」
八兵衛 「そ、そうかなぁ」
 
デレデレに八兵衛。
 
レイカ 「私にも焼けるかなあ?」
八兵衛 「やってみるかい?」
レイカ 「ほんとに? 私一回やってみたかったの」
 
屋台の中に入ってくるレイカ。
 
八兵衛 「まずはこいつをこうやって・・・」
 
生地をたこ焼き器に入れていく八兵衛。
 
レイカ 「すごーい、上手!」
八兵衛 「やってみて。」
レイカ 「うん」
八兵衛 「あ、それじゃ少ない」
レイカ 「もっと?」
 
仲睦まじくたこ焼きを作り始める二人。
 
■屋台
 
夕刻。
一人の客がたこ焼きを買って帰る。
 
八兵衛 「ありがとうございましたぁ」
レイカ 「ありがとうございましたぁ」
 
二人で、客を見送る。
 
八兵衛 「さ、今日はこれで終わりにしようか」
レイカ 「うん」
八兵衛 「なんか最後まで手伝ってもらって悪かったね」
レイカ 「ううん、とっても楽しかった」
八兵衛 「少ないけど、バイト代払うよ」
 
そう言って、手提げ金庫を探る。それを制するレイカ。
 
レイカ 「お金はいらない」
八兵衛 「でも・・・」
レイカ 「そんなつもりじゃなかったもん。でも、その代わり、八兵衛さんにお願いがあるの」
八兵衛 「?」
レイカ 「今日も帰りたくない」
 
驚いて見つめる八兵衛。
 
■八兵衛のアパート部屋
 
入ってくる二人。
 
八兵衛 「狭いけど・・・」
レイカ 「うわぁ、でもきれい」
八兵衛 「何も買わないからな。適当に座って」
レイカ 「ありがと」
 
八兵衛、キッチンに入る。冷蔵庫を開けて、ペットボトルのお茶を取り出す。
 
レイカ 「一斎さんから、八兵衛さんのこといろいろ聞いちゃった」
八兵衛 「いろいろって?」
 
八兵衛、コップに注いだお茶を持って、レイカの前に座る。
 
レイカ 「八兵衛さんがこの町に来た理由」
八兵衛 「ああ・・・」
レイカ 「私に似てるんだね」
八兵衛 「そう言えば、そうかな・・・」
 
八兵衛を見つめるレイカ。その目を見つめられなくてドギマギする八兵衛。
 
レイカ 「八兵衛さんなら、私の寂しい心分かってくれると思う」
八兵衛 「う、うん、そうかもな・・・」
 
レイカ、八兵衛に顔を近づける。
 
レイカ 「お見合いの相手が八兵衛さんだったら良かった」
 
なんと答えて良いか分からず、固まる八兵衛。
レイカ、そのまま顔を近づけ、唇を重ねようとするその瞬間、
 
八兵衛 「明日早いから寝ましょう」
 
■八兵衛の部屋
 
ちゃぶ台を挟んで、別々の場所に横になっている二人。
レイカは布団に入っているが、八兵衛は床に寝ころび、毛布を一枚かけているだけ。
 
レイカ 「八兵衛さん、床でいいの?」
八兵衛 「・・・」
レイカ 「寝ちゃった?」
八兵衛 「・・・」
レイカ 「八兵衛さん、ありがとね。おやすみ」
 
そう言って、目をつむるレイカ。
レイカに背を向けるように横になっていた八兵衛。しかし寝てはいない。
レイカの言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
 
■屋台
 
今日もレイカと二人で屋台をやっている。その前を静香が通りかかる。
 
八兵衛 「静香、今日は買わないのか?」
静香 「・・・」
 
無言で通り過ぎる静香。
 
■路上 (屋台から少し離れた)
 
静香が歩いている。
浜勝が通りかかる。
 
浜勝 「静香ちゃん、手ぶらとはひでえなあ。たこ焼き買わねえのか?」
静香 「買わない」
 
頬を膨らませて、無愛想に去っていく。
 
浜勝 「ご機嫌斜めか? 女子高生はわかんねえなあ」
 
■屋台
 
浜勝がやってくる。
 
八兵衛 「浜勝さん!」
浜勝 「おう。この子か新しいバイトってのは」
八兵衛 「俺のたこ焼き屋の師匠、浜勝さんだ」
レイカ 「宮代レイカです」
八兵衛 「浜勝さんは俺の恩人なんだ。居酒屋もやってて最近景気いいんだよ」
浜勝 「(満更でもない顔で)んなことぁねえよ。そんなことより、静香ちゃん、なんかあったのか? 機嫌悪そうだったけど」
八兵衛 「最近素通りっすよ」
レイカ 「たぶん私がいるからです」
浜勝 「嫉妬かぁ? 悪いけど、八兵衛に惚れる女はいねえと思うぞ」
八兵衛 「ですよね」
レイカ 「そんなことありません。私は八兵衛さんのこと好きですよ」
浜勝 「お、おお、そうか・・・そりゃ悪かった。まあ仲良くやってくれ」
 
浜勝、弧に摘まれたような顔でその場を去る。
 
八兵衛 「いきなりびっくりさせないでくれよ」
レイカ 「でも本当のことだもん」
 
八兵衛、顔を真っ赤にして照れる。
 
■夜の公園
 
ベンチに座って星を見上げてる八兵衛とレイカ。
 
レイカ 「へえ、八兵衛さん星に詳しいんだね」
八兵衛 「ホームレスやってる時は、星を見るしかなかったからね」
レイカ 「ロマンチック」
八兵衛 「そんなんじゃないよ」
レイカ 「八兵衛さん。私、八兵衛さんに謝らなきゃいけないことがあるの・・・」
八兵衛 「なんだい?」
レイカ 「実はお見合いから逃げてきたって嘘なの・・・」
八兵衛 「え?」
レイカ 「私の父がね、事業に失敗しちゃって借金したの。そのお金を借りた男ってのがヤクザの親分の息子。家族みんなで返してたんだけど、どうにも難しくなってね。そしたらその息子が、借金の代わりに私を差し出せって」
八兵衛 「それって、まさか・・・」
レイカ 「ううん、変なところに売ろうとかじゃないの。なんか私のこと好きになっちゃったから、結婚しようって。そしたら借金帳消しにしてやるって・・・」
八兵衛 「じゃあ、レイカさんは・・・」
レイカ 「うん、戻らなきゃいけない。でないと、家族のところにまた借金取りが来ちゃう。でも戻りたくない・・・ なんで好きでもない人と結婚しなきゃいけないの。だったらソープでもどこでも売ってくれたほうがマシ。そしたらいつか自由になるでしょ。でも私、もう一生自由にならないの」
 
そう言って泣き出す。
 
八兵衛 「その借金はいくらなの?」
レイカ 「言えないよ。八兵衛さん関係ないもん」
八兵衛 「ここまで来て、関係ないなんて言えるか。いくらなのかだけでも教えてほしい」
レイカ 「八百万円・・・」
八兵衛 「はっぴゃく・・・」
レイカ 「簡単な額じゃないよね。でも、私のこれからの人生、八百万円だって考えたら安いよね。私、なんで生まれてきたんだろって思っちゃうよね」
 
レイカ、泣きながら自嘲的に笑う。
 
八兵衛 「そのお金を用意できたらどうなる? 君は結婚しなくていいのか?」
レイカ 「うん。私も家族も自由になれる。ねえ八兵衛さん、八百万円私に貸してくれる?」
八兵衛 「・・・」
レイカ 「冗談。そんなつもりないから安心して」
八兵衛 「・・・」
レイカ 「八兵衛さんと出会って、すごく楽しかった。幸せだった。私ねきっとこの数日間の思い出があれば、この先何があっても生きていけると思うんだ。だから私決めたの。行こうって」
八兵衛 「レイカさん・・・」
レイカ 「また、このきれいな星空を見たら、きっと八兵衛さんのこと思い出すよ。八兵衛さんも見てるかなぁって。だから、八兵衛さんも少しだけ私のこと思い出してくれたらうれしい」
八兵衛 「ちょっと待ってくれ」
レイカ 「言わないつもりだったけど八兵衛さん優しいから言っちゃった。ごめんなさい。じゃあ私、行くね」
 
レイカ、ベンチから立ち上がる。
 
レイカ 「元気で。あの女子高生の女の子とも仲直りしてね」
 
歩き出すレイカ。
 
八兵衛 「待ってくれ! そのお金、俺が何とかする!」
レイカ 「え?」
八兵衛 「俺はそんな金はない。でも、貸してくれる心当たりがある」
レイカ 「誰?」
八兵衛 「昼間会ったろ。浜勝さんだ」
レイカ 「八兵衛さんの大事な人じゃない。そんなお願い無理よ。第一返す当てなんか・・・」
八兵衛 「屋台がある!一生かかっても返すさ」
 
レイカ、八兵衛に抱きつく。
 
レイカ 「その屋台に私がいてもいいよね」
八兵衛 「え・・・」
レイカ 「二人で一緒に返していこう!」
八兵衛 「いいのか?」
レイカ 「八兵衛さんが屋台を引く、私がたこ焼きを焼く。二人で日本中回ろうよ。ずっとずっと一緒だよ!」
八兵衛 「ああ、ずっと一緒だ」
 
二人、星空を見つめる。
 
■浜勝宅(もしくは居酒屋)
 
浜勝、座って腕組みをして考え込んでいる。
その前に八兵衛が土下座せんばかりで座っている。
 
浜勝 「そりゃ、貸すのはやぶさかじゃねえけどよ」
八兵衛 「お願いします!」
浜勝 「返せる当てはあるのかい」
八兵衛 「一生かかっても」
浜勝 「一生なんて簡単に言うもんじゃねえよ」
八兵衛 「でも本気なんです」
浜勝 「他ならぬおめえさんの頼みなら無下には出来ねえけどさ」
八兵衛 「じゃあ」
浜勝 「銀行行って話してくる。まあ俺なら無理とは言わねえだろう」
八兵衛 「恩にきります!」
 
八兵衛、思い切り頭を下げる。そして、一目散に出ていく。
その後ろ姿を見て、いぶかしい顔をする浜勝。携帯を取り出し、電話をする。
 
■新宿中央公園 ベンチ
 
ベンチに一人の男が寝ている。そこに静香が現れる。
 
静香 「あの、ヤスさんですよね」
 
名前を呼ばれて、面倒くさそうに片目だけ開けるヤス。
 
静香 「はっちゃん、いえ八兵衛さんの昔の友達って聞きました」
ヤス 「・・・」
静香 「八兵衛さんが大金を借りてるらしいんです。。嫌な予感がするんです。お願いします、八兵衛さんを助けてあげてください!」
 
頭を下げる静香。
 
■八兵衛 アパート
 
レイカと八兵衛が座っている。
 
レイカ 「ほんとに!」
八兵衛 「ああ、夕方連絡があって、銀行の融資が下りたって」
レイカ 「ありがとう、これで私、自由の身になるんだね」
八兵衛 「ああ」
レイカ 「じゃああいつらに連絡取るね」
 
そう言って、携帯を握りしめ玄関を出ていくレイカ。
八兵衛、その場に寝ころび天井を見つめる。
その目は決して嬉しそうな目ではなかった。
 
■中野区 公園
 
ベンチに座って雑談を交わしている男三人。
二人は以前レイカを追ってきた山田、蒲谷。
そしてもう一人は、彼らのリーダーである久米達也である。
 
そこへ、八兵衛と浜勝、レイカがやってくる。浜勝はお金の入っているバックを持っている。
 
八兵衛 「待たせたな」
久米 「あんたか? レイカの代わりに金返そうっていう奇特な奴は」
八兵衛 「金は用意した。これで宮代さんと家族には二度とかかわり合わないと約束してくれるか?」
久米 「ああ、金さえ返してくれりゃ、文句ねえんだ」
 
浜勝がレイカにバックを渡す。
 
八兵衛 「君の手で返すんだ」
レイカ 「うん・・・」
 
レイカ、バックを持って久米たちに近づく。
そこへ、ヤスと静香が出てくる。
 
ヤス 「おめえ、いつからヤクザの親分の息子になったんだ?」
久米 「え・・・」
八兵衛 「ヤスさん」
浜勝 「静香も・・・」
ヤス 「俺の知ってるおめえの親父は競馬で破産して蒸発したと思うけどな」
久米 「なんでここに・・・?」
八兵衛 「ヤスさん、知り合いなんですか?」
ヤス 「知り合いも何も、こいつぁ五年前ホームレスになって俺のところに転がり込んできたろくでもねえ奴だ」
久米 「あ、あんたなんか知らねえな」
静香 「新宿に久米組なんて事務所はないらしいじゃない」
久米 「なんだと?」
ヤス 「新宿のことで俺の知らねえことはねえんだよ」
久米 「く・・・」
静香 「久米組の話が嘘ってことになると、そこのお姉さんの言ってたことも怪しいわよねえ」
レイカ 「・・・」
浜勝 「こいつらの仲間ってことか」
静香 「当然」
山田 「兄貴・・・」
ヤス 「久米、てめえに飯の食い方は教えたが、詐欺のやり方を教えた覚えはねえぜ」
久米 「・・・」
ヤス 「見逃してやる。金は諦めろ」
 
久米、走って逃げ出す。あわてて追いかける山田と蒲谷。
静香がレイカの持っている鞄を取ろうとする。
 
八兵衛 「持って行けよ」
静香 「え?」
八兵衛 「金が必要なんだろ? 持って行け」
静香 「はっちゃん、この人の言ってること嘘なんだよ。第一、お金は・・・」
八兵衛 「俺が一人で返す」
 
浜勝や静香、声が出ない。
 
八兵衛 「多分そうじゃないかって疑った時があった。でもそれでもいいと思った。あんたに騙されるならそれでもいいって。いくら金のためとはいえこんなチンケな男の部屋に寝泊まりしてさぞ嫌だったろ。でも、俺は幸せだった。一緒に星空を眺めてくれて幸せだった。俺に幸せを教えてくれたあんたのことを何があっても守ろうってその時決めたんだ。
いまだってその気持ちに嘘はない。だからその金はあんたのものだ。持っていきな」
 
レイカ、バックを持ったまま立ち尽くす。
やがて、涙があふれるレイカ。鞄をその場に落とし、八兵衛を見つめる。
 
レイカ 「私は悪い女です。あなたのそばにいちゃいけない。でも、一つだけ信じて。はっちゃんの家で寝起きしたこと、全然嫌じゃなかった。本当に幸せだったの。こんなことやらずに、ずっと隣でたこ焼きを焼きたかった・・・ 本当に本当に、ごめんなさい」
 
そう言って、走り出すレイカ。黙って見つめる八兵衛。
 
■公園出口
 
泣きながら走ってくるレイカ。
その前に現れる一斎。
 
レイカ 「住職・・・」
一斎 「このまま罪を背負って生きていくつもりですか?」
レイカ 「私は・・・」
一斎 「他の場所でも同じ方法の詐欺事件があったそうです。あなたたちですね?」
レイカ 「はい・・・」
一斎 「人はいずれ亡くなります。しかし一度の過ちを取り戻せないほど人生は短くはありません。あなたはまだ若い。いくらでもやり直せます」
レイカ 「・・・はい」
一斎 「そしていつか、罪を償ったら彼に会いに行ってください。きっと笑顔で迎えてくれる、彼はそういう男です」
 
レイカ、大きくうなずく。
笑顔でそれに答える一斎。そして一斎に連れられて歩き出すレイカ。
 
■公園
 
鞄を持ち上げて、浜勝に渡す静香。
 
八兵衛 「ヤスさん、よく来てくれましたね」
ヤス 「俺はな、おめえと違って、女の勘を信じるんだよ」
 
八兵衛、苦笑い。
 
静香 「(鞄を返しながら)ねえ浜勝さん」
浜勝 「ああ?」
静香 「お金見せてよ。八百万なんて大金見たことないんだ」
浜勝 「しょうがねえなあ、見るか?」
 
そう言って、鞄のチャックを開ける。
のぞき込む静香。
 
静香 「なにこれ!?」
 
静香、鞄に手を突っ込み中身を取り出す。
それは新聞紙を切って束ねたものであった。
 
浜勝 「一斎さんに相談したらさ、多分それは詐欺だからお金なんか用意しなくていいって言われてさ」
八兵衛 「住職はお見通しだったわけか・・・」
静香 「バッカらしい!」
 
そう言って、手元の新聞の束を投げあげる。
空中でひらひらと舞い散る新聞の束。
 
それを笑顔で見つめる八兵衛と仲間たちであった―――

~了~


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?