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ドリーミング・アップ!公演最終日をめぐる回想③(最終章)

*こちらは続編です。①から順番にお読みください。

2023年4月9日。
早朝、まだ外は薄暗い中、私は家を出て、徒歩で最寄り駅に向かっていた。
いつもならウキウキで向かっていたのに、この日のディズニーに向かう足取りは、一歩一歩がとても重かった。

それもそのはず、この日は、私の人生を支えてくれた「ドリーミング・アップ!」公演最終日。
この5年間、色んなことがあった。ディズニーの中でももちろんそう。キャラクターデザインや声優の変更、コロナ禍で臨時休園と、パークが大変なことになったり、反対に新しいアトラクションや新ナイトタイムレギュラーショーが出来たり。
でも、重い足取りの中で、私はそれ以上に、この5年間の自らの人生を振り返っていた。

5年前のこの日、「ハピネス・イズ・ヒア」最終公演をYoutubeで観てから、私の人生は大きく切り開いた。
それからも様々な苦難が私を襲ったけれど、そのすべてを乗り越えて、今の自分がある。

でもそれは決して、私が強いだとか、才能があるだとか、優秀だとか、そういうわけではない。もとより私は弱い人間である。小さなことですぐクヨクヨして、挑戦することを恐れ、何か困難が訪れれば自らに言い訳をして、尻尾を巻いてとっとと逃げるような性格だった。

だけれども、そんな私に、自らの人生を歩む意思を、困難に立ち向かう勇気を、そして、絶望の中でも希望を見出す力を授けてくれたのは、他でもない、東京ディズニーリゾートである。その中でも「ドリーミング・アップ!」は、私がこの界隈に足を踏み入れてからずっと公演し続けたパレードであり、私にとっては第2の親のような存在といっても過言ではなかった。

始発の電車に乗ると、反対側には35周年のミニーのぬいぐるみバッジを付けた、大きなバッグを持っている女性が座っていた。恐らく同業他社であろう。一眼レフカメラを携帯している都合上、Dオタというのは男女関わらず大抵皆バッグが大きい。彼女も心なしか、葬式のような暗いオーラを身に纏っていた。

同じくDオタの恋人と合流し、舞浜に到着した。始発と言えど、沢山のゲストが開園待ちをしている。ちなみにこの日は、Dオタの知り合いも何人かパークに来ていた。遠くに住んでいる高校の時の同級生も、夜行バスに乗り何時間も掛けて。なんだか、皆が最終公演を見届けるために各地から集合しているみたいで、底知れぬ一体感があった。

開園後、前列にいる人たちは速攻開園ダッシュをしてトゥーンタウン側(お見送り)に走り去っていったけれど、私たちは最前列であれば特に場所の希望はなかったから、焦らずゆっくりとプラザ付近を周回していた。最終公演くらい、平和に過ごしてほしかったけれど、残念ながらマナーを守らない人は一定数いるものだ。とはいえイン側の最前列が空いていたから、そこにレジャーシートを敷いて座った。

地蔵中、恋人と談笑しつつも、私は様々なことに思いを巡らせていた。5年という歳月は、とてつもなく長かった。本当に色んなことを経験した。辛く悲しいことも、最高に楽しかったことも。受験期、本当に苦しいながらもディズニーを支えに勉強し続けたこと。様々なトラブルに見舞われ、生きる意欲を失ったこと。今、一緒に地蔵している恋人に出会ったこと。「ビリーヴ!シー・オブ・ドリームス」の伝説の初回に立ち会ったこと。

そのすべてが走馬灯のように頭をよぎっていた。

そうしているうちに、いつの間にか1時間前スピールが流れる。周囲にいる同業他社のなかには、既に大泣きしている者もいた。私はというと、「ドリーミング・アップ!」との別れの悲しみよりも、これからディズニー史に残る最終公演に立ち会う興奮の気持ちの方が強かった。この時は。

1時間前、30分前、15分前…と、着々と、最終公演に向けてのスピールが流れる。いつも通りのスピールだけれど、それが流れる度、泣き崩れるゲストの割合が徐々に増えていった。

そして、5分前スピール。

「みなさまにお知らせいたします。まもなく、『ドリーミング・アップ!』が始まります。ミッキーとディズニーの仲間たちが、皆さんを、夢の世界へとご案内します。このパレードは、ファンタジーランドをスタートし…」

スピールを聞いているうちに、さすがに涙が目に滲んできた。
そして、スピールが終わった直後。

「みなさーん!聞いてくださーい!!!」

キャストさんが大声で叫び出した。
いつも通りの、安全に関するご案内だった。こんな大舞台の日でも、乱れることなく案内しきるところは本当に流石だと思った。

そして、案内が終わったと思ったその時。続けて叫び出した。

「ドリーミング・アップ!が大好きな人は右手を大きく挙げてくださーい!!!」

皆の右手が高く挙がる。

「ドリーミング・アップ!最終公演、しっかり見届けたい人は、左手を大きく挙げてくださーい!!!」

皆の左手が高く挙がる。

「皆さん、最後は笑顔で送り届けて下さい!
5年間、ありがとうございました!」

ここで私の涙腺は持たなかった。
「ありがとう」を言いたいのは、私の方である。この5年間、私はこのパレードに、ずっと、ずっと、支えられてきたのだから。

そこから少し間が空き、ぐしゃぐしゃな顔面も渇き、気持ちの整理もついてきた頃、遠くからイントロが聞こえだした。

そして。

シュー…という独特のイントロが大音量で流れる。

Dream…
Of a beautiful new world where imagination soars to new heights…
Up…
where new friends beckon you from the beyond of the clouds…
Get carried away with your hearts desire above the skies…
And dream up…
(想像力が新たなる高みへと舞い上がる、美しい新たな世界を思い描くの。
そこでは、雲を超えて、新しい友達が、あなたを待っている。
さあ、大空を駆け巡るあなたの心の願いに夢中になって。
ほら、夢を思い描こう…)

もう駄目だった。涙で再び顔面がぐしゃぐしゃになった。
それからは、感動の数十分間だった。
残念ながら、最後の最後までコロナ禍バージョンだったけれど、それでも十分良かった。これで最後なのだから。

「さあ、夢を追いかけよう!」のタイミングで、ミッキーと目が合って、とても嬉しかった。

無事トラブルもなく完走。しばらく動けなかった。
他の皆もそう。卒業式かと言わんばかりの大泣きで、パレードルートが感動に包まれていた。


このパレードを象徴する、ひとつのセリフがある。
パレードの先陣を切るミッキーマウスが放つこの言葉。

"夢はどこまでも、僕たちを連れて行ってくれるよ!"

35周年グランドフィナーレのグッズにも

"Dreams can take you anywhere."

と英語で同じセリフが書かれているから、恐らく運営側も、このセリフを、「ドリーミング・アップ!」を象徴する大切なものとして取り扱っているのだろう。

私はこのセリフを、死ぬまで信じ続ける。
高校受験、大学受験、人間関係のトラブル…。
この5年間、絶望の淵にいたとき、私をそこから「連れていって」くれたのは、夢を見る力。

それを自己啓発では、引き寄せの法則だとか、金魚鉢の法則だとか、ビジュアライゼーションだとか、色々言われているものだけれど、正体がなんであれ、夢を見て、信じるということは素晴らしい。

大人になるにつれ忘れ去られていく夢。
現実をみろ、夢見てるんじゃない、などと散々周囲に言われるようになる。

でも、私は決して、夢見ることの大切さ、そして、私の夢そのものを、何があっても忘れない。

それが、私が、この5年間、「ドリーミング・アップ!」に人生を変えてもらったことへの、最大の恩返しになると思っている。

私は、かつての私のように、不安や絶望の淵にいる人々の支えになれるような人間になりたい。そして、夢見ることの素晴らしさを後世に伝えたい。

それが、オリエンタルランドで働くことで達成できるのか、他の選択肢になるのかは、まだ私には分からない。

それでも、私はこの夢を追い続ける。
そして、既に大学生活の中で少しずつ、その夢を達成している。
その達成には、少なからず東京ディズニーリゾートを通して私が学んだことを反映している。


最後に。

私は、このブログ三部作を通して綴ったように、この5年間、「ドリーミング・アップ!」に沢山のことを学ばせてもらった。
この公演期間すべてが、私にとってはかけがえのない宝物である。

私の人生を変えてくれてありがとう。
私たちに、沢山の夢と感動を与えてくれてありがとう。

執筆現在公演中の「ディズニー・ハーモニー・イン・カラー」が恐らく最終公演を迎える2028年4月9日、またたくさん学んで、たくさん成長して、必ずここに戻ってきます。

「ドリーミング・アップ!」及び東京ディズニーリゾートの運営に関わったすべての人々への感謝と共に、この「ドリーミング・アップ!最終公演をめぐる回想」を綴じます。

東京ディズニーリゾートよ、永遠なれ。

2023年12月7日




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