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公立高校入試の志願変更とは?

日本の公立高校入試には、高校に願書を提出した後に志願先を変更することができる「志願変更」という制度があることを知っていますか?
制度の利用者は少なく、中学入試や大学入試には基本的にない制度なので、知らない人も少なからずいると思います。
この記事を書いているのは2023年1月31日。全国で2023年度(令和5年度)公立高校入試の出願期間が始まりつつあるこの機に、志願変更について簡単に解説しておこうと思います。

志願変更の一般論

冒頭で述べたように、高校に願書を提出した後に、志願先を変更することができる制度のことを一般に志願変更と言います。自治体によって「出願先変更」など呼び方が異なることがありますが、この記事では「志願変更」で統一します。
日本では、公立高校入試の一般選抜で主に採用されていて、推薦入試にはふつうありません。

なぜ、公立高校入試の一般選抜に志願変更が存在するのでしょうか?
その理由のひとつは、日本の公立高校ができる限り多くの生徒を受け入れる責務を負っているからです。高校間での志願倍率の差が大きいまま試験を実施すると、公立高校の不合格者が増える上に、定員割れの公立高校が続出し、公立高校としてはあまり好ましくありません。志願変更を受け付けることで、高倍率の高校から低倍率の高校に志願者が移動し、より多くの生徒が公立高校に入りやすくなります。
もうひとつの理由には、公立高校入試の一般選抜は、原則として1校しか志願できないことが挙げられます。私立学校(中学・高校・大学のいずれも)の入試は複数回の受験機会があり、一度落ちてもリカバリーが効きやすいですが、公立高校の一般選抜で落ちたら後がないのです(二次募集もあるにはありますが)。

志願変更の流れは自治体によって多少差がありますが、概ね次の通りです。

1.公立高校入試の出願受付が始まる。
2.出願締め切り後、締め切った時点での各高校の志願倍率が公表される。
3.志願変更受付期間が始まる。志願変更希望者は、最初に出願した高校に行って願書を取り下げ、その願書を変更先の高校に行って提出し直す。
4.志願変更締め切り後、締め切った時点での各高校の志願倍率が公表される。
5.入試本番を迎える。

つまり、出願締め切り時点での志願倍率を参考にして、志願変更を希望するかどうかを検討することになります。たとえば、
「A高校に志願したけど、志願倍率が思ったより高くて合格する自信がないから、A高校よりも合格難易度が低いB高校に志願変更しよう」
ということができるわけです。ただ、志願変更受付期間は短い(1~3日間程度)ことが多く、志願倍率が公表されてから考え始めていたのでは手遅れになりがちなので、志願変更を視野に入れるなら当初の出願時点でその心づもりはしておくべきでしょう。なお、基本的に志願変更は一度しかできません。願書を取り下げた時点で最初に出願した高校は受検できなくなるので、後悔のない決断をお勧めします。

私の知り合いの中学校教員が、志願変更最終日の手続きに立ち会ったときの苦労話を語ってくれたことがあります。まず朝一番で当初出願した高校に行き願書を取り下げたのですが、同じく志願変更をする人々が何人もいて手続きを待たされました。どうにか願書を受け取ったら今度は変更先の高校に向かいましたが、最終日は締め切り時刻が正午で、間に合うかどうかギリギリだったそうです。願書を提出できなければ当然、入試そのものが受けられません。変更先の高校に移動するまでにいくつかの公立高校を通り過ぎる度に「もう、今通ったところに出しませんか?」と思ったそうです。

実際のところ、志願変更をする受検生は多くありません。多くの自治体では2~3%程度、志願変更がとくに盛んな神奈川県でも6~7%程度です。併願した私立高校(いわゆる滑り止め校)の合格を得た上で公立高校入試の一般選抜に臨む受検生が多いことや、内申点や事前の模試結果などに基づきかなりの確度で出願先を決めていることが挙げられるでしょう。また、志願変更の手続きは一日仕事(検討を含めたらさらに時間がかかる)になるので、その時間を受検対策に充てたいという考え方もあると思います。

志願変更が行われると、各高校の志願倍率は変動します。低倍率だった高校が一転高倍率に、あるいはその逆になることがあるので、志願変更締め切り後の志願倍率も要チェックです(この段階ではもう頑張るしかないですが…)。当初出願した高校が定員割れしていてラッキーと思っていたら、志願変更の受検者が流入して定員オーバーになってしまった、ということもよくあります。

都道府県別の志願変更事情

2023年度の公立高校一般選抜(に相当する選抜)で、志願変更の有無を地図にまとめました。

2023年度公立高校入試一般選抜における志願変更制度の有無

志願変更が不可なのは、青森県・宮城県・山形県・富山県・京都府・大阪府・奈良県・岡山県・長崎県の9府県です。ただし、宮城県や大阪府、岡山県などでは出願開始の少し前(1月ごろ)に教育委員会が出願先の希望調査を行っており、その結果を参考にして出願先を決めることはできます。

兵庫県では、普通科や総合学科に出願する場合は一度に2校まで志願することができるのですが(複数志願選抜)、この場合、第1志望校は変更できず、第2志望校だけが変更できます
ここで、学区のいわゆるトップ校が定員割れすると不可思議な現象が発生します。たとえば、第4学区のいわゆるトップ校・姫路西高校が定員割れしたとしましょう(実際、2015年度以降に何度か定員割れしています)。第4学区のいわゆる2番手校は、姫路東高校です。当初の出願締め切り時に姫路西高校が定員割れした場合、姫路東高校を第1志望校にしていた受検生は姫路西高校に志願変更したいと考えるでしょう。しかし、第1志望校は変更できないので、変更するとしたら第2志望校を姫路西高校にすることだけです。
「第1志望校:姫路東高校、第2志望校:姫路西高校」にした受検生は、入試で姫路東高校の定員内に入る点数を得れば当然、姫路東高校に合格になります。第2志望校に回されるのは姫路東高校の定員内に入れなかった場合なので、姫路西高校の方が合格ラインが低くなります。また、姫路西高校の志願倍率が第2志望校にした受検生を含めても定員割れの場合、原則として、第2志望校に回された受検生は全員合格します。よって、いわゆるトップ校である姫路西高校に合格したいならば、入試でわざと低い点数(姫路東高校に落ちるような点数)を取るのが最善解になります。もっとも、それで姫路西高校に入って幸せになれるかは別問題ですし、そもそもみんなが同じことを考えた結果、志願変更後の志願者数が定員オーバーすることもあり得ますけどね。

沖縄県では、定員オーバーの学科に志願した受検生のみ、志願変更ができます。つまり、当初出願した高校が志願変更前の時点で定員割れしていたら、志願変更はできないということです。また、志願変更をする場合も、当初出願した高校が定員割れしてしまう場合、志願変更できる人数に制限が入ります。たとえば、定員200名の高校に当初の出願締め切り時点で210名が出願した場合、この高校から志願変更できるのは10名までです。もし11名以上の志願変更希望者が現れた場合は、抽選が行われ、当選しない限りは志願変更ができません。
このように、沖縄県は志願変更に関しては定員をとても気にするのですが、実際の入試では定員をあまり気にしません。定員割れでも不合格者を出すし、定員オーバーでも合格者が定員より少ないことがしょっちゅうあるのです。高校が定員によらず自校の基準に合わない受検生を不合格にするのはひとつの見識かもしれませんが、それならば、定員を気にせず志願変更を認めたほうが受検生も学校も幸せになれるのでは、と思うのは私だけでしょうか?

まとめ

志願変更は、主に公立高校入試の一般選抜で、出願先の高校を一度だけ変更できる制度です。志願倍率を考慮して出願先の高校を変更することで、合格可能性を高めることができます。ただ、志願変更の受付期間はとても短いので、出願する前にあらかじめ判断基準を(たとえば「倍率○倍を超えたら志願変更する」など)決めておくことが重要です。

また、受検生の多くは、特定の志望校に入りたいというモチベーションで入試対策を続けてきたはずです。志願変更をするということは、その志望校を諦めるということ。志望校を諦めても本当に後悔しないか、よく考えた上で決断してください。志願変更先の高校は、合格難易度だけで選ぶのではなく、そのカリキュラムや立地などが受検生自身に合うのかもきちんと検討しましょうね。


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