イグアナ11

屈託の無真一郎の笑顔を見た瞬間、抑えていた感情が、滝のようにドーッと流れ出して、その場に崩れ落ちそうになった。
おっといけない!気持ちを立て直し、
「はあ〜良かった!腕がちぎれるかと思ってドキドキしてたんだ。」少し涙声になっている。しかし、私は笑顔をその上に作ってみせた。
「もし僕がいなかったら、優子さんたおれてたよ。しかし、この尋常ではない荷物…どうしたの?」
「私、会社辞めてきちゃった!」
「えっどういうこと?」目を丸くする真一郎に、とりあえず帰ることを提案した。
「みどりさんが待ってるよ!」

家に着く頃には、手感覚がなかった。
真一郎が鍵をあける。もう部屋は、真っ暗だった。重い荷物を玄関に置くと、力が抜けて座り込んでしまった。

夕飯は、真一郎に任せた。
入浴を勧められて、
「決して見ちゃダメよ。」と、おどけてみせた。
湯船浸かると、傷が、染むような感に襲われる。母の事、そのあとの上司とのやり取りが、蘇り、涙が流れた。浴槽からお湯を抜き、シャワーで、顔から湯をかぶり、ジャージに着替えて、浴室から出ると、真一郎もスーツからスウェットに着替え、キッチンで何か作っていた。コンソメのいい香りが漂う。「また勝手に食材使わせてもらったよ。また食材のお金払うからね。」

私はクスッと笑う。「調理代で食材費はチャラね。」
「そういう訳にはいかないよ!僕もみどりさんもただでここに居させて貰ってるんだ。」
「いいの、真一郎さんが居てくれて、今日こそは、感謝してるんだ。」

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。