注釈/補足/蛇足

『なかなか失われない30年』、会場でまた配信でご覧いただいたみなさま、またなんらかの形で関わってもらったみなさま、ありがとうございました。
前々から言っているが、コメディの、というかエンターテイメントの重要な役割に「誤配」がある。知らないもの/興味のないものを「知らんけど」と切り捨てさせないこと。本来なら目に止まらないものを見せ、足を止めないものの前にいっとき留まらせること。
そして、言ってしまえばそれが、今作の大きなテーマのひとつだと思っている。混ざらないものが混ざること。だから、ひとつでもふたつでも、持ち帰ってもらえるものを増やしたいのだ。
あ、まだ観てない方、配信はこちらです。当然盛大にネタバレします。

ザウルス
シャープの開発した携帯情報端末、いわゆる電子手帳。モノクロ液晶タッチパネルと手書き文字認識機能を搭載し、FAX送信やパソコン通信が可能だった。スマートフォンを先取りしたガジェット、とも言えるがそもそもネットワーク環境がまだまだ整っていない市場には定着しなかった。

超時空世紀オーガス
『超時空要塞マクロス』に連なるシリーズとして企画されたものの、色々あってハシゴを外され、『マクロス』シリーズの並行世界という扱いに追いやられた作品。おれも『スーパーロボット大戦Z』やるまでまったく知らなかった。とくに『マクロスF』以降演出も物語もとにかく自家中毒性が強すぎて(そもマクロス自体がスペースオペラ×ミュージカルというパロディ的企画にも関わらず)あんまり乗れなかったのも手伝って「ちゃんとマクロスからの脱却をやってるなあ」と妙に感心したのを覚えている。が、当時としては複雑過ぎるSF設定と味はあるが惹きのないメカデザインに、「すごく売れなさそう」という感想を抱いたのもまた事実。

アーサー・C・クラーク
アシモフ、ハインラインと並ぶいわゆる「SFビッグ3」のひとり。そのなかでも(当時としては)知識量に裏打ちされた精緻な科学描写と、そのうえで「人類の認知と価値観の限界」を容赦なく描く仏教的無常観が特徴的、というか好き。宗教との距離感とか社会参画の姿勢とか、SF作家としてのカッコよさのロールモデルだと思っている。『神の鉄槌』『幼年期の終わり』『宇宙のランデブー』は必読。
余談だけど『宇宙の旅シリーズ』は、1994年時点ではまだ完結していない。

バタフライ効果(エフェクト)
もとは「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」という気象学者ローレンツの講演から生まれた、カオス理論における極小の運動に起因した予測困難性を表現した言葉。ペキンだったりニューヨークだったり、カモメだったりもするけど意味するところは大体同じ。『ジュラシック・パーク』小説版・映画版ともに重要なテーマとして語られ、人口に膾炙した。おそらく大黒さんはマイケル・クライトン読んでると思う。ちなみに同名の映画は2004年。

雷のような音
「SFの詩人」レイ・ブラッドベリの短篇小説。『太陽の黄金の林檎』収録。時間移動におけるタイムパラドックスそしてバタフライエフェクトという概念を明解かつ幻視的に語る傑作。タイトルの妙と結びの1行の鮮やかさよ。そしてこの作品が上記「バタフライ効果」という用語が生まれるずっと前に書かれている、という先見性そしてシンクロニシティ。
実写映画化されているが、わたし予告編の時点で警戒し、映画館でぶちギレました。

台湾マフィア
作中でも言及される「暴対法」で弱体化した、暴力団のニッチを奪うように歌舞伎町での勢力を拡大した。上海系・福建系などチャイニーズ・マフィアとともに中国語で「ならず者」を指す流氓(リュウマン)と総称される。ゴミ捨て場を銃や薬物の受渡しに利用する手口は、馳星周の『不夜城』に描写があった。

忠臣蔵
赤穂浪士による討ち入り事件が講談や戯曲にされた作品群。一時期はドラマ特番が年末の恒例番組になるような、日本を代表する人気コンテンツだった。また、彼らが「忠臣」かどうか、事件の正当性については討ち入り直後からすでにさまざまな角度からの議論されていた、というのがポイント。劇中劇『FANG~赤穂狼士~』は吉川英治版を底本にしつつ、大佛次郎の『赤穂浪士』など「体制への叛逆者」としての四十七士観が強く出ています。

三体
劉慈欣によるSF小説。「異星人による侵略」というオールドスクールな筋書に、長編小説が何本も書けるくらいのSFガジェットをぶち込み、そしてその起点が文化大革命というすでにヤバ過ぎる設定から始まって、それらはすべてほんの序章にしか過ぎず宇宙の果てまで拡散していく、現代SFの到達点のひとつ。
Netflixドラマ版、色々言われているけどおれは素晴らしいと思うので、全三部作の長編小説は重いよ、て人はそちらでも。


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