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榎谷洞道 山口県長門市

これは単なる敗北と撤退の記録である。

国道191号が鎖峠を越える位置に榎谷隧道がある。
場所はこの星印をつけた辺り。

国道191号は現在では萩ICと三隅IC間のバイパスが完成し、鎖峠越えのルートは旧道化しているので、交通量は少ない。コブのような特徴的な線形をした道路の、ちょうど頂点付近に2本の連続した隧道があり、南側が現役の榎谷隧道である。
問題の榎谷洞道は、榎谷隧道のすぐ脇にある。

地理院地図を拡大してみる。榎谷隧道があり、その脇に星印を付した場所が榎谷洞道の南側坑口だ。ストリートビューでも見えるような位置関係で、たどり着くのには何の苦労もない。
ネット上にもいくつか紹介されているサイト様があり、興味を持てば誰でも知って行くことのできる廃隧道だ。しかし、洞内に侵入して撮影・調査した記録は見当たらなかった。
現在はどんな状態なんだろう?
さっそく行ってみた。

コブの先端を回り込んだところにある待避所に車を停め、長靴に履き替えて出発する。東に向かって回り込めばすぐに見えてくるはずだ。

ほら、見えた。現役の榎谷隧道と・・・右の暗がりに

榎谷洞道!
チョットコワイ・・・

榎谷洞道の案内板。すばらしい!私が説明する手間を省いてくれる!
仮定県道というのは見慣れない方もいるだろうが、ごく簡単に言うと、旧道路法(1919年施行)以前の制度下で、国の認可を得ていないものの県道としての要件を一応備えた道路について、各県が呼称していた呼び方だ。仮定なわけだから、その後正式に県道や国道になったりする。この道は国道191号に昇格したわけだ。
こういう道路のことについてはこちらの本が詳しい。→日本の道路122万キロ大研究 増補改訂版 (じっぴコンパクト新書)
1893年から70年の歴史ということは1963年ころまで現役であったと。してみると廃道化後60年近く経過しているわけで、その状態は推して知るべし。

おお。
すごい切り通し。荒々しい。目が覚めるような光景だと思った。
廃道化後の期間から想像されるほど藪は濃くないが、足元がぬかるんで気持ち悪い。傾いた電柱は現役なのか?それなりに新しいものに見えるが。電柱管理のために定期的に刈り払いされているのかも。
坑門は閉鎖の骨組みだけ残っているような状態で、侵入するには支障はなさそうに見える。
もう少し近づいてみるよ。

ここ、崖上からひっきりなしに水が垂れて小さな滝みたいになってる。苔の量が水分の多さを物語っている。

この坑門工の美しさよ。ただ、明治26年のものにしては綺麗すぎる?坑門は後年の補修が入ってるかもしれないな。

あー、、、、
だめだ、、、、
坑門まであと2メートルくらいの場所。
写真だと分かりづらいだろうが、この私の足を一歩踏み出した箇所。ぐじゅぐじゅと気色悪い音を立てて脚を飲み込もうとする。ゆうにくるぶし辺りまで沈みそうな感覚があった。
気持ち悪い!危険!無理だ!

前進が困難だと悟った私は、目一杯手と体を伸ばして隧道内を撮影した。
うん、これは私には無理ですねー。
洞内は完全に水没して気色悪い色の沼になっていた。
レンガの巻立てが途切れて素掘りになっている箇所がわずかに見える。
その先、反対側坑口の明かりが洞内の水面に反射しているのも分かる。あちら側からも侵入不可だ。
なるほど内部の探索記録が見つからないわけである。
この隧道は私程度の手に負えるものではなく、プロ仕様だということがよく理解できた。
これにて撤退!
尻尾を巻いて逃げるのだ!

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