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ディズニーランドであった心温まる物語【第6回】

 こんにちは。あさ出版noteにお越しいただきありがとうございます。

 緊急事態宣言の延長によって、引き続き入場制限がかかり、なかなか行くことが難しくなってしまっている「東京ディズニーリゾート」であった、心温まる物語を、今回もお届けします。

今までのお話しは、こちらからご覧いただけます⇓

普段、私たちが入ることができない「真夜中のディズニーランド」のお話しです。
一体どんなことが起きているのでしょうか・・・。

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真夜中のディズニーランド

  ディズニーランドでは閉園してから、翌日のオープンまで園内の隅々を清掃しています。
 ゲストがいらっしゃる状態ではできない、アトラクションの乗り物やベンチなどを、それこそ目に見えない裏側まで磨き上げ、すべての地面を水で洗い流してごみ一つ落ちていない状態に仕上げるのです。


 初めてその説明を聞いたときは、心の底からありえないと思いました。

 パーク面積は何十万坪もあります。東京ドーム約11個分に相当する広さの地面を全部、洗い流すとなると、大量の水を使いますし、その作業を行う人も大勢必要になります。莫大なお金が毎晩かかることは間違いありません。
 そんなの、経営的にも非効率すぎる、そう思ったからです。

 ところが、出勤初日に目にした光景は、まさしく説明されたとおりのものでした。
 夜出勤すると、大勢のキャストが勢ぞろいしており、ゲストがいなくなったと確認が取れると同時に、作業をスタート。徹底して、地面も、アトラクションも、ベンチも、看板も磨き上げていました。


 「どうしてそこまでするんですか?」

トレーナーに尋ねると、彼は笑顔で、迷いなく答えました。
『すべてはゲストのために!!』だからね」
 そして、徹底して清掃し、キレイにする意味について話してくれたのでした。

「パークの内の床を毎日すべて洗い流す。これはね、『毎日グランドオープンの状態に戻す』ってことなんだ。赤ちゃんがハイハイしても大丈夫なぐらいにね」
「えぇ〜」
「ここは屋外で屋根がないでしょう。地面をよく見ると、小石や砂利が落ちている。もちろん営業中もお掃除はするけど、僕らの持っている道具のメインは、ホウキとチリトリ。これで取れるゴミはいいけど、取れないようなものは、そのままになってしまう。
 ディズニーランドに来てくださるゲストの中には、赤ちゃんを連れてこられる方も多いよね。その赤ちゃんが何かの拍子にパークの床でハイハイしてしまったら、その小さな小石や砂利で手をケガしてしまうかもしれない。それがたとえ、スリ傷程度で、すぐに治ったとしても、ディズニーランドでケガをしたという思い出は消えない。
 ディズニーランドは最高の思い出を作っていただく場所。だから毎日、徹底的に水で洗い流すんだよ」
「でも、グランドオープンの状態にというのは、さすがにムリなんじゃないですか?」
「うん、たしかに清掃でグランドオープンの状態に戻すことは難しいよね。でもね、これはできるかどうかじゃないんだ。〝やるか、やらないか〞なんだよ」
「……」
「ゲストはここに来るために、いろいろ調べるでしょう? 僕らが旅行に行くときだって、雑誌や本を見て、載っている写真の風景を求めて向かうじゃない。
 でもさ、そこに載っている写真はどれもタイムリーなものではないよね。みんな過去に撮った写真だ。だけど、ゲストはその写真を信じて来てくれる。なのに実際目の当たりにした風景がまったく違うものだったとしたら……? ゲストの期待を裏切らないためにも、僕たちの基準は毎日グランドオープンの状態に戻すことなんだよ」
 ディズニーランドのゲストサービスへのこだわりのスゴさに、ただただ感嘆するばかりでした。

それから3カ月

 この頃、僕の担当はキャッスルカルーセル(白馬のメリーゴーランド)で、ゲストが木馬にまたがった時に捕まる真鍮の棒を、上から下まで薬剤を使ってピカピカに磨きあげていくというものでした。
 木馬は全部で90頭、棒の数も90本。

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 真っ暗な中、一人でひたすら棒を磨きながら、僕は、孤独を感じ、ふと、こんなことを毎日繰り返して本当に意味があるのか? 棒の上のほうなんか、ゲストが見上げなければわからないわけで、脚立に乗ってここまで磨く意味なんてないんじゃないか、そんなふうに考えることが多くなってきました。
 おそらく、仕事に慣れてきたことによるマンネリもあったのでしょう。
 ちょうどそんな時、研修の一環で、1カ月間、昼間のセクションで仕事をすることになったのです。


 夜の清掃と違って、直接ゲストと触れ合う仕事は、とても楽しく刺激的でした。

 昼間の勤務に移って間もない頃

 キャッスルカルーセルの前を清掃していると、年配のご夫婦に、木馬の前で写真を撮ってほしいと頼まれました。

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 楽しそうな笑顔のお2人を撮影し、カメラをお返しすると、
 「こんなにキラキラした回転木馬は初めて。本当にここは夢の国なのね。
年甲斐もなく、木馬に揺られてみたいと思ってしまったわ」
 と奥様。さらにご主人も、こうおっしゃってくださいました。
「実は、私たちは古希を迎えたばかりなんです。お祝いにどこかへ行こうと言ったら、妻がまだ行ったことのないディズニーランドがいいと。正直、この歳になってディズニーランドなんて恥ずかしくていやだなと思ったんだけど、園内はとてもキレイだし、スタッフさんは親切だし、来てよかったですよ」

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 お二人の心からの言葉と笑顔に、自分の仕事の意義、そして、トレーナーから教わった「すべてはゲストのために」という言葉の本当の意味が理解できました。
 今でもこのご夫婦の言葉は、私の活力となっています。

by 元ナイトカストーディアルキャスト


 今回のお話しはここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。

ディズニーランドでは、毎日どこかで物語が生まれています。

 本書では他にも、全26のステキな物語を収録していますので、お手に取っていただけると嬉しいです。


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