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『BLACK NIGHT〜暗い夜』 (未映像化台本)
(イマドキこういうのはどんな反応をされるのだろう? と、思い、急に七十年代風と言うか、古めかしい話を書いてみたのがコレ)
登場人物
ヤクザ、滝川 三、四十代
弟分、慎司 二十代後半
滝川の妻、ちょっと品のある三、四十代の女、咲子(回想シーンのみ。顔は映らなくとも可)
シーン1。横浜、みなとみらいの夜景が、いくつか連なり、キラキラと渡り行く。
パシフィコ横浜の海側の広場、デッキスペース。
海側に背を向けて、水辺の柵に寄りかかり立っている、ノーネクタイ、ダークスーツにコート、目にはサングラスの男が一人。滝川である。どこを見ている訳でもなく、伏し目がちに俯いている。
その顔のアップに、不意に、慎司の声がかかる。
慎司の声「月も無い、こんな闇夜にサングラスかい?」
ピクッとした微かな身動きだけを見せる滝川、そして、ゆっくりと顔を上げる。
やはりノーネクタイ、ダークスーツにコート姿の慎司は、1メートルほど離れた横側に立っていた。
滝川「・・・・・」
慎司、自分の目に指を差し、微かに笑みを浮かべ、「やめた方がいい。第一、目に悪い」
滝川「おおっぴらに見せびらかす様なツラじゃない」
慎司「ご謙遜だね」
滝川「そうじゃねぇ。色々あって・・・あり過ぎてな、のっぺらぼうの気分なんだ」
慎司、やや覗き込む様にして、「本当だ。すっかり死人みてぇだ」
滝川「慎司、何しに来た。嗤いに来たのか?」
慎司、ふっと笑い、懐に手を入れる。
滝川「・・・!」と、緊張が走る。
慎司、懐から封筒を取り出し、滝川に向けて差し出す。
滝川「・・・・・」
封筒を受け取る滝川。
滝川「お前がメッセンジャーボーイをするのか」
慎司「タイに逃げてどうする気なんだい?兄貴。エビの養殖でもするのかい?」
滝川「さぁな。まぁ、あっちに行きゃ、シコシコこしらえてきたルートがある。なんとかなるだろうさ」
慎司「そのルートだって、組織あってのもんじゃないか。オヤジに不義理しておいて、それもねぇだろう?」
滝川「俺には俺の、仁義ってモンがあるのさ」
慎司「・・・・・」
海、夜景、インターコンチネータル、赤レンガ倉庫、ベイブリッジ。
慎司、海に目を遣りながら、「ふうん・・・」
滝川「・・・・・」
慎司「兄貴。逃げても無駄だよ。組織にはメンツってもんが、守らなきゃならないもんがある。そいつは失っちまう訳にはいかないもんなんだそうだよ」
滝川「・・・お前が、俺に会いに来たってのは、どういう意味なんだ?」
滝川は、コートの、背広の内側、背中へ手を回す。
慎司「兄貴。兄貴は上手く遣り通そうって気なんだろうけど、組織は上手だよ。兄貴が海外へ逃げようってのもすっかり承知だ」
滝川、(見えないが)腰に挿した拳銃を握る動作。力がこもる。
慎司「そのチケットの手配師は組織に抑えられた。口を割られた。いずれ誰かがやって来て、兄貴から、守らなきゃならないものを取り返しに来るのさ」
ぐぐぐと慎司を見つめていた滝川、不意に、「ふう・・・」力が抜ける。
慎司「しんどいな」
滝川「しんどいぜ・・・」
夜景、海の音。
慎司「・・・どうして、姐さんを置いていったんだい?」
滝川「あいつには、あいつのやるべきことがある」
慎司「・・・・・」
滝川「そいつを済ましたら・・・俺があっちで落ち着いたら、呼び寄せる。あいつと俺は、二人で一人なんだからな」
慎司「・・・・・(笑み?にも見える様に顔を歪める)」
シーン2。慎司の回想。カフェの外テーブル席、静かに茶を飲む滝川と咲子。穏やかな風景・・・同じテーブルにて、柔和にその二人を見る慎司・・・。
長いオーバーラップ
シーン3。慎司の回想続く。
昼間、道路、女物のヒールが転がっている。
シーン4(シーン1と同)。
慎司「置いていったのは間違いだった。兄貴は姐さんを連れて行くべきだった」
滝川「?・・・何?」と、まともに慎司に顔を向ける。
慎司「俺は兄貴が好きだ。世話になった。でも、姐さんのことも好きだった。兄貴と同じか、もう少し多いくらいに好きだったよ」
滝川「咲子? 咲子がどうした・・・?」
慎司「交通事故だよ。そういうことになってる」
滝川「死んだのか・・・?」
慎司「・・・・・」無言で見つめる。
滝川、慎司から目を離し、目の先の地面を見つめ、虚ろに、「死んだ・・・あいつが・・・」
慎司「甘かったな、兄貴。でも、それで済むこっちゃない」
慎司の憤りが、怒りの様に滲む。
慎司「何も姐さんを殺させることはなかったんだ」
滝川の顔がグッと締まる。じんわりと汗ばむ。
慎司、淡々と、「俺が会いに来たのは、姐さんのことを知らせておこうと思ってだ。どうしても知っておいて欲しかった。知らずにタイなんかでのんびりされると思うとたまらなくってな」
滝川、グッと目を閉じる。何かに耐える顔。
滝川「うるせえ・・・うるせえぞ、慎司・・・!」
慎司「それと、会いに来たのはもう一つ。もう兄貴は逃げられない。どうせ殺られるなら、他の奴にじゃない。俺が・・・」
滝川「慎司!」
腰から銃を抜き、振り向く滝川。
居ない。
虚を突かれた形の滝川。周囲を見渡す。
夜風が体を刺す。
背後には夜の海。船の霧笛・・・。
滝川、手にしていた封筒を背広の内ポケットへ放り込む。
警戒しながら、その場を去る。
辺りを伺いながら、慎重に歩みを進める滝川。
夜景。遠くのどこかの対岸の光。埠頭を離れる船の姿。
ふと、傍の暗い路地に目をやる滝川。
路地の奥で何かが動いた様な気配・・・?暗くて良く判らない・・・。
滝川「・・・?」
唐突な発光、銃声「バン!」
頭を撃ち抜かれ、声もなく死にゆく滝川。横から捉えた画面に、逆光のなか後頭部へ飛び散る血しぶき、脳髄。
海、ベイブリッジの光が瞬く。山下公園に佇む氷川丸の、のんびりとした姿。
ドッサリと倒れている滝川と言う名であった死骸。
路地の暗闇から浮き出て来た慎司。
慎司、虚ろに骸を見下ろす。
慎司「38口径にしたんだ。死んだことにも気が付かなかったろう?兄貴・・・」
微かに切なげな顔。
血に濡れ、転がっているサングラス。
慎司「だから言ったんだぜ・・・こんな暗い夜にサングラスなんざ、良かねぇよ・・・」
暗い海、暗い夜。
終わり
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