ディズニーランドであった心温まる物語【第4回】
こんにちは。あさ出版noteにお越しいただきありがとうございます!
3度目の緊急事態宣言によって、引き続き入場制限がかかり、なかなか行くことが難しくなってしまっている「東京ディズニーリゾート」であった、心温まる物語を、今回もお届けします。
しばらくは、リゾートに足を運ぶ以外のかたちでも、あの特別な世界を楽しむことになりそうですね。
さて、今回ご紹介するお話も、ディズニーならではのお話です。。。ハンカチのご準備をお勧めします。
今週は「余命1ヶ月のヒーロー」というお話しです。
今回登場するアトラクションの詳しいお話しはこちらです。⇓
余命1ヶ月のヒーロー
その日、私がシンデレラ城で出迎えたのは、小学6年生のお兄ちゃんと小学2年生の弟、そのお父さんとお母さん、そして親戚で来られたグループでした。
この兄弟とご家族がツアーに参加されることを、私は事前に知っていました。
なぜなら、お兄ちゃんは難病により余命1カ月だと宣告されているため、万全の注意を図るよう、連絡があったからです。
「『元気になってまた大好きなディズニーランドに行きたい。
そして前に入ったことのあるシンデレラ城で、僕も悪い奴をやっつけてみたい』と男の子が希望している」
彼の夢をかなえてあげたい。それには、どうすればいいだろうーー。
検討した結果、今回は通常のツアーとは別に、その彼と家族と一緒に来られた親戚の方、そして来園中なにかあってもすぐに対応できるよう、彼に同行している専属のドクターやナースの特別ツアーをすることになりました。
注意事項として通達されていたのは、その男の子の余命を知っているのは、ドクターとナース、お父さん、お母さんと親戚だけであり、本人もその弟もそのことは知らされていないということ。細心の配慮が求められます。
ツアーがはじまりました
ツアー中は目の前にいる男の子のことを思うと胸が張り裂けそうでしたが、いつもと同じように、明るく振る舞わなければと自分に言い聞かせ、ガイドとして、みんなの案内役を務めました。
シンデレラ城ミステリーツアーは(現在は終了しています)、ディズニーの悪者たちに乗っ取られてしまったシンデレラ城を取り戻すため、ゲスト数人でグループ(ツアー)になってガイド役のキャストと一緒にお城の中に入り、悪の大王ホーンド・キングと戦う参加型のアトラクションです。
クライマックスでは、光の剣を使って、お城を乗っ取った悪の大王を倒します。その光の剣は、勇気と善意と純粋な心の持ち主が握ると光が宿り、悪者をやっつけることができる。そんなストーリーです。
そしてツアーはいよいよ、クライマックスシーンに。
彼の夢だった、悪者をやっつけるシーンです。
私はいつも以上に心を込めてセリフを言いました。
「光の剣はきっと次の部屋にあります。
勇気と、善意と、純粋な心のある人なら、その光の剣を使えるはずです。
どなたかいらっしゃいませんか? 誰か力を貸してください!!」
すると、次の瞬間でした。
「そうだ、お兄ちゃん!! ねぇ、お兄ちゃんがやりなよ!!」
それまでお兄ちゃんの側にいた2年生の弟くんが声をあげました。
彼のひと言につられたように、お父さんやお母さん、親戚の方々も続きます。
「そうだ、おまえがやれよ!」
「お兄ちゃんならきっとできるわよ!」
「がんばって!!」
みんなの声に勇気をもらったのか、お兄ちゃんは震える声で、
「う……ん」
と答えてくれました。
そして、家族が見守るなか、光の剣を手にしたお兄ちゃんは悪者を倒し、見事、シンデレラ城を守ってくれました。
自分の力で夢をかなえたのです。
そしてフィナーレ
ツアーのフィナーレで、悪者をやっつけてくれたお礼に「ヒーロー」と記された記念メダルをお兄ちゃんの首にかけてあげたとき、お兄ちゃんの目からほんの少し涙が流れているのに気づきました。
弟やみんなに応援されて、夢をかなえられたことがうれしかったのかもしれません。
私も思わずもらい泣きしそうになりましたが、涙をこらえてなんとか最後までやり遂げました。
約20分間のツアーの間、お兄ちゃんの体調も急変することなく、無事にツアーを終えてお城の外にでると、先ほど声をあげた弟くんがお兄ちゃんに駆け寄り、その首にかかっているメダルを覗き込みながら
「スゴい。お兄ちゃん、やったね!! 悪い奴をやっつけたんだよね」
と何度もうれしそうに言っていました。
私はその二人のほほ笑ましい姿を見ながら、弟くんのやさしさに胸を打たれました。
当時の弟くんは小学校2年生。
自分が同い年の頃だったら、自分だってお兄ちゃんのように勇者になって光の剣で悪い奴をやっつけたいって思うはずです。なのに、お兄ちゃんの夢を素直に応援できた。
弟くんもまた、このツアーのヒーローでした。
うっすら涙を浮かべながら、笑顔で「ありがとうございました」とお礼を言ってシンデレラ城をあとにするご家族を見送りながら、私は「また遊びにきてね」と精一杯手を振ったのでした。
by 元アトラクションキャスト
今回のお話しはここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。
ディズニーランドでは、毎日どこかで物語が生まれています。
本書では他にも、全26のステキな物語を収録していますので、お手に取っていただけると嬉しいです。
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