イグアナ19

夕方、母と吉田が大きなケーキの箱を提げてやってきた。

私は、肉屋ですき焼き用の牛肉を買ってきて、すき焼きの準備していた。
すき焼き用の鍋がないので普通の両手鍋をカセットコンロに乗せる。

私が肉を入れようとすると、母が私の持っていた菜箸を横取りする。昔から母は、鍋奉行なのだ。
「とても、ええ肉やからね。私に任せとき!あんたはコップやら皿やら準備して!」
「また、そうやって仕切る!言うとくけど、ここ、私の家やからな。」顔をむくれてみせるが、聞く耳を持たない。
鍋奉行のお陰で、普通の鍋でもすごく美味しそうなすき焼きに仕上がり、4人でテーブルを囲む。お互いコップに飲み物をいれ、
「ほな、乾杯しようか。優子一言挨拶しい。」
「なんで私?」
「今日の主役は、あんたやからな。それにあんたの隣に座ってる彼氏さんまだちゃんと紹介してもらってへんから。」説教がながくなりそうなで、私は座り直して、
「今日は私の誕生日祝いにお集まりいただきありがとうございます。この高級なお肉は真一郎さんが汗水垂らして稼いだお金で買わせていただきました。私の隣にいる彼は私の婚約者であり、良き理解者である中村真一郎さんです。では、皆さん今日笑顔で集まれたことに感謝します。乾杯!」
「まぁ立派に挨拶できるようになって!中村さん、ふつつかな娘ですがよろしくお願いいたします。しかし、もし優子が、悲しむようなことをしたら母としては容赦しません。肝に銘じておいてください。」
「はい!確かに。優子さんのこと幸せにします。」

ははははっ、私は笑いが止まらなくなった。
なんでそこで笑う?と真一郎が目で訴えてくる。

「ごめんね。中学の時、母が彼氏に逃げられて死ぬほど泣いててたの思い出したの。でも、それで吉田くんに巡り会えたのだから人生は、分からないものね。」
しみじみ私は言うと、「あんたもな。」

今度は笑いの大合唱となった。そんな私達をみどりさんが見つめている。

とても楽しい宴は過ぎ、吉田と母は帰って行く。
帰り際に、「年末は真一郎さんと真一郎の実家に行ってご両親に挨拶してくるから、正月はここにいないから。」
母はお腹を擦りながら、「ちゃんと挨拶してくるんやで。」
「じゃ、良いお年を!」吉田が笑顔で言う。

真一郎と実家に行く2日前だった。

2日間のうちに真一郎の荷物を片付ける。たったひと月半の間でリュック1つだった荷物は倍になっていた。とりあえずダンボールに詰め、宅配ボックスで送ることにする。
みどりさんがいるのでレンタカー借りて行こうと提案するが、行きは真一郎が運転するが、帰りは私一人。ほとんど車の運転をしてないペーパードライバー。「危ない!」と猛反対された。

みどりさんは、携帯用のケージに入れて連れて行くことになった。

私と真一郎とみどりさんの暮らしも一応終わりを迎える。

彼の実家に向う日、玄関を閉めて、鍵をかけながら、「ありがとうございました。」と深々と頭を下げ、スペアキーを私に渡す。

「私の方こそ、楽しかった。ありがとうね。っていうかさ、私達これから始まるんだよね!」私は満面の笑みで答えた。

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