見出し画像

ディズニーランドであった心温まる物語【第5回】

 こんにちは。今回でディズニーランドのお話しも5回目となりました。いつもお越しいただきありがとうございます。

 緊急事態宣言の延長によって、引き続き入場制限がかかり、なかなか行くことが難しくなってしまっている「東京ディズニーリゾート」であった、心温まる物語を、お届けします。

 しばらくは、リゾートに足を運ぶ以外のかたちでも、あの特別な世界を楽しむことになりそうですね。

 さて、今回ご紹介するお話も、ディズニーならではのお話しです。

「1年ぶりの再会」です。どうぞ!

1年ぶりの再会

「おーい、おーい」
 アメリカのウオルトディズニー・ワールドでの研修を終え、日本へ帰国するまであと数日となったある日、アトラクションの入り口で仕事をしていると、1人の男の子が、カードらしきものを振り回しながら、走ってくる姿が見えました。

画像1

「ジョン‼ ジョンだよね‼ おかえり‼」
1年ぶりの再会でした―——。

 僕の担当は、マジックキングダム・パークにあるスプラッシュ・マウンテン。水しぶきをあげながら急流を丸太のボートで下る、園内でも1、2位を争う人気のアトラクションです。

 雲ひとつない、いい天気の休日ということで、その日はいつも以上にたくさんの人が並んでいました。列の誘導をしていると、幼い男の子2人を含む4人家族が列に加わるのが見えました。

弟さんの身長が気になった僕は、ご両親に声をかけました。
「こんにちは‼ このアトラクションはジェットコースターと同じで身長制限があります。お子さんの身長を測らせていただけますか?」
スプラッシュ・マウンテンはビルの五階程の高さから、時速60キロ超のスピードで急流を下るため、身長や年齢等の利用制限を設けているのです。
身長を測らせていただいたところ、お兄ちゃんはクリア‼
ところが、弟さんのほうは指二本分ほど足りません……。


「Sorry……。弟さんは規定の身長に満たないので、本日はご利用いただくことができません」
申し訳ない気持ちで伝えると、よっぽど楽しみにしていたのでしょう。弟さんはお母さんの背中で泣き始めてしまいました。

 ——どうしよう。なんて声をかけてあげればいいだろう。
弟さんを交代で見てもらいお父さん、お母さんに乗ってもらうかぁ―—
僕が困っているのを見て、アトラクションの責任者が声をかけてきました。

「どうしたんだい?」
「お子さんの身長が足らないので乗れないことを伝えたら泣き出してしまって……」
「そうか。ちょっとこっちへ」
彼は僕を家族から離れたところまで移動させ、小声でこう言いました。
「『あれ』を渡してあげなよ」
「あれって?」
「『ネクストチャレンジャー』だよ」
「……えっ? 何それ?」
「知らないのか? 身長が足りなくてアトラクションに乗れなかったお子さんが、次回遊びに来たとき、規定の身長を超えていたら列に並ばないで優先で乗れる証明書のことだよ。事務所でもらえるぞ」
 さっそく事務所に行って、A4サイズの立派な証明証をもらい、泣いている弟さんのところへ戻り、話しかけました。

「名前はなんていうの?」
「ジョン……」
「ジョン、実はね、君にプレゼントがあるんだ。これね、君が大きくなったら、列に並ばないですぐにスプラッシュ・マウンテンに乗れるカードなんだ‼」
「え〜っ‼ ほんと⁉ スゴイーー‼」
「君の名前を書いておくから、このカードを次に来るときまで大切にしておいて。必ずまた遊びに来てね‼」
「うん‼ ありがとう。ぜったいまた来るよ」
まだ少し、瞳は濡れていましたが、ジョンはニッコリ笑ってくれたのでした。

画像2

そして一年後。

 あの日の約束どおり、笑顔でカードを振り上げながら、ジョンが帰ってきました。
 彼はメジャーで測らなくていいほど、背が伸びていました。
「ジョン、大きくなったね‼ さあ、乗り場へ案内するよ‼」

 家族4人でボートに乗船したジョンは、最高の笑顔で私が見えなくなるまで手を振ってくれました。
しばらくして、アトラクションのクライマックスにある滝つぼの水しぶきで    びしょ濡れになったジョンとその家族が、やって来てくれました。
「最高に楽しかったよ!!」
そして、こんなことを言ってくれました。
「決めたよ、僕も大きくなったら、絶対、ここで働くんだ!!」
「そっか。君ならきっと最高のキャストになれるよ!!残念だけど、僕はもう少しで日本に戻るんだ。でも、君が大きくなってここで働いくようになったら、今度は僕が遊びにくる。約束するよ。また絶対に会おうね!!」

 あれから10年経ちました。僕はジョンとのこの約束が果たせる日が来ることを、今も楽しみにしています。


by 元アトラクションキャスト


 今回のお話しはここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。

ディズニーランドでは、毎日どこかで物語が生まれています。

 本書では他にも、全26のステキな物語を収録していますので、お手に取っていただけると嬉しいです。


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?