Taketo ASAKOSHI

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最近の記事

青椒肉絲を待ちながら

這這の体でシアタートップスを出、ゴールデンウィーク終盤に賑わう新宿3丁目の飲屋街を抜け、半死半生で地下鉄に乗り込み、降りたところで空腹に耐えきれず入った深夜までやっている地元の中華料理屋で、なぜか全然出てこない青椒肉絲。待っている間に寝てしまうのもアレだから、今これを書きはじめている。 コメディやってる快感って結局、計画して準備して訓練した作戦(ネタ)が遂行され、見事成功し(ウケ)た瞬間にしかないと思っている。だから極めてゲーム的な、勝敗が明解なものだ。ウケてたら勝ち。ウケ

    • ドメスティックでドラスティックなリアリスティック

      「初日のウケはご祝儀」というアリストファネスの至言(大嘘)はあれど、うれしいものはうれしい。 うれしいからこそ、明日も明後日も粛々とトライ&エラーを繰り返すのみ。そして繰り返せることがまたうれしい。 やっぱり新作を、とくにこの作品のようなギミックを搭載した作品を立ち上げるのにはとてつもない労力と負荷があって。そしてもちろんわれわれは、まだまだインディーのまつろわぬ民だから、それらを自分たちの手の届く範囲でえいやっ、と作り上げなきゃいけないわけで。 それはゲロ吐きそうなくらいし

      • 「失われた30年」プレイリスト&ライナーノーツ【2004年篇】

        わたしが所属するコメディ劇団・アガリスクエンターテイメントの新作公演『なかなか失われない30年』に向け、各時代にあった作品を漁っているなかで。公演自体については、詳しくはこちら。 アルバム・シングル問わずその年にリリースされた曲、ただしベスト盤は除く、のなかから「個人として思い入れが強い曲」「その時代を象徴する曲」「時代またいでもアーティストかぶりなし」という条件で10曲ずつ、選んでプレイリストを作成。 前回【1994年篇】はこちら。 高校生だった2004年。どうしたって

        • 「失われた30年」プレイリスト&ライナーノーツ【1994年篇】

          わたしが所属するコメディ劇団・アガリスクエンターテイメントの新作公演『なかなか失われない30年』に向け、各時代にあった作品を漁っているなかで。公演自体については、詳しくはこちら。 http://www.agarisk.com/nakanaka/ アルバム・シングル問わずその年にリリースされた曲、ただしベスト盤は除く、のなかから「個人として思い入れが強い曲」「その時代を象徴する曲」「時代またいでもアーティストかぶりなし」という条件で10曲ずつ、選んでプレイリストを作成。作って

        青椒肉絲を待ちながら

          断片日記23.9.18

          アナウンスと、なによりそのバックグラウンドで流れている「なんたらかんたら〇〇フェリー」という変な歌で目が覚める。おかげで今自分がいるのが洋上だということを見失わずに済んだが、そもそもなんで瀬戸内海を行くフェリーにテーマソングがいるのだろう。 みなと別れたあと、神戸の漫画喫茶で一泊、起きてすぐ神戸港へ。大量にコンテナの合間を抜け乗船、小豆島を目指す。 一度は訪れなければ、と思っていた場所である。自由律俳句で有名な、尾崎放哉の臨終の地。教科書で読んだ「咳をしても一人」に心を奪

          断片日記23.9.18

          断片日記23.9.17

          以前冨坂がどこかで言っていたのだが、おれの第一印象は「ノータイムで物語の話ができる奴」だったらしい。前置きとか雑談なしに、フィクション―まだこの世に存在しない作品の構想も含め―について話せることが珍しかったという。 より正確に言えば、当時のおれは物語の話ができるというか、物語の話「しか」できなかった。なにかの「作品」をフィルターにしないと他人と上手く会話ができなかった。いや、今もそうか。 昔から衣食住にそんなに興味を持てないし、まっとうに仕事もしているわけじゃないから、そ

          断片日記23.9.17

          断片日記/23.9.15

          目覚ましより少し早く目覚める。 入り時間から考えると、まだまだ寝ていられるが、吝嗇ゆえ旅先で惰眠を貪る贅沢には耐えられない。 そのまま手早く準備を済ませ、宿舎をあとにする。昨日は現地入り→そのまま即小屋入り、夜まで稽古だったので、ツアーのひとつの楽しみであるいわゆる「街歩き」の隙がなかった。で、慌ただしいが公演初日の午前をそれに充てようというわけである。 とりあえず凄まじい空腹が襲ってきたので目についた立喰いそば屋へ。なにも考えずうどんを注文するも出てきたのは完全に讃岐

          断片日記/23.9.15

          Tumbling Dice from JUMP BACK

           荷造りの途中で旅券が見当たらないことに気づき、軽くパニックになる。挟んでおいたファイルが、ない。積み上げた資料のファイルの束のどこかだ。これだ。が、旅券の入った封筒だけない。家探し。結局、さっき棄てた、カバンのなかのゴミに混ざって出てくる。  そんなわけで一向に進まない準備。そのなか急に打合せが挟まり、そうこうしているとバタバタと仕事の時間になり、慌ただしく残務を引き継いで、帰宅。部屋中に点在する着替えと、歯ブラシとシェーバーを適当にリュックに突っ込み、あとなにが必要だっけ

          Tumbling Dice from JUMP BACK

          エリナー・リグビーは歌うな

          一応。『SHINE SHOW!』終盤の展開に言及します。  当時はそこまで好きでなかったけど、今思うと打ち上げのカラオケ、という文化はなかなか面白いものだったのだと思う。部活の友人や先輩と、いっしょに地元で燻っていた初期の劇団員と、どこにそんな元気があったのかわからないがとにかく朝まで決行されたカラオケは、上の世代の洋楽を「ロック」だと――そしてそれ以外を「ロックじゃない」と――勘違いし、同世代のJ-POPにあまり触れずに育ってしまったおれにとっては、いわゆる「各世代のヒッ

          エリナー・リグビーは歌うな

          明日の朝恥ずかしくなるいつものやつだとしても

          望外の拍手と喝采をあとに、ちまちました事務を残してきた仕事場へ。結局生徒が来て、補習まで見て、この時間。 劇団員やって18年。塾講師はじめて18年。いつの間にか、どちらも人生の半分も続けてしまっている。 心地良いような、確実に足腰に来るような疲労感。この時間でもベタつく背中の汗と、どこからか虫の声。 半日前にはシアタークリエに立ってネタやってという非日常、それと、今シフト整理してタイムカードを切ってという日常の、繋がるようで繋がらないことに感じ入る夜道。別に特別なことは

          明日の朝恥ずかしくなるいつものやつだとしても

          Find the will to carry on

           既報通り、アガリスクエンターテイメント所属の矢吹ジャンプが体調不良により当面の間『SHINE SHOW!』出演を見合わせ、昨年のアガリスクエンターテイメント版にもご出演いただいた三原一太さんが、その間の代役を務めていただくことになりました。  『SHINE SHOW!』は「バックステージ・コメディ」だ。ステージで進行するイベントの裏側(バックステージ)で、様々なトラブルを切り抜けながら、なんとかして成功に導く人々のドラマだ。それは当初の理想でないかもしれない。冷静に考えた

          Find the will to carry on

          僕のままでどこまで届くだろう

           ダークヒーロー料理バトルマンガ『鉄鍋のジャン』に、「はじめて大量注文を受けた主人公が、調味料の配分を間違えて失敗する」という、1エピソードがある。「具材が増えれば水分も増える、だから単純計算でなく少し濃い目の味付が必要」という、「まあそりゃそうだろ」って筋なのだが、今まで孤独に自分の技術のみと向き合ってきた主人公ジャンの特異性、それでは埋めることのできない実践の優位性を描いているようで、ウジ喰わせたり麻薬盛ったりするイカれた料理バトルのなかの、この小さな物語が変に印象に残っ

          僕のままでどこまで届くだろう

          弾けて、混ざれ

           その昔、アメリカにECWというプロレス団体があった。フィラデルフィアを本拠地にし、WCW・WWE(WWF)の2大メジャーに対しての「インディープロレス」の先駆けであり代表格である。  「エクストリーム(過激・究極・真髄)」を標榜し、会場全体を使ったリングアウトなしの止まらない場外乱闘、有刺鉄線・竹刀その他ありとあらゆる凶器を用いたハードコア・デスマッチスタイルを流行させただけでなく、小型選手によるスピーディかつ勝負論のある攻防、いわゆる「ジャパニーズスタイル」や、メキシコの

          弾けて、混ざれ

          補足というよりほぼ懺悔

          文芸助手で関わった『沸騰!予算会議』でちらっと言及された、「生徒会館設立委員会」という謎委員会について少し書いておく。あ、有形無形のご助力、誠にありがとうございました。 これはおれが一年のとき所属していた、実在の委員会である。生徒会館とは昔、おれが在籍していたよりもっと大昔、国府台高校に存在していた施設で、広く生徒に開放されていたフリースペースみたいなもの、だったらしい。大学でいうところのサークル会館みたいなものか。 どういういきさつだったか当時はそれなりに調べたのだけど、

          補足というよりほぼ懺悔

          君が思い出になる前に

          新宿コントレックスというショーケース・イベントが、あった。 「あった」というか今週末やるじゃねえか、なんだけど、何年も動いていない企画だったのだから実際、感覚的には過去形になる。 アガリスクがいわゆる「市川期」―演劇経験がないに等しい地元民だけで活動していた最初期―から、今後も継続的に活動するか、だとしたら東京の「小劇場シーン」にどう首を突っ込むのか、みたいな「第二期」に移り変わる頃、そしてモラトリアムが終わる頃。メンバー、といっても「劇団員」みたいなハッキリとした区切りが

          君が思い出になる前に

          NEOBT

          イマーシヴなコメディを成立させる、というのが今回のおれのテーマだった。Immersiveというのは没入とか体験型、みたいな意味で使われることが多い言葉だ。演劇畑だとイマーシヴ・シアターという言葉を聞いたことがあるかもしれない。観客をただの「観客」にしない、もっと主体性を持たせることを目的とした形式だ。 今作の「観客投票」というギミック、念頭にあったのはもちろんシーラッハの戯曲『テロ』で、観客に葛藤をダイレクトに突きつけ、選択させることを主題にしている作品だ。 ただ、この魅力的