耳の荒れと,ハラスメントについて。

耳の荒れがヂクヂクと,半年経っても治らない。皮膚科でもらったステロイドを塗ってはいるけれど,治ったと思って薬をやめるとすぐ耳たぶの皮が乾燥し,硬くなり,カリカリと爪でひっかくと,ひび割れて皮膚が肩の上に落ちる。皮膚から染み出た血でできたかさぶたは,常に鈍いかゆみと熱を持ち,その存在を忘れさせてくれない。

同期がいなくなった頃からこの症状は始まり,いままで続いている。

やめてしまった同期のこと,やめなかった自分のこと,ずっと整理できずにいる。



先日,ハラスメントに対する方針を定める集会に参加した。

「先日おこなったアンケートの結果,ここには,ハラスメントはないことが示されました。大変喜ばしいことです。」と,どこかの偉い人が言った。そんなはずは,と参考資料を見れば,それは上層部数人を対象としたアンケートで,ああ,はあ,そうですか。となんだか急に脱力してしまった。我々下層部を対象におこなったアンケートの結果はそのどこにも記されていなかった。

たしかに私は記入して提出したはずだが、捨てられたのか?

普段からやれ「母集団がどうの」「controlがどうの」と言っている理系のみなさん,そんなデータ、意味がないほとに偏りまくってることにも気づけないの。


「なにか,意見があるひとはいますか?」
偉い人がのほほんと言った。もうこのまま会は終わりですという雰囲気が伝わってきた。

よし,いまだ。
私は,彼女の代わりに手をあげ,

「はい。あなたはハラスメントがなかったとおっしゃいましたが,私の上司である〇〇さんは彼女に言葉のハラスメントをしていました。彼女の人格を否定する発言をし,生まれた場所で差別していました。そのため彼女は九月でここをやめ,今この場にはいません。この事実,相談窓口の人や,上司本人は知っているはずですが,あなたはご存知でしたか。そしてこれを知った今,どう対処しますか?みなさんは何もないと思うことで,自分の居場所に安心し,考えることを停止しているだけだ。現にこの集会では,ハラスメントがあることを前提とした議論が一切行われていない。なんの意味があるのか。時間の浪費じゃないか。バカヤロウ。」

って,言ってやろう。と思った。
でも,言えなかった。

わたしには,告発することができなかった。

理由はひとつ。
私は,上司を嫌いになれなかったのだ。そして彼の未来を案じてしまったのだ。

彼に家族はいない。バツイチ一人暮らし。50になるまで仕事一本。朝は誰よりも早く出社して、帰りは誰よりも遅い。365日出社している。なんでこんな事が分からないんだ。出来ないんだ。と私達に怒鳴る彼はたぶん「自分ができることは他人にもできはずだ」と思っていて、恐らく人よりちょっと、自己肯定感が低い。お昼は一人で定食屋に行きご飯を食べる。定食屋のおばちゃんに気に入られて、しょっちゅうお菓子を持たされている。甘いものは苦手なはずなのに、苦い顔で少しずつお菓子を消費する。断れば良いのに、それが出来ない。知識はたくさんあって、1聞くと、15返ってくる。だけどなかなか成果が出ず、歳のわりに出世していない。仕事が立て込むとわかりやすくイライラし、私たち部下にあたる。でもこっちがイライラして言い返すと少し怯む。お気に入りの酒屋で毎週好きな酒を買い、自家製の漬物でそれを飲む事が楽しみ。

いつかみた映画や本の中の不器用な人なんだと思った。

そんな彼が、ハラスメントで訴えられた後、どうなるのか。辞めさせられるのか。その時彼になにが残るのか。その後どうなるのか。

それ以外の方法は無いのか。

ここにハラスメントは無いと安心しきっている事の問題点は、加害者と被害者の両方への対応が、雑になること。
日本全般の問題として、加害者側への支援があまりにも乏しい事を感じる。 「加害者は悪だから排除する」以外の方法を誰も模索しようとしない。加害者側の心の問題は被害者と同等かそれ以上に根強いはずなのに誰も寄り添わない。

だから私は告発しない。できないのである。そして、彼のひどい言葉に胃がキリキリしながらも、ここを辞められない。嫌いになれない想像力が私の武器で、弱さでもある。
同期の彼女がやめたことは正しかったと思う。でも、私は同じ道を歩けない。


耳の荒れはストレス性らしい。
でももう少し。ここでこのままやってみる。


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