東京ディズニーリゾートと、共生福祉
私の大学のとある福祉に関する講義で、障がい者支援について学んだ。
ユニバーサルデザイン、ノーマライゼーションといった基本的な用語は勿論、社会でまだ残っている課題についても、実例を交えながら総合的に学べたと個人的には自負しているが、そんな学問的な知識よりも、私の心に刺さったのは、教員が教えてくれた以下の事実だ。
なるほど、つまるところ「生き地獄」という訳だ。
確かに、いきなり私から視覚が奪われたら…生涯「暗闇」の世界に閉じ込められることになる。そりゃあ、死にたくなるのも無理はない。
では、視覚障がい者が幸福に人生を歩めるためにはどうしたら良いのか?
そこで、盲導犬やら、点字ブロックやら、よく町で目にする「共生福祉」の現場を教えてもらえたのだが…正直言って、あまり腑に落ちていない自分がいた。
障がい者でも日常生活を出来る限り不便なく過ごせるような社会を実現することは、確かに大切なことではある。
でも、日常生活の範囲を超えて、私たちが幸福を享受する場ー例えば趣味や旅行などーにおいては、社会は「視覚障がい」という大きな壁を乗り越えられていないのではないか?
何故なら、多くの趣味・余暇というのは、「視覚」が前提であるからだ。勿論、音楽やラジオなど、一部他の感覚器官を主に用いる趣味もあるが…。
すると視覚障がい者は、日常生活どころか、余暇を愉しむ権利すら奪われている。…私はどこか心に蟠りを抱えたまま、当講義は閉講した。
その後、私は家族と東京ディズニーシーを訪れた。
それはまあ楽しかったのだが、パーク内でちょっとしたトラブルがあった。
母親が眼鏡を失くしたのである。
周辺のキャストさんに聞いてみたが、見つかることはなく、結局「遺失物センター」の役割を担っている「ゲストリレーション」に行き問い合わせることになった。
「すみません~、眼鏡を失くしてしまったんですけど(汗)」
担当のキャストさんと母親が、眼鏡の特徴や、どのエリアに落ちている可能性があるのか等を話している。私はそんな2人を傍で眺めていただけだったが、ふとキャストさんの後ろに目をやると、気になる物があった。
あれは、「トイ・ストーリー・マニア!」、こっちは、「センター・オブ・ジアース」、これは、「ソアリン:ファンタスティック・フライト」…
いや、全部だ。全部のアトラクションがある。
キャストさんの後ろの壁に、全てのアトラクションのライド(乗り物)の木製模型が飾られていたのである。
その後、別のキャストさんが、母親が述べた条件のもとバックヤードで眼鏡を探している中、他のゲストも来ないために一定の間があった。私は好奇心を抑えきれず、担当のキャストさんにお伺いした。
「あの…お忙しいところすみません、眼鏡とは関係ないんですけれど、後ろにある模型が凄い気になって…」
「あー、これですか?よろしければ何か手に取ってみます?」
「良いんですか!?じゃあこれとこれを…」
そんなわけで、なんとその模型を触らせてもらった。
「えー、凄いリアルですね!」
「これが何のためにあるのかと言うと、スケールモデルと言って、目の見えない方でもアトラクションの形状が分かって、東京ディズニーリゾートを楽しめるように存在しているんです。他にもミッキーやミニーちゃんなどのキャラクターの模型もあるんですよ」
私は思わず息を呑んだ。
先ほど、あらゆる趣味や余暇は、視覚が前提であると述べた。
しかし、残された感覚器官で代替する機会を与えさえすれば、障がいの壁を少しでも克服できるのである。
ミッキーがかっこいい。ミニーちゃんがかわいい。センター・オブ・ジ・アースの地底走行車が独特な見た目をしている…。
私たちはそれを目で見て楽しむ。だからと言って、目の見えない人を界隈から除外してはならないのだ。
目が見えないのなら、肌で感じられる機会を与える。耳で感じられる機会を与える(東京ディズニーリゾートでは他にも、音声案内を行う「ディズニーハンディーガイド」というものが存在する)。
それを東京ディズニーリゾートでは、ひそかに尽力している。私は、先ほどの講義で感じた蟠りに対する一種のアンサーを、この日貰った。
当のゲストリレーションは、東京ディズニーシー・エントランス付近に存在している。入園したゲストは我先にとメディテレーニアンハーバー方面に抜けていくので、忘れ物でもしない限り当施設を利用することはない。
でも、これを読んでいる読者の皆さんがいつかまた東京ディズニーシーを訪れた暁には、少し目線をゲストリレーションの方に向けて、公共福祉について少しでも想いを馳せて欲しい。
かのウォルト・ディズニーは、自身のテーマパーク事業の功績を称えた友人に対して、このような言葉を遺している。
私は、東京ディズニーリゾートの取り組みをただの"美談"として終わらせたくない。社会基準でこうなって欲しいと強く思っている。ウォルトがかつてそう述べたようにー。
おわり
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