結局コミュニケーションでは「型通りに話す力」が求められている。

田舎で育った私は小さい頃、近所のおばさま同士が「今日は暑いですねー」などとあいさつを交わす様子を度々観測していた。しかし、彼女達がそんな会話をする意味を全く理解しておらず、「気温の状態は天気予報を観ればわかるのに、この人達は一体なんの情報交換をしているのだろう?」と首を捻っていた。
今回はそんな「天気の話ができなかった私」が「社内でも顔の広い稀有なキャラ」と言われるまでのお話が出来ればと思う。

今日言いたいことは大体以下の通りです。

・有益な情報を常に仕入れて続けるのは体力を使うため、中身のない会話というのも充分に需要がある。
・むしろ自分が自分がと話しまくるより、少々提供する情報量を抑えるくらいの気持ちでいた方が良い。
・会話のゴールは相手から感情を引き出す事。感情込めて「語る」状態に持ち込めれば、有益な情報も得られる可能性が高い。


コミュ力の高いあの子は「何も話していなかった」という事実


中学生の頃、みさちゃんという同級生がいた。

みさちゃんは決して目立つ容姿でも、周りを引っ張るタイプでもなかったが、常にスクールカースト上位に位置し、彼氏を作り、いじめローラーもかわす超うまい子だった。対して私はお笑い番組を研究し、自分なりのすべらない話を教室で披露していたのだが、いまいちパッとしない地味な子。この差はどこから生まれるのか。

ある時、みさちゃんの話す内容に興味が湧き、観察してみることにした。彼女の周りには笑顔が絶えない。地雷原のようなハイカースト女子の会話で、みさちゃんはどのような話題を展開しているのか。

「うんうん」、「そうなんだー」、「すごいねぇ」、「あははっ!」…

観察の結果、あらゆる話題を提供しない方に舵を切っていることがわかった。もう、本当にギャルゲーの一番ベーシックなキャラくらい。青天の霹靂だった。そうか、地雷原でも一歩も動かなければ新たな地雷を踏むことはないのか。

みさちゃんの秘技を突き止めた私は、次の日から早速同じ手を……という事にはならなかった。小さい頃からお笑いを愛し、毎週のように近所の図書館に放牧され、児童書をはじめとした物語に触れ倒した私には、

「ぐっ、そんな中身のない会話……プライドが許さぬ……!」

と、疼く右腕を抑えるので精一杯だった。
仕方ない、理屈はわかっても体が動かないのだ。他の方法を模索せねば……。

そんなんじゃ、はじめましてができない

そんな考えを改め始めたのは、高校に入学する頃だった。
同じ中学から5名しか進まず、事実上人間関係がリセットされたような状態。小中とほぼ持ち上がりで過ごした私にはそこが約10年ぶりの新天地だった。

はじめまして どこの中学校? 名前は? 部活は? ……違うクラスメートに同じ質問をする日々が続いた。

どんな相槌が響くかもわからないため探り探りだ。
ひとまず会話のテンポだけ良くして、使える単語はじっくり探そう、同い年だから同世代あるあるなら通じるだろう、あとは中学の同級生より色んな語彙を使っても大丈夫そうだ……などと、会話の仕方を見直しながら新しい環境生きる場所をジワジワと探していった。

同じ型で、違う子に、何度も何度も。

そして、これが、どうにもこうにも楽しかったのだ。

そこで気付いたのは何も、自分ばかりが中身のある発信をする必要はない ということだった。
その子にはその子の人生があって、それを へー、ほー、ふーん と聞いているだけですごく楽しい。相手も、自分の話をするのは楽しそうだ。

なんでこんなシンプルな事に気付かなかったんだろう、みさちゃんは、あんなに早いうちに気付いていたのに。

以来、人と会話をする目的が変わった。
それまでは自分の話で相手を笑わせることを至上命題にしていたが、相手が楽しそうにしてればOK、ついでに相手の話も聞けたら情報収集になって良いよねにシフトした。高校生になってやっと、といった所もあるが、気付かないよりはマシだと思うことにしている。

語らせて、次覚えていればもう「仲良し」

この考え方が特に役に立ったのは、社会人以降の話だ。

IT企業あるあるだと思うのだが、同じオフィス内に複数の会社のメンバーが在籍しており、雑多に混ざりながら業務をしている。しかも私が初めて配属された場所は分業がかなり進んでおり、ひとつの資料を作るために複数の担当を渡り歩きながら情報収集をするのはザラだった。

つまり、自社の人間が誰で、どこの担当にいて、何をしているのかを把握する必要があった。

そこで私がとった作戦はとにかく喋って印象に残ることだった。
はじめまして お名前は? 出身は? 担当は?……しかし、若い女子に警戒をしているのか、おじちゃん達が一線引いて話している気がする。どうしたら良いのか。

個人的に一番使えた質問は、今まで一番大変だった案件は何ですか?だった。

この質問の良いところはとにかく相手の話が長くなる事だ。私もなかなか初対面で会った大量のおじちゃんの見分けがつかず、矢継ぎ早に質問すれば同じ人に同じ質問を繰り返す危険もあったため、一つの話題で長く話が続くのは大変ありがたかった。

しかし、初対面期間は長くは続かない。むしろ一人につきたった一回きりだ。
前回の話を覚えていますよ、とこちらから示さなければ、より深い情報は提供して貰えない。
幼少期の雑談軽視がたたり、今度は二回目に会った人との話題に苦慮することになった。一通りあいさつを交わし、話題が尽きた頃に相手が去るのだが、いなくなった後に「この間聞いたあの話題振っておけば良かった……!」と後悔する事が頻繁にあった。どうしてできないんだろう。私は、情報を集めなければいけないのに。

ゆっくり考えれば話題は出てくるのだが、どうにも瞬発力がない。
もっと瞬発力があれば……と嘆くまでもなく幼少期の鍛錬不足が原因なのは明らかだったので、何とか時間稼ぎをする方法を考え始めた。

そこで使った手段は大量の飴玉を袋に入れて持ち歩くことだった。
複数種類の飴玉を袋に入れ、会った人には挨拶代わりに好きなもの選んでもらう。更に選んだ飴の種類ごとに2往復程度の話題を用意しておけば流石に相手に合わせた話題のひとつも思いつくだろう、という算段で、これがなかなか上手くいった。

副次効果もあり、飴の分おまけで色々教えてくれる人や、「ちょっと飴ちょうだい」とわざわざ遊びに来てくれる人、加えて「飴あげるので、○○の件教えてください」と私からの頼みごともしやすくなった。飴玉様様である。


こうして初対面もそれ以降も話せる人っぽく振る舞えるようになり、何とか普通に話して普通に働ける子に擬態できるようになりました、というお話です。

とはいえ、型とか考えずに仲良くなれる子が一番だよねー、とも思いつつ。
今日のところは以上です。


酒蒸

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