なんでも屋八郎太4

刑事達に着いて行くと、警視庁の長い廊下の両方にドアが幾つかあり、そのうちの1つに案内された。
「あなたの事を疑っている訳では無いですが、一応第一発見者なので、お話を伺おうと思いまして、宮田さん、とても心配してられました。あの人は、苦労人で、困った人を見たら放っておけない人なので。宮田さんに叱られそうですが、疑うのは刑事の仕事なので、一応会社にも確認しました。仕事が、夕方5時過ぎに終わって、家に6時過ぎに到着した。あなたの仰る通りでした。ところで奥様の司法解剖の結果、複数の刺し傷が発見されました。息子さんは背中の当たりを深く刺された痕があり、2人は出血多量による死亡でと断定されました。しかし、争った形跡が全くないんです。息子さんに危害を与えたくない一心で、息子さんを庇う格好で、倒れていたと、想像されます。ところで奥様の交友関係など、ご存知ある事教えて頂けますか?」血の海と化した、リビングの光景が再び、脳裏に広がって、息苦しくなる。
俺は、一呼吸置いて、
「実は妻の交友関係はよく知らないんです。妻は、あまり自分の友達の事話したがらなかった。しかし、珍しく女子校時代の友達が家に来ることを聞き、少し驚いたんです。けれど、久しぶりに会えるってなんだか嬉しそうでした。」

「その友達の事をあなたはご存知ですか?」
「俺もうる覚えなので、記憶ちがいかもしれないですが、結婚式の披露宴で会ったような…夫婦なのにそういうことほとんど話さなかった。しかし、仮面夫婦って訳じゃないんです。俺はそう信じてます。」
畑本と名乗る女刑事が、
「信じるのはあなたの自由ですけどね。奥様のスマホを調べて見たら、奥様株の投資をやってらしたみたいですね。ご存知でしたか?」

俺の顔を覗き込むように尋ねた。
俺は予期せぬ情報に、目を丸くした。千夏が、株?
スマホを調べて分かったことだが、かなり資産が増えているらしい。

かなりの大金を稼いでいるようだった。地味な良妻賢母の千夏からは考えられない。俺は呆然となった。

もしかしてその資産を知った友達と、何かあったのでは?
「畑本さん、その資産は今、何処にあるんですか?妻の貯金通帳は見たことはないんですがそんなに貯金を持っているようには見えなかった。俺の通帳から生活費諸々は賄っていたようですが、」

「今はスマホ1つでなんでも出来るのよ。あなたも、システムエンジニアなのにそんなことも知らないの?」

少しカチンとくる言葉だったが、ぐっと堪えて、
「スマホで、通帳を作って株の投資をしていたってことですか…一体どのくらい資産があるんですか?」

「約2000万。奥様すごく儲けてたみたいですよ。へそくりにしちゃ大金ですよね。」
「この数ヶ月の間で一体何が起こったのか?俺の方が知りたい。昨日来た友達と関係があるのでしょうか?刑事さん調べてください。俺の知らないことを!」

「犯人逮捕が私達の仕事です。その背景に何があったのか?まぁ未だマスコミは、家の周りをうろついています。ここは、どうでしょう?なんでも屋さんに頼んであなたの必要な物を持って来てもらっては?奥様達の葬儀はちゃんと行う事をオススメします。もしかしてその場に、重要人物が現れるかもしれませんからね。」俺は刑事の提案を受け入れた。

はっちゃんに畑本が連絡を入れる。
「承知したとの事です。持って来て欲しい物を書き出して置いてとの事です。」
「あのぉ宮田さんと、畑本さん、どういう関係なんです?とても親しい仲のようですが。」

「はっちゃんと私は、幼なじみなの。そして、親友でもあるわ。身体は男だけど心は乙女。私よりよく気がつくし、人の心にいつも寄り添ってる。なんでも屋を始めた時は大丈夫かと思ったけど、とりあえず困った人の役に立ってるみたい。危ない橋は何度も渡ってるけどね。」

俺も昨日は救われた。
この先俺ははっちゃんの好意で、居候させてもらうこととなった。

マンションには、あの惨劇の日以来帰っていない。

俺は刑事の言う通り、葬儀はちゃんと行った。まさか自分の家で、ドラマのような出来事が起こるとは夢にも思わなかった。

喪主として挨拶をする。
「この度は、妻千夏と、息子光のためにお集まり頂きありがとうございます。突然の家族の死、しかも、誰かに殺されるなど、夢にも思わなかった。私は、犯人を許さない。ここにもし来ているのなら、即刻自首してください。」そこで泣き崩れてしまった。マスコミ各社がその様子を夕方のニュースで報道し、一躍時の人になってしまう。
会社からはしばらく休むようにと言われた。会社としては厄介事に巻き込まれたくなかったのだろう。早く辞めてというニュアンスが伝わった。

俺は退職届を郵送した。そして無職となった。

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