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冒険しない孫と、冒険する祖母の話

祖母と母と私の3世代でよく出かけている。
みんなそれぞれそう遠くない場所に住んでいるため、
多い時は週に一度のペースだ。

今日は、もう一生秋なんて来ないんじゃないかと心配になるほどの暑さで、
私たちは涼を求めてジェラート屋さんに行った。

ダイエットに成功したジャムおじさんのようなおじ様が、
コック帽をかぶって出迎えてくれた。
様々なフレーバーのジェラートが並ぶショーケースには、
定番のミルク、抹茶、今が旬のイチジク、あと八丁味噌味なんてのもあった。

ジャムおじさんのコック帽を眺めながら、私は心の旅に出ていた。

八丁味噌味っておいしいかな?
甘いタイプの味噌だったらアイスに合うかもしれないけど、八丁味噌ってどうなの?
せっかくだしお試しで食べてみようか…いやでも、横で食べているお姉さんたちの
ジェラートを見る限り、お試しというには多すぎる量だな…

_______「お客様は?」

旅の途中、おじ様の声によって私の意識はジェラート屋へと戻された。
私の隣にいた祖母が注文する番が来たのだ。

「イチジクと、あと八丁味噌」

祖母は入店する前から決めていましたという様なスピードで
おじ様に八丁味噌をオーダーしたのだ。

そう言えば祖母は、どこへ行った時も冒険の心に溢れていた。

飲食店(特に遠出した時の)へ行くと「ひじきのピラフ」とか、
喫茶店へ入ると「ラムレーズンのタルト」「ブラックペッパーのクッキー」とか。
先日祖母の自宅で野菜炒めを振る舞ってもらったときは、
「ライム胡椒塩」なるものがごく普通に出てきた。

私の中の価値観では、人は高齢になるにつれ“定番の” “お馴染みの”ものに
安心感を覚えるようになるものだと思っていたが、
私の祖母は常に新しいことにワクワクし、とりあえず買ってみる、食べてみる、
そうやって人生を楽しむ冒険家だ。

私はきらきら輝く冒険家の背中を見ながら、おずおずとミルク味を注文した。

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