ライトノベル新人賞が受かるコツ その1 ~1次選考~
■新人賞の一次選考
ライトノベルは夢のある仕事です。アニメやコミカライズされたり、全国の多くの書店で読者に読んでもらえる。
けれど、そんな夢のあるライトノベル業界に入るための試練がいくつかあります。
そのうち、今回は新人賞の一次選考を中心に記していきたいと思います。
1.基本は出来ている?
ライトノベルは娯楽用の作品です。なので読者が面白いと思うもの、楽しいと思うもの、読んでいてこのヒロイン最高! といった感想が浮かび上がるのが理想の物語です。
そのため、文芸小説とはまた違った作品の書き方が必要で、時には「いやいやそれってアリなの?」と思うような展開、語句選びも大切になります。
2.一次選考って何?
まず一次選考というのは、すでに作品を応募している方にはご存知の人もいるかと思いますが、『足切り』の場です。要は『作品としてつまらないものを取り除く』、『物語として最低限の形を整えていないものを弾く』のが一次選考です。
出版社によって基準は異なりますが、まず一番弾かれる要因としては、『自己陶酔なだけの作品』、つまり作者しか面白く感じられない作品です。
作者の書きたいこと、好きなことだけを詰めた作品。
なので、読んでいる人がまったく面白く感じられない。これはもちろん弾かれます。
私の場合も、まずこの段階、一次選考で弾かれた経験があります。
当時、まだアマだった私は、自分の書いた作品がつまらないとは微塵も思っておらず、当時のヒット作に匹敵する作品だと自負していました。
なので、「これ、受かるかな?」と思いつつも「受かってデビューして大ヒット作家になってやる!」、と意気込んで応募しました。
結果、見事に一次選考で落ちました。
「あれー? 俺の作品が乗ってない? なんで……?」と思ったものです。
その時は理由が判らなかったのですが、要は、作品として最低限のものを満たしていなかったのです。
今思い返すと、めちゃめちゃ顔が赤くなるほど未熟な作品なのですが、落ちた理由をまとめると、
『地の文章力が低い』
『会話の間がぎこちない』
『そもそもライトノベルではない』
といった点が挙げられます。
自分の好きなシーンや書きたいシーンばかり書いていて、整合性や臨場感に欠け、読んでいてつまらなさやぎこちなさが目立つわけですね。
心理描写や風景描写も足りていませんでした。
そのシーンで人物がどういう気持ちで、どういった外見なのか、ろくな描写もなく、ただただ好きなシーンの繋ぎ合わせただけで、今読むと「こりゃ受からないわ」と強く思います。
ただ、これは大半の新人賞希望者にありがちな傾向だとは思います。
自分の書きたいものや好きなシーンに重点を起きすぎて、作品の短所や欠点が視えていない。陶酔感に浸っている。客観的に優れているかどうか視えていない、小説を書き初めて間もない人の特徴だと思います。
なので、一次選考を突破するにはどうするべきか。
物語の基本をしっかりと学ぶ。
起承転結、作品の設定に矛盾はないか、説明に不足はないか、会話にぎこちなさはないか、ライトノベルらしい要素(美少女、冒険、バトル、恋愛描写など)を入れているかどうか。
文章力も大事です。初心者だと「だ」「た」で終わる文章になりがちと思います。
例としては、
『○○はそこに座った。隣には老人がいた。彼は杖を持っていた。窓には鳥が何匹も飛んでいた。電車はすぐに発車した。○○は欠伸をした退屈だったのだ』
など、「た」や「だ」が連続で続く文章。これだとメリハリもないので読んでいて退屈です。一シーンだけならともかく、これが十万文字分も続くと読む側は苦行になると思います。
それと、新人賞の『規定に違反』している作品も当然弾かれます。
具体例と挙げると『ページ数がオーバーしている』、『あらすじの文字数が欠如、またはオーバーしている』、『物語が半端な形で終わってしまっている』などです。
ページ数は割とありがちかと思います。締め切り間際になって作品の推敲などを行っているうち、ページ数を失念して2、3ページオーバーしたまま応募してしまった。
もしくは、『複数の新人賞に応募しているので、別の所とページ数間違えた』、などです。
電撃文庫は42×34の130ページ以下、
ファンタジア文庫は40×16の270ページ以下、
ファミ通文庫はカクヨム掲載で8万文字以上など、
各所で条件が違うので時間がない場合、焦って間違える方もいるかと思います。
多少のミスは出版社によっては『内容が良ければ』スルーされる場合もありますが、基本的に、ルールを守ってない作品は弾かれます。
対策としては、紙やスマホなどにメモをしておく、目立つところに『今はどこの新人賞向け!』と、自分に分かりやすい形で表示させておくことでしょうか。
アナログでもデジタルでも良いので、『どこ向けに書いている』『ページ数・締め切りは何か』をしっかり表示させる事が重要だと思います。
3.基本のチカラを上達させるには?
一次選考で落とされてしまうということは、物語として最低限のことを達成していないため、自分の実力を向上させるのが定石となります。
具体的には、欠点や矛盾点を直し、長所は伸ばしていく方針です。
「でもどこが悪いのか分からないよ!」と言う方もいるかと思います。そういう場合は、まず知人や友人、家族などに読んでもらえば良いと思います。
出来れば、読んでもらう前に「辛口でお願い」と、前もって伝えておくこと。接待的な感想を貰っても意味がないので、正直な感想を述べてもらうのが重要です。
これだけでも誤字脱字や、物語や設定の矛盾などは直せると思います。
ただ、これだと物語の質を向上させるのは難しいと思います。
友人知人、家族は素人なので、技術的なアドバイスを上手く伝える人は少ない。なので、あくまで整合性や誤字脱字のチェックに留まるでしょう。
「なんか変な部分なあるけど、どうやって改善させれば判らない」、といった状態ですね。
物語の完成度を高めるには、大きく分けて4つの方法があります。
1,ネットに投稿してみて、感想をもらう
2,過去の受賞作を読んで、お手本とする
3,アニメ作家の作品を読んで、お手本とする
4,書いて書いてひたすら書きまくる
まず1の、ネット投稿に関して。
ネットに投稿する理由は、より分析力の高い人から感想を貰うため。数字ではっきりと現れるので、客観的な良し悪しが分かりやすいためです。
具体的な投稿先としては、『小説家になろう』や『カクヨム』などが代表的でしょうか。
一長一短ありますが、最も上達するのに近道だと思います。
ただ、サイト利用者数が多いため、投稿しても感想がもらえないという事はザラです。一日待っても三日待っても、一週間経っても感想ゼロ――というのはよくある話です。
なので、『他の作者』と交流し、『相互感想』をする。予め『相互感想を募集!』と告げておけば、スムーズになると思います。
加えてツイッターで『感想募集』をしてみて読んでもらうのもアリです。あるいはそういった事を目的とする『サークル』に入って、鍛錬するのも良いと思います。
どの場合も、能動的な工夫が必要になるかと思います。
もちろん、ネットに関しては『合う合わない』があると思います。
何度か投稿してみて、「これは無理だ」と思ったら当面はやめるべきだと思います。
ネットの意見は的確な場合も多いのですが、それが胸に刺さって辛くなる場合も多いですから。
「酷評されても大丈夫!」と思える状態になったら、試してみてください。
次の2に関して、過去の受賞作をお手本とする、のは当たり前と言えば当たり前ですね。
特に大賞や最優秀賞はその出版社の理想、その時点で一番欲しいと思うものが詰まった、完成度が特に高い作品です。
カテゴリーエラー(その出版社が望まないもの)を避けるためにも、少なくとも5つくらいの作品は読んでおくべきと思います。
(すでに読んだことがある作品でも、読み返してみると新たな発見はあると思います。特に大賞や最優秀賞は。文章力や話の構成の上手さが違います)
読んでいるうちに、「この出版社はこういう作風を求めているんだな」とか、「物語の基本ってこうなんだな」と思うこともあると思います。
そう感じたら、今後はそこを重点的に意識して自分の物語を書いていく事が重要です。
3の、アニメ作家の作品を読む事も、基本は2と同じです。
違うのは完成度の高い技術を会得すること。過去の受賞作も、もちろん面白い作品は多いのですが、やはりアニメ作家さんの作品は頭一つ飛び抜けています。
文章力、キャラ構築、ストーリー、話の構成、どれか、もしくは複数優れているため、とてもお手本になると思います。
そして4.書いて書いて書きまくる。
要はアウトプットですね。
蓄積させた知識や技能(インプットさせたもの)を、自分の作品の中に詰め込む。自分が受かりたいと思う新人賞の過去作やアニメ作家さんの作品を思い出しながら、書いていく。
もちろん上達する速度には個人差がありますし、運悪く一次選考で弾かれてしまうこともあります。(後述は有料の文章の方で)なので、一次選考が通らなくても、何度か送っているうちにコツは掴めてくると思います。
(ちなみに、私は受賞するまで10作品以上は送りました。そのうち、大半は一次選考落ちです)
知識だけあっても面白い作品は作れません。なので、トライアンドエラーは重要になると思っています。
■感想を受け付けたくない
新人賞を目指していくにあたって、誰かの感想を受け付けたくない、そもそも他人の意見を当てにしたくない、と思う方もいるかと思います。
私自身もそうでした。初期の頃は批判的な意見をもらうと、「は? そんなわけないだろ」「なんでそんなどうでも良い所に言及してんだ、もっと長所見て!」と利己的な思考をした時もあります。
ただこれもありがちな状態の一つではあります。
ライトノベル作家を目指す場合、大体の方は、「自分もあんな作品が書きたい」「ああいう作家みたいに大ヒットして儲けたい!」「自分の理想を書きたい!」「あれくらいなら俺にも書けるんじゃね?」など、承認欲求や憧れ、金銭欲、理想追求、自己顕示欲などが大きな理由かと思います。
それは自覚していたり、していなかったり個人差はあると思いますが、多くはそうだと思います。逆を言えば、「他人の批判に慣れていない」人も多いかと思います。
なので、感想をくれた人に、「そうだよね、判った」と口では、ネット上では受け入れたつもりでも、本心では「いや面白いから!」「その感想、間違ってるから!」と思ってしまう場合もあるかと思います。
ライトノベル作家への、第一の壁がこれです。
『他人の感想を受け入れること』
そもそも自分の理想や夢のために書いているのに、他人の感想をなんで受け入れなくちゃ行けないの? 自分の才能だけで行けるでしょう? と何割の方は思っているかと思います。
あるいは、感想を貰うことに抵抗はないけれど、それによってダメージを受ける、弱気になってしまう。「あれ? 自分って才能ない?」「駄作しか書けないの?」と、傷を負ってしまうパターン。
人によってはあっさり突破出来る壁ですが、出来ない人は何年経っても出来ない。厄介な壁だと思います。
対策としては、「別に自分の人格が批判されてるわけではないと理解する」「慣れる」「売れなかった作品を読んでみる」ことでしょうか。
作品を批判されると、つい自分が批判されてると錯覚する方もいると思いますが、
(自分の理想を詰め込んだ場合、自分の理想≒自分を否定された気になる)
と考える場合もあるかと思います。
けれどその場合、「批判は批判、自分は自分」と区別する事は重要です。
感想を送った側はあくまで作品に関して述べただけで、作者を批判したわけではないので、そこは意識して分けて考えるべきです。
前述通り、私もこの壁に突き当たり、突破するのに苦労しました。
私がこれを克服出来た契機は、「読んでくれた人は、それだけ自分の時間を割いてくれた」と理解した時です。
小説は読み物なので、漫画と違って数分で読破なんて出来ません。基本、一時間から二時間くらいは掛かってしまうと思います。
誰かの時間を二時間も奪う。あるいは費やしてもらう。
これは結構な労力です。それだけの時間があれば、アニメや映画を見ることも出来ると思います。
本来、娯楽のために使えた時間を、作者のために使ってくれたのです。
善意であれ義務であれ、それは結構な労力です。その事を実感したとき、私の中で小説は、「自分の理想を相手に読ませるもの」ではなく、「相手に自分の物語を読んでもらうもの」へと変わりました。
読む人の時間を割いて、その代わりに感想を貰う。なので、作者が怒るのも落ち込むのも本質として間違っているわけです。
ではどうすればいいか?
簡単です。貰った感想を元にして、作品を向上させることです。
・次は、単純に、『慣れ』。
何度も何度も感想や批判を貰うと、それが日常の一つとなり、いちいち感情が揺れ動くことは少なくなります。全く何も感じないことはないかと思いますが、回数を重ねて、感想を貰う自分へと慣れさせる。これも重要な事だと思います。
売れなかった作品を読んでみる、というのも、一つの手です。
売れなかった作品(ようは一巻二巻で終わってしまっている作品)は、出来があまり良くなくて続刊されなかったものがほとんどです。
あるいは、つまらないとまではいかないまでも、物語として何かが足りていなかった、だから人気が出なかったものが多数です。
なので、『反面教師』として売れなかった作品を読んでみて、なぜ売れなかったのかを考えてみるとよいと思います。
自分の作品と比べて、「あれ? この作品と似た失敗、自分もしてない?」と、気づく事も重要です。
良作を読むのはもちろん上達への近道なのですが、売れなかった作品を読むのも良い作品への近道だと思っています。
■終わりに
以上、一次選考で落ちてしまう方向けに、色々と対策等記してきました。
これまでの事を複数実践していけば、作品としての完成度が上がり、二次選考へと進めるかと思います。
特に、『作品は読者の時間を使って読んでもらうもの』と気づく事は壁を破る第一歩だと思っています。
これはプロになっても変わらないもので、作品は常に読む人が楽しめるかどうか、を心がけていくものです。おそらくライトノベルにおいて。一番重要なことなのではないかと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
次は二次選考についての記事となります。
「一次は通るんだけどそれ以上にいけない!」という方向けの記事ですので、興味があれば読んで頂けると嬉しいです。
■下読みについて
なお、番外編として、下読みについても言及していきたいと思っております。
ただこれはデリケートな部分も含んでいるため、またライトノベル業界への印象にも関わるため、次の記事である有料枠とさせて頂きました。
「ライトノベルは夢のある場所!」「きらきらした業界!」と強く思っている方は、少し読むのが辛いかもしれません。
その代わり、読めばより実践的な知識は身につくと思うので、必要と思う方は閲覧してください。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
ライトノベル新人賞が受かるコツ 補足 ~下読み~
【https://note.com/asanagi_syuuya/n/nff4cb47951e1/edit】
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