イグアナ23ーエピローグ
僕は、厨房から注文されたハッシュドビーフと焼きたてパンを、カウンターに出す。
それに気がついた優子が、トレーに載せ、注文された客の元に運んでいく。
「ごゆっくりお召し上がりください!」明るい声が店内にそよ風のように通り抜ける。
出会って20年。
彼女との間に、二人の息子が産まれた。
宙と陸、ふたつ違いの兄弟だ。
カフェの修行は、結局育児に追われ、いつの間にか自然消滅した。
二人の息子達は、高校を卒業すると、うちを出た。宙は、人の役に立ちたいと青年海外協力隊に、陸はこの春、看護師の道を目指し看護科のある大学に、変わり者の夫婦から、よく、立派に育ったものだ。
僕達の愛のキューピットだったみどりさんは、10年間生きて、天国へ旅立った。
もし、みどりさんがいなければ、僕達は、結ばれることはなかっただろう。
今日は、優子の母と吉田の間にできた、奏の誕生日だ。奏も20歳。
午後からカフェを貸切で、誕生日パーティーをすることになっている。
ランチタイムは、終わり。
後片付けに入る。
「お母さんたち、ちゃんと来るかしら。私達の結婚式当日の時みたいに車エンストになっちゃったりして!」冗談めかして笑う優子の目じりにうっすら笑いジワ。
「あの時は焦ったな。結局僕の親父とバージンロード歩いたんだよな。でも、親父喜んでたよ。一人息子だったから、まさかバージンロード歩くことになるなんて夢のようだと。」
その親父は5年前、くも膜下出血でこの世を去った。陽だまりに咲く花を無くした母は鬱になっていま、病院で療養中だ。
人生は、どこでどうなるか、分からない。
優子の母は奏を産んでさらにパワフルになった。
趣味の絵が、有名な画家に認められ、今年個展を開くらしい。
僕は、相変わらず、厨房から優子を見つめる。
これからもずっと変わらない日々だろう。
午後2時を過ぎた頃。
カフェのドアが開く。
「こんにちはぁ。」
爽やかな潮風と共に吉田家族が入ってきた。
おわり
最後まで読んでいただきありがとうございます。宜しければ
感想などきかせてくたさい!
この記事が参加している募集
今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。