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『BLACK NIGHT〜暗い夜』 take2 (未映像化台本)

(もうちょっとは現代っぽくアレンジしたら? と言われて書き直してみたもの)

登場人物
チンピラヤクザ、滝川 三十代
同僚、浦田


シーン1
横浜、みなとみらいの夜景が、いくつか連なり、キラキラと渡り行く。

シーン2
ランドマークタワーの手前、歩く歩道の終わりっぷちの角。
塀に寄りかかり、帆船日本丸を見下ろしている滝川。
その顔のアップに、不意に浦田の声がかかる。

浦田の声「月も無い、こんな夜にサングラスかい?」

顔を向ける滝川。
1メートルほど離れた横側に、笑みを浮かべ立っている浦田。

また顔を景色に向ける滝川。近付き、横に並ぶ浦田。

滝川「仕様がねえじゃねえか」

浦田「やめた方がいい。却って目に付いちまうぜ。第一、目に悪い」と、自分の目を指す。

滝川「だからってお前さ、オレの身にもなってみろ。これでもビビりまくってんだ。ビビり過ぎてなんかもう・・・のっぺらぼうの気分だぜ・・・」

浦田、覗き込む様にして、「本当だ。すっかり死人みてぇだ」

滝川「浦田、何しに来たんだよ。嗤いに来たのか?」

浦田「そうか・・・」と、思い出し、懐に手を入れる。封筒を取り出し、滝川に向けて差し出す。

滝川「悪いな・・・」
封筒を受け取る滝川。

浦田「タイなんかに逃げてどうするんだい? エビの養殖でもするのか?」

滝川「へっ、へへ」乾いた笑い。


シーン3 夜景、ランドマーク、クイーンズスクエア。

シーン4 歩道。
歩く二人。

滝川「お前は頭がいいよな。オレと違ってさ」

浦田「ええ? なーに言ってんだ」

滝川「オレはホラ、不良のガキンチョからストレート合格の筋モンだからよー。どう踏ん張ったってインテリヤクザにはなれない訳よ」

浦田「昔とは違うよ。黙って凄んで偉ぶってりゃシノギが稼げる様な時代じゃねぇもの」

滝川「輸出入の部署から投資部門まで有りやがる。事務所にゃパソコンだらけで、グループウェアでタイムレコード打って出勤って、なんだそりゃ。あーあぁ。嫌な渡世だよ、俺みたいなのにはな」

浦田「・・・・・」

滝川「だからさ、どっかもっと土着ってーか野蛮っつーか、遅れてるってーかなとこにでも行っちまった方が、オレみたいなのには合うだろう? なあ?」


シーン5 夜景、インターコンチネータル、赤レンガ倉庫、ベイブリッジ、海。


シーン6 いつの間にか人気の無い辺りへ。

浦田、海に目を遣りながら、「はぁ・・・」溜息をつく。

滝川「うん・・・?」と、浦田に目を向ける。

浦田「滝川よ。なぁ。そんな簡単なもんじゃないよ。組織にも立てとかなきゃならないメンツってヤツがあるしな」

滝川「フン・・・妙なとこだけ古臭えまんまかよ」

浦田「変えようのないところだ。企業経営の大原則って奴だ」

滝川「へっ・・・」

浦田「なんでまた、あんなことしたの」

滝川「だからさぁ、FX取引なんてもん任されてよ、毎日パソコン扱ってる奴等をこう相手にしててよ、要するに事務作業だぜ。はっ」

浦田「楽でいいじゃないの」

滝川「馬鹿言えっての。パートのおばちゃんでも雇えってんだ」

浦田「そりゃ駄目だよ。扱う額がちょっと違う」

滝川「で・・・俺の居場所じゃないんだなと思ったらもう駄目よ。すっかりやる気も失くなってなぁ」

夜景、海の音。

浦田「だからって、組の金に手を付けちゃいけねぇよ」

滝川「返す積りだったんだ。ちょっと借りて為替で儲けたら戻せばいいってよ・・・」

浦田「負けが込んじゃったって訳か。なんとかスパイラルだな。向いてないことするもんじゃないな」

滝川「ああ」

浦田「まるで、どこかの会社の経理部長さんのエピソードだ」

滝川「情けねぇ」

浦田「やめた方がいい」

滝川「え?」

浦田、滝川の懐を指して、「そのチケットを手配した奴は組に抑えられた。口を割ったんだ。いずれタイまで誰かがやって来て、さっき言った企業経営の大原則って奴を通そうとするんだ」

滝川「なんだ? ちょっと待て。それじゃお前も」

浦田「俺もヤバい。お前がフケるのを助けたときちゃあな」

滝川「・・・どうするんだ」
滝川、背広の内側、背中へ手を回す。

浦田「悪いがプラン変更して貰う。タイ行きは無し」
浦田、懐から拳銃を抜く。抜いたまま滝川に向けるでもなく胸元辺りに掲げている。

浦田「組に戻って筋を通すか。ここで死ぬか。俺としちゃあ・・・」

滝川「・・・・・似合わないぜ」

滝川、(見えないが)腰に挿した拳銃を握る手に力がこもる。

滝川が拳銃を抜く前に、浦田の背後から突然車のライトが二人を照らす。
滝川、眩しい。
浦田、容赦無く滝川の顔面を撃つ。一発で絶命。

夜景。遠くのどこかの対岸の光。埠頭を離れる船の姿。

浦田の背後の車、運転席、助手席それぞれ開き、男二人が姿を見せ、その場に立つ。浦田の方を伺うのみ。

浦田「勘違いして貰っちゃ困る。お前は俺を頭が良いみたいに言ったけどな、まぁ、悪くはないし、硬くもないけど。けどな、ヤーさんはヤーさんなんだよ。そりゃそうだろ」

海、ベイブリッジの光が瞬く。山下公園に佇む氷川丸の、のんびりとした姿。
血に濡れ、転がっているサングラス。

浦田「だからさ・・・こんな暗い夜にサングラスなんざ、良かねぇよ・・・」

暗い海、暗い夜。

終わり

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