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リーガルライティングに関する実験的覚書

米国ロースクール (LL.M.) の授業ではいくつか必修科目があって、おそらくどのロースクールにいっても一部はだいたい同じような内容の授業を受けることになります。今回は、Legal Research and Writingという必修科目の中で習ったリーガルライティングのお作法のうち、「へ~」と思ったことや、意識していきたいことを備忘がてらまとめたいと思います。「実験的」とした理由は最後のお楽しみです!(多分バレバレ)
 具体的には、I. 予測可能性を高めるための方法と、II. 文献引用の際の補足説明の方法の2つについてまとめます。

I.予測可能性の高い文章を書くために、ロードマップセクション、結論を明示する見出しを書き、1段落1アイディアを守る

リーガルライティングでは、予測可能性が重要視されており、そのために守るべき3つのことを今回紹介したいと思います。読者が「この文章はどこに向かって進んでいるのか?」を疑問に思うような文章は避けるべきであり、あらかじめわかっている結論に向かって論理的に進んでいく文章を書くべきです。具体的には、以下の3つ。順番にいきましょう。

  1. "Umbrella" パラグラフ(ロードマップセクション)を書く

  2. 見出しに理由と結論を書いてしまう

  3. 1段落1アイディアを守る

1.本論に入る前に"Umbrella" パラグラフ (ロードマップセクション) を書くことで、文章全体の構造を読者にとってわかりやすいものにする

"Umbrella" パラグラフとは、これから自身が行う議論のロードマップを示す段落のことで、議論の首尾一貫性と予測可能性を高めるための段落です。内容としては、①これから述べる議論の結論、②その結論を導く前提となるルール(法的三段論法における大前提)、③これから小項目に分けて述べる議論の紹介を含み、④特に段落を割く必要のない些末な論点があればそれに触れることもあります。

これを書くべき場所についてですが、段落のナンバリングがA, B, C1, C2となる議論を書く場合は、小見出しAの前にA〜C構造を説明するUmbrellaを置き、さらに、C1に入る前にC1, 2を説明するUmbrellaを置くということになりますね。図で示すと以下の感じ。何度も書きすぎでは?とも思うところですが、実際あった方がわかりやすいのは確かなので、文字数と相談しつつ取り入れていきたいところです。

Coughlin, C. N., et al., A Lawyer Writes 213 (3d ed. 2018)
Every discussion about a client's legal question begins with an introduction. In that introduction, you will tell your reader the conclusion . . . , explain the governing rule, dispense with arguments that will not be addressed, and then indicate the order in which the remaining legal arguments will appear. The introduction serves as a roadmap to the Discussion section, . . . . A clear roadmap section will make your discussion more cohesive and understandable for your reader.
前掲Coughlin, 213頁

2.わかりやすさを高めるべく、見出しには結論と理由まで書いてしまう

長い文章を書く場合、見出し (Heading) を使うことは通常だと思うのですが、リーガルライティングにおいては、見出しにそのセクションで述べたい結論と、その理由まで書いてしまうのが良いとされています ("Point Heading(s)"と呼ばれている) 。これは、当初個人的には結構驚き(というか違和感?)があった点でした。私としては、見出しはトピックを名詞で置くようなイメージが強かったのですが、普通に文章で書いていいみたいです。10~30 wordsでセクションの結論を文章化するのがよいと教わりました(見出しなのに結構長い!)。この後述べますが、段落の冒頭にはトピックセンテンスを置くことになるので、必然、見出しとその直後のトピックセンテンスの文章はほぼ同じ内容になることがよくあります。これは特に問題ないみたいですね。つまり、「2.見出し」ではなく、「2.わかりやすさを高めるべく、見出しには結論と理由まで書く」が正しい。(細かいですが、英語だと、全wordの冒頭を大文字で書く+見出しだけは行間を開けない (single-spaced) みたいなtipsもあります。)

For point headings to actually perform their work, they should describe two things:
1. Your conclusionto the section, and
2. The primary reason for your conclusion.
前掲Coughlin, 220頁

3.1段落1アイディアを守る

これもしばしばいわれていることで、見出し付きのセクションを論理的な構造に従って1アイディアごとに段落分けするのが良い文章とされています。したがって理想的な段落とは、一つのアイディアを説明するための文章群になるはずですね。これも実際文章を書いてみると結構難しく、1段落に複数のアイディアが入ってしまったり、一つのアイディアを説明したいのだが段落が長くなりすぎてしまう、といったことはよく起こります。これを守るため、(1)段落冒頭にトピックセンテンスを置き、(2)段落末尾に小結論を置く、の2つのtipsがあります。

A PARAGRAPH IS OFTEN DESCRIBED as a group of sentences developing a dominant idea that is usually expressed in a topic sentence.
Shapo, HS, et al., Writing and Analysis in the Law, 203 (6th ed. 2013)

3(1).各段落の冒頭には、段落の結論を明示するトピックセンテンスを書く

段落の冒頭にはその段落の主張を端的に表現したトピックセンテンスを書くことが重要です。3.で述べたとおり、段落とは、一つのアイディアを説明する文章群のため、トピックセンテンスを置くことで、その段落を効果的にまとめることが可能、ということです。これは非常に有名な話で(高校受験とか大学受験の英語でも教わった気がします)、特に特筆すべきこともないのですが、だらだら文章を書いていると意外にできていないことでもあります。ちゃんとトピックセンテンスが置かれている文章の場合、各段落の冒頭の文章だけを読むことで、文章全体を飛ばし読みすることが可能となります(よく、"skimming"と言われます)。読者に効果的にskimmingしてもらうためにも、トピックセンテンスを意識的に置くことは重要だと思います。

3(2).各段落の末尾には、段落の結論をまとめる小結論を書く

1段落1アイディアの帰結として、段落の末尾には、その段落で何を言いたかったのかの結論を書くことが重要です。こうすることで、その段落で一体何を言いたかったのかが明確になるとともに、段落のまとまりがさらに強化されます。トピックセンテンスにおいても、段落の結論を明示するため、段落はトピックセンテンスと小結論でサンドイッチされることになりますね。法的文章の基本形であるCREAC (Conclusion, Rule, rule Explanation, Analysis, Conclusion) は、この考えに立脚しています。トピックセンテンスはその段落の紹介(これから何を議論するか)に焦点が置かれているのに対し、小結論はその段落の総括(これまで何を議論してきたか)に焦点が置かれているため、表現したい内容は同じでも、その表現方法は自然と異なるものになるはずです(一般的には、小結論の方が詳細になりそう)。

小括:予測可能性の高い文章を書くために

ということで今まで3つ(小項目加えると5つ)のtipsを紹介しました。意識すれば割と簡単に始められそうなものだと、個人的には思います(貫徹するのは難しそうですが)。上記tipsはいずれも、読者に対して、今の議論がどこに位置づけられるのか、どこに向かっているのか、を何度も想起させる内容になっており、reader friendlyが徹底しているのが良いですね。

II.文献を引用する際には、できるだけかっこ書きで補足説明を加えることで、引用文献の内容と理由を明確化する

文献(ケース、ジャーナル等々)を引用する際には、引用した理由が明らかな場合("引用符"による引用や、本文で理由を述べている場合等)を除き、引用文献を示すときに、かっこ書きで引用元文献の内容・引用した理由を簡単にまとめた補足説明を書くべきです。"Parenthetical(s)"と呼ばれます。具体的には、以下のケースYYYの後のかっこ書きみたいな感じです。ここでは、本文中には直接登場しない、YYYのケースの内容を補足して述べることで、YYYのケースの位置付けを明確化しています。

See XXX; see also, YYY (stating that [XXXのケースと同様の考慮を行っている旨]).
例は超適当です

I. に比べるとかなり細かなtipsになりますが、読者に「なぜこれを引用したのか?」といった余計なノイズを抱かせないことだけでなく、ドラフト段階であいまいな引用を防ぎ、引用文献の位置づけを明確化できるので、個人的には、parenthaticalはとても重要なtipsだと感じています。

おわりに

これまでの文章は、今まで説明してきたtipsを実践する形にしてみました(トピックセンテンスとか段落の結論とかはそこまで厳密にできていませんが、ご容赦を)。お気づきだったでしょうか。バレバレでしたね?
 ブログみたいなゆるい文章だと、ここまでやるのは単純にややこしく、むしろかえって読みにくいのかもしれませんが、まじめな英文を書く場合は、これくらいやった方がわかりやすいのでしょう。なお、Plain Englishのテクニックは他にもいっぱいあります(このブログで紹介した文献も、他のブログも)が、今回は、個人的に気を付けたい構造的なところをまとめてみたという感じでした。

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