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「稼げるフードライター」の条件(前編)

実績は作ったと思う。しかし……


「食だけをテーマに取材執筆する専門ライター」として活動し、20年以上経ちました。

プロフィールにも書いていますが(こちら)、『dancyu』『おとなの週末』『ELLE Gourmet』など食の有名な雑誌、朝日・日経・読売など大手新聞各紙に記名原稿を書いてきたし、『フードライターになろう!』というこの仕事についての日本で唯一の職業本を出したし(商業出版)、食の専門家として日テレ・TBS・フジ・テレ朝・テレ東・TOKYO MXまで、テレビは地上波の全民放局に出演しました。ラジオも2回(J-WAVEと文化放送)に出ました。

2022年に出した日本初の「フードライターになるための職業指南本」。商業出版です。

この20年でフードライターとしては一定の実績を積めたのかな、とは思っています。
……って、え?

なんや、いきなり自慢かーい!とこれを読んでくださってる方だけでなく、自分でもツッコミを入れそうですが(笑)。
「フードライターとして名前を売れたか」と、「稼げるフードライター」になれたのか、とはまったく別の話だ、ということを言いたくて、この記事を書きました。

♪昭和じゃないのよ時代は、はっはぁーん

コピーライターなどカタカナ職業が一世を風靡したバブル前後の1980年代〜1990年前半は、イコールだったのかもしれません。
フードライターの先駆けである山本益博さん(1948年生まれ・御年76歳)はご著書で「普通の人はレストランで食事をすると金を払うものだが、私の場合は食事をするとなぜか金が入ってくる不思議な仕事をしている」といった趣旨のことを書かれていて、若い頃は憧れたものです。

しかし平成半ばから令和の今はまったく違います。まず本や雑誌が売れない。出版業界全体が大変厳しい状況の中で、その編集制作を請け負う外部スタッフのギャラは激減しました。

さらにウェブとSNSの劇的進化で、情報はプロでなくても発信できる時代になりました。ネットの情報は玉石混交だから信用できないという人もいますが、レシピやレストランなど生活に密着した食の情報は、プロより一般のマニアな発信者が詳しいケースも多々ありで。
そうすると、
食の情報は無料のネットで探せば十分→
お金を払ってまで食の雑誌や本を買う人は少なくなる→
フードライターの活躍の場は激減→
でも食の情報を書きたいというライターはまだまだ多い→
需要<供給で、原稿料ダダ下がり
というとても厳しい現状なのです。

ただし、そのずっと前からライターの単価が軽視されてきた現状に一石に投じたい

ただ、そうした世情の変化でフードライターのギャラが激減という事象とは別に、もう少し前の本や雑誌が売れていた時代から、私は「ライターの単価ってなんでこんなに低いんだろう」という疑問を常に持っていました。

紙の雑誌(デジタルコンテンツも)を作るには、
・編集者(ページ全体の制作ディレクター)
・ライター(そこに入る文章を取材して書く人)
・カメラマン(取材現場の写真を撮る人)
・デザイナー(編集者の指示や意図に従い、文章と写真をカッコよくページにはめてデザインする人)
という主に4役のプロが関わります。

本や雑誌が売れていた時代から、編集者からは「雑誌ってカメラマンさんもデザイナーさんも儲かるんだけど、ライターさんだけはどうしても儲からないのが業界の構造なんだよねえ、申し訳ないけど」と言われていました。

おしゃべりな人と無口な人がいて、時間が限られたなかで相手から面白い話を引き出す「取材」にはそこそこの地頭や知識、コミュニケーション能力が必要です。そしてその取材した情報を元に決められた文字数で、その媒体や誌面に合ったなめらかな文章を書くのも結構なスキルが要ります。

しかも文章って文字数が少なくてもきれいにまとめるには結構な時間や労力がかかります。なのにそれに合った単価が得られているとは言い難い。
理由は、最悪の場合、編集者が代行できるからです。カメラやデザインは、編集者は代行できません。

そんななか、食をテーマにした原稿は「楽しそうだし(楽そうだし?)みんなが書きたい」からさらにギャラが安くなります。要はフードライターは、ライター界でもこれ以上のレッドオーシャンはないジャンルなのです。

レッドオーシャンで、時間がおそろしくかかり、ギャラが安い。

もしかしてフードライターって…‥生産性重視、AIに人間が仕事を取られてヤバい!とみんな思っている時代に最も逆行している職業?なんでみんな憧れるんでしょうか(笑)。

で、稼げるフードライターの条件ってなんなのさ

それでも私はこの仕事が好きで好きでやめられず、20年以上続けてしまいました。

出産をはさみ、子育てや医療、建築など別ジャンルのライターも並行して手を出したこともありましたが、全然興味が持てず、面白くなくてすぐ食の取材に戻りました。

要はお金の問題とは関係なく、この仕事しかできないのです。
現在の「生産性とマルチタスクの時代」に最も向かない、時代遅れの職人体質ってやつです(笑)。

しかし体質がそうならこれでやっていくしかしょうがない。この時代に、これからもこれからも続けて、一体どうやったら稼ぐフードライターになれるのか。
20年考え続けて、最近出した結論は「仕事を毎回、一生懸命やらないこと」では、と思っています。

「仕事を一生懸命やらない?アンタ何言ってるの?」と怒号が飛びそうですが……さらに長くなりそうなので、後編は後日書きます。
とにかく8月20日にこれを公開したかったのです。8月20日は私が毎年自分をリセットする日と決めています。
続く。

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