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3Dプリント食器で地球を食べる。ANTCICADA × 積彩「EARTH COLOR」に行ってきた

動物、植物、昆虫など地球の全てを食材として愛し、“地球食”の魅力を探求するレストラン『ANTCICADA』と、最先端の3Dプリントテクノロジーで新たな色表現を研究するデザインスタジオ『積彩』による特別コラボレーション企画。

https://antcicada.shop/items/62468706bfe68b6dab586c20

に行ってきました。限定13席×3回 のうち初日の夜に参加。3Dプリントと昆虫食への興味が重なり、普通のコース料理すらほぼ未体験のくせに、気づけばチケットをポチっていました。

馬喰町の静かなビルにひっそりと店を構えるANTCICADA。堅苦しい雰囲気はまったくなく、コの字型のカウンターキッチンでその時を待ちます。

う、うまいですこれ…

< ようこそ〜 スナック >

輪切りの丸太に乗って登場したウェルカムフードは、100%コオロギの出汁だけで作られたというスナック。嫌な味は全くなく、えびせんよろしくサクサクもぐもぐ食べられる。コオロギビールもこっくりと美味しい。

< 冒険のエントランス〜 蜂の前蛹、発酵白菜、ふきのとう >

スズメバチの蛹を使ったスープから本格的にコースがスタート。発酵白菜の酸味と、グニュグニュしたタンパク質の塊のようなハチの組み合わせが楽しい。ピンクの粒(聞きそびれた)のプチプチ、カリッとした食感も良いアクセント。

 < クレープ〜 コオロギ麺、ピスタチオ、タガメ >

こちらはタガメのクレープ。白いクリームのメロンみたいな甘くて良い香りは、タガメのオスが出すフェロモンの匂いなんだとか。食べ物の着色料に虫が使われている、みたいな話を聞いてゲーッと思った記憶はあるが、実物を見ながら味わうとむしろ「よく発見したな〜」という感心が上回った。

 < 草陰〜 いなご、カリフラワー、春菊の泡 >

ふわっふわのウマい泡とラディッシュを下からスプーンで掬い上げ、イナゴを探すようにして食べる一皿。「地球色(アースカラー)」というテーマにたがわず、スコップを握って探検するようなワクワク感がありました。

ちなみにコースはペアリングとなっており、それぞれの皿に合わせたドリンクがついてくる。アルコールでは「森が凝縮されているのか!?」と思うくらい葉っぱ感があってめちゃウマな「YASO GIN」や、WAKAZEとコラボした「蚕紗どぶろく」など、単体としても感動的なドリンクが勢揃いでした。は〜ウマかった。


目鼻の先に迫る色彩

この写真は西武渋谷店で撮ったもの。

そして5品目で本日の主役が登場。3Dプリントでの色彩表現を追求するデザインスタジオ「積彩」とのコラボレーション皿です。実物はSNSや開催中の西武渋谷の展示で見ていたのだけど、その活用方法が超サプライズでした。

「はじまり」と名付けられた一皿には、原始地球の海水をイメージしたというスープに海藻とジュレが鎮座。はてスプーンはどこだと思っていたら、「そのままお椀を持ってすすってください」との案内が。

うおーマジかと驚いたのだけど、横綱のように両手で器を持ってみると、えも言われぬ迫力。 積彩の作品は見る方向によって色合いが滑らかに、ダイナミックに変化することが大きな魅力なのだけど、それが文字通り「目と鼻の先」に迫ってくるわけだ。

ザザ〜ン

生命のスープをたたえた器が複雑に光を反射し、波打ち際よろしく食材が口に流れ込んでくる。20種もの養分が詰め込まれたジュレは本当に複雑な味で、海藻の食感と共に口を情報で満たしていく。一部の具材は残ってしまうのだが、それはそれで海岸の風景を彷彿とさせるものでもあって。

これがかなりインパクトのある体験だったのだけど、その理由を察するに、良い意味での色彩の暴力というか、これほどまでにクローズアップして器の色を見たことがなかったからだと思う。積彩のプロダクトは最高に綺麗なのだけど、たぶん花瓶というオブジェクトをくるくる回して楽しむ人はそれほど多くない。他方、食器という用途になった途端、手にとって近くで見たり回したりという行為が理に適ったものとなり、その自然な所作の中で色の変化を堪能できるのだ。

コースが進むたび、ドンピシャの頃合いでサーブされる水のボトルカバーにも同じことが言える。セミをイメージして作ったというカバーは、単純な造形も美しいのだけど、キッチンスタッフによって水が注がれ、また別の場所に置かれるたびに見え方が変わるのが愉しくてたまらなかった。「水を注ぐ」という必要性に基づいた行為が、カバーによって見た目でも楽しめるようになった、エポックメイキングな瞬間だ。


俺は地球を食べたのだ

< セミの気持ち > と < 鮎、ルタバガ、ハーブたち >

コースはその後も続き、これまた別のプロダクトデザイナーが特別に作った器にストローを突っ込みセミ気分で樹液風ドリンクを吸ったり、アメリカナマズを濃厚なソースとハーブで味わったり、ワシワシと猪を食べたり。日本各地、海から山から届いた食材たちとの対峙は「食は作業ではない、冒険だ」というANTCICADA のコンセプトが存分に伝わるものだった。

< コオロギラーメン > に浮かぶコオロギは、ついさっきまで元気でした。

名物のコオロギラーメン、杏仁豆腐のようなモモブトハムシ、栗に巣食うクリシギゾウムシを使ったデザートで締めくくり。いま思い出しても、いわゆるゲテモノ感は一切なくて、むしろコオロギラーメンは焦がし出汁系のじっくり美味いラーメンとして定期的に食べたいくらいの味だった。

2時間ほどのコースはあっという間に終了。iPadを持って写真や動画付き(捕獲シーンもあるよ)で食材の背景を語ってくれるし、器も楽しいしBGMもあるしで、なんだか一つの壮大なショーを観た気分だった。


新しい選択肢に触れた夜

店内には積彩が作った他の器もちらほらと。丼で食べるならどんなメニューだろう? などと妄想が広がった。他方、そもそもANTCICADAの器は全て特注で作っているらしく、勿論それぞれに質が良い。メニューに集中するため、あえて主張しないように作ったものもあるとのことで、器の世界の奥深さを垣間見た。

ANTCICADAといえば昆虫食のイメージだったが、昆虫に限らず新しい食の選択肢があることを知ってほしいのだという(だから、正しくは昆虫食じゃなくて地球食なのだ)。昆虫、外来種、食器、そして3Dプリント。世の中にはまだまだ新しくて、知らないものが溢れている。そんなことを感じた贅沢な一夜でした。

ごちそうさまでした。


※ ヘッダー画像は積彩の代表である大日向さんのツイートから。


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