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国道489号旧道 3 現地探索後編

前回最後の写真はこちら。アトリエ工房を過ぎた直後に進行方向を向いて撮影した。

この時点で明確に感じられるこれまでとの変化が2つ。まずは路面の状況、ここまでの1車線幅は落ち葉もなく綺麗に保たれてきたが、路面と落ち葉との境界が曖昧になりつつある。それから右手の竹林。竹林は初お目見えである。本当に景色がよく変わる。
そして先を見通せば、なんだか、右からの雑木の圧迫で道幅が狭くなってきてない?

ここで現在地をおさらいしておく。

前回は旧道に入り、様々な施設や通行の形跡を確認しながら、ゆるやかに高度を上げてきた。今回は道路消失地点前最後の現役施設であるアトリエ工房より奥地へと踏み込んで行く。この奥は交通量がこれまでに比べて激減するはずであり、路面の荒廃が危惧されるところだ。そこで冒頭の写真というわけである。
とはいえ、まだまだ道は元気に私を導いてくれている。落ち着いて進んでいこう。

つづら折りの警戒標識が現れた。旧道がつづら折りで津浦ヶ峠を越えていくまで、地図読みでも残り2kmくらいである。ここから本格的に高度を上げていくという道の覚悟のようなものを感じさせる標識だ。
やはり右からの圧迫によって道幅が狭まっているが、斜面上の樹木の成長ぶりを見ると、ここは一時的な土砂崩れなどで狭まっているのではなく、元々狭かったのだと分かる。

警戒標識を過ぎたらこの様子。右の斜面が後退して道幅が戻った。しかし土砂が払われてアスファルトが露出している1車線幅の中央部分以外は、倒木などで自動車走行困難だ。不思議に感じられるのは、いまだに序盤と同様に(荒廃の度を高めてはいるが)1車線幅のアスファルト露出部が維持されていることである。この辺りの道もわずかではあるが使われているのだ。何のために?
進行方向には、大きく左にカーブしていく路面と、オレンジ色の支柱のようなものが見える。
さらに進む。

これは、カーブミラーの支柱だ!その存在証明とも言うべきミラー部分を失った支柱が2本連続して立っている。ミラーレスミラー。なんと可愛そうな姿だろうか。「↑注意」の表示が指し示すべき目標を失い、寂しそう草葉の陰に隠れようとしているよ。
しかしまあ、ミラーだけはどこかで再利用されているのかもな。寂れた山道でよく見かける、汚れすぎて鏡の役割を一切果たせなくなったまま放置されたカーブミラーと比べれば、まだ救いのある最期なのかもしれない。

このミラーの場所は、旧道が神代川に合流する沢を跨いでいく橋の部分に相当する。もっとも、橋としての特徴は何もなく、知らなければただの道路だ。路肩から覗いてみたがわずかなせせらぎがあるだけで、特におもしろい発見はなかった。
旧道は、カーブミラー2本が必要だったほどのきつい左カーブで沢を渡り、返す刀で右にカーブしていく。

左カーブからの右カーブを連続して撮影した。
お気づきかと思うが、ここでも路面の状況は決定的な悪化を見せない。頻度は低いだろうが、普通に車が通っている道の姿だ。そして、この場所でも車通りがあるということは、その目的はあれしかないだろうと確信を持つに至った。
それにしても、カーブミラーは外されたのに道は維持されているという相反する管理姿勢は何だろうか。対向車の存在は想定していないってか。さもありなん。
と、あれは、まさか、

か、カーブミラー!こちらはミラーが残っているが、その姿はギリースーツに身を包んだ狙撃手の如く木々に溶け込んでいる。それでいて鏡面は目の前の路面を映し続けており、気高い!
かっこいいなぁこのカーブミラー。私が今まで見た中で一番かっこいい。カーブミラー界のトーマス・ベケットだよ。

あまりにもかっこいいカーブミラーが見守る右カーブを抜ける。すると間もなく、

左手路外に工事看板が!奥にはトタンの廃屋のようなものも見える。

かなりの規模で工事関係の看板などが廃棄されている。これはいわゆる不法投棄だろうな。不法投棄自体は廃道ではよく見かけるが、工事関係の看板類は初めて見た。
看板を確認すると、国道489号、すなわち現道の改良工事の際のものだ。工期は平成6年11月11日〜平成7年3月某日、ってやたら古いな!施工業者の日進建設は山口市に現在もあるようだ。関係者にはゴミの持ち帰りをお願いしたい。

不法投棄現場から10mばかり進んだところ。かろうじて自動車交通可能だ。

黙々と進む、進む。

左手、谷側の雑木が途絶えて視界が広がると、何やら対岸に建物と自動車が見えた。ちょっとしたコテージのような施設だ。あそこには人がいると直感したので、そそくさと立ち去った。何となくこちらの姿を見られたくない。
ちなみに、こちらからあの建物に行き着くためには谷を降りて川を渡らなければならないが、橋はなかった。あの建物は現道からのみ入れるようにできている。

ここまでのまとめの地図を示しておく。
地図を見ていただければ分かるとおり、旧道はいよいよ現道の下をくぐることになる。つい10分ほど前にあれほど遠く高く見上げた現道が、現代の土木の力を持って川を越え、こちら側にやって来るのだ。興奮しないわけがない!

おお、あれに見ゆるは現道、国道489号、その谷越えの橋だ!早くあそこへ行きたい!

普段現道を通る時意識することは少ないが、こうして下から見上げると実に立派ではないか。人間だけが持つ土木の力が、自然と真っ向から対峙している光景である。橋の始まりの部分には親柱が見える。旧道はこの橋をくぐる。

おや、こんな所に道路表示とセンターライン。なんだ?私は現道の橋桁や橋脚の整備のためにこの道が維持されてきたのだと考えていたが、整備だけならこんなご丁寧に道路表示やセンターラインはいらないよな。しかもこれ、まだ結構新しいぞ。

橋の下。これはきちんとした二車線道路だ。比較的最近、旧道化後に、橋梁点検以外の何らかの目的できちんとした整備がされていたことは間違いない。が、探索時の私にはその目的が何か分からない。ネットで調べたいと思ってもここは電波圏外だ。釈然としないものを抱えつつ進むしかないのだ。

ついに現道との立体交差の先へ。
ここからの展望は、以下の地理院地図拡大図のとおり。

ご覧のとおり、旧道はゆるく右カーブしながらしばらく現道に寄り添うように進み、鋭く左に切り返し、現道と分かれて渡河地点=道路消失地点へと向かっていくはずだ。
次の目標地点はこの切返しというわけだ。

右カーブを過ぎる。背を向けた標識が見える。あちらから来る自動車に向けての標識が初めて姿を現した。
右側の擁壁の高さの変化を見てもらえば分かるが、旧道は登り、現道はほぼ平坦なので、両者の比高が急激に縮まっている。このまま合流してしまいそうな勢いだと感じた。

先ほど発見した標識を振り返って撮影。間違っちゃいない。確かに狭くなる部分あったよ…。

標識の先の路面の状況。立派なアスファルト舗装の道が両側からの土砂の侵食により植物園になりつつある。が、これでもまだ自動車が走れないことはない。
右手の薮越しには、現道の登坂車線案内標識が見えている。現道はすぐそこだ!

進めば進むほど現道との比高は縮まり、薄れていく右手の藪が合流のときが近いことを告げる。もう少しだ、もう少しで現道に合流できるぞ。
え、切返し?ナニソレキコエナイ

!!
旧道がいよいよ現道に合流しようかというところで、非常事態だ。矢印の辺りでトラックが停まり、作業員風の人物が仕事をしているのを発見した。何かの工事を行っているようだ。私は写真の位置から少し進み、トラックと人を現認した後、こっそりと引き返してこの写真を撮影した。
いや、別に私は悪いことをしてるわけじゃないんだけど、何かね。気後れすると言うか。ほら人間って怖いじゃん!

しかし残念だな、人がいなければ現道に合流して大団円だったのに!

・・・
・・・・・
・・・え、旧道?
あー。

まずはこの地図を見てほしい。これは今まで載せていた地理院地図ではなく、グーグルマップだ。注記したとおり、地理院地図にはない現道と合流する道が描かれており、私は人がいる工事現場の20mばかり手前で茂みに身を隠した状況だ。
端的に言ってしまえば、先程人がいると示した写真を撮影した場所は、旧道ではなく、現道開通後に何らかの事情で現道に接続された道(地理院地図には記載がない道)の上、ということだ。

旧道はどこに行ったのか?
そう、切返して左に分岐していったのだ。あらゆる地図の表記からもレポート1でお見せした航空写真からでもそれは明らかなのだ。
忘れちゃいないよ切返し。

しかし、しかしだよ・・・。

この①〜③の写真のどこかに、左へ分岐していく道があると思いますか!

この時、実際に私は現実逃避して、5分ほどの間行ったり来たりしていたのだ。探索を切り上げることも頭をよぎった。自分が見たものを現実のものとして受け入れるのが嫌だったから。
これ以上もったいぶっても仕方がないので、解答編だ。

②の写真に書き加えた矢印の方向を見ると、恐ろしいものが見えたんだよ・・・。

下の矢印からの眺め
上の矢印からの眺め

これら2枚の写真を見ていただければ、私がしばし現実逃避に耽っていたのも納得いただけるのではないだろうか。
先程までアスファルト舗装の快適な旧道歩きを楽しんでいたと思ったら、ここに来て突然の豹変。まさに道の続きがあるはずの場所、左手の少しばかり高い位置でガードレールの支柱が薮に呑まれているではないか。しかもまだ道路消失地点のだいぶ手前だ。

ど、どうすればいいと思う?
旧道をたどるなら、まずはあのガードレールの支柱までたどり着かねばならないが・・・
分かりきっていることですけどね、この道死んでます。非常に悪質な廃道ですね。

目の前これだぞ。

つづく

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