ロイヤルオペラ来日のドレッサーをした時の話
というと横文字だらけでなんだかかっこいいタイトルなのですが、2010年にロイヤルオペラの来日公演があったときに、最初の衣装の着付けと早着替えのお手伝いをするアルバイトをしていました。
今日はその時のお話。
10年経っても素敵な思い出
それにしても、もう10年前とは…!
これを書くにあたり、いつだったかなぁと検索して知った衝撃の事実です。
そもそも最近この話を思い出したのは緊急事態宣言中のこと。例に漏れず大掃除をしている時にハラリと落ちてきたのがサムネイルの名前たち。最終日にお礼のチョコレートとともにもらったものです。
その時の演目はマノンと椿姫。当時マノンのために来日していたスター、アンナ・ネトレプコさんが最終日に椿姫のピンチヒッターを買って出た伝説の回、、
彼女は一幕アリアを歌う直前に袖で私の肩を両手で掴み「ここで聞いててね」といい場所まで運ばれウインクしてでてゆき、帰ってきてから「よろこんでくれた?」とサラリといってくれました。
それからというもの、すっかり大好きになってしまいました。
当時特に早着替えの時は、たしか曲中に舞台袖に張られたテント内で早着替えをする流れだったかと思います。
靴紐を解いてあげて、歌手たちが靴下を履いている間にベストを着せたりとヘタをすると手伝うどころか邪魔をしかねない状況で、よく成り立っていたなぁ…。
合唱は数チームにわけて、大体6人くらいを2人で担当するような感じだったはずです。
愛しのSobaチーム
合唱の楽屋ではテーブルが6グループに分かれており、
それぞれsushiチームだとかtempraチームだとか、日本の食べ物でチーム名がつけられていました。
わたしが担当したのはSoba(蕎麦)チーム。一番平均年齢が高いチームでした。10年経った今は引退した方もいるかもしれません。
なんとまぁ全員個性が強かった。
そのときキティちゃんとあだ名をつけてもらって、若くて小さい日本女性という認識なのかなと思っていたらある日海鮮豆とアーモンドフィッシュを食べなさいと与えられて、なんと本当に猫扱いされていたことが発覚して、泣くほど笑ったのを覚えています。
その後、キティちゃんは他のチームにも浸透したようで、よく瓶詰めの梅干しを買ったと自慢されたりスルメイカを食べさせら…てもらったりと大変可愛がっていただきました♫
全員超絶マイペース
Sobaチームの皆さん、楽屋入りはとても早かった。。わたしが出勤するとたいてい全員そろっていて、
待ってたわよー!!ちょっと!こっちきて!!!
というので駆け寄ると、大抵編み物の柄はどれがいいだとか、Asakusaのこことここに遊びに行ったら入り時間に間に合うか、だとか、そんな話ばかりでした。
楽屋に戻ってくると自分の着ているものをとりあえず全部脱いで、リラックスタイム。
みなさん全力でリラックスするので、開演前や休憩中は15分前・5分前・ギリギリと段階的声かけを毎回していました。笑
でもみんな本番中はやっぱりプロで、常にご機嫌で、そんなSobaのみなさんとの時間は本当に楽しかったし、つねに笑いすぎて呼吸困難ぎみでした。
コルセットの使用感は肉付きによるらしい
そんな彼女らのオーダーは「とにかくコルセットはきつくして!!!」ということ。
その時にちょうど呼吸をアクティブにして歌うのに肋骨周辺をしめるっていいの…?という話になったけれど、どうやら肋骨、とくに脇にもしっかり肉付きがある場合は多少ここに圧がかかっても筋肉には影響がないのだな…と言う結論になりました。
「キティちゃん、あなたの力でどんなに締めたところでわたしは死にやしないわ。全力で!どんとこいよ!」
「そうよキティちゃん、この人ちょっとやそっとじゃアレよ。笑」
と言われて決心しまして本領発揮。両手と片膝(!)をつかってギュッギュッギュー!っとしめていると
「まってまってストップストップ!窒息する!!!」
ふと我に帰ると寄せたもののほぼ全てが上に上がり、お肉が喉を圧迫しているではありませんか。。
そんなことがあるのか…というかとんでもないことをしてしまった…!
と焦っているのをよそにお二人は大爆笑。
「ちょっとキティちゃん力持ちだったわ〜!」
「あなた、今夜はそのはみ出た肉を食べなさいよ!お腹の空かないダイエット!!」
大いに盛り上がっていらっしゃいました。。
千秋楽のカーテンコールに遅れかけた理由
カーテンコールの時にはお着替えもないので袖でお待ちして、お見送りするのがいつものパターンでした。
声かけする人(私)が楽屋にいないこともあり、この時ばかりは自分たちできちんと管理していたようで終演の時にはのんびり構えていたのですが
千秋楽に限って待てど暮らせどSobaの人が誰も来ない…他のチームの方もざわつき始めたので楽屋に探しに行くことに。
廊下に出るとすぐにわかる声をたどっていくと
「あ!いたいた!!もーぅ探してたのよ!!」
とこちらのセリフを言いながらにじり寄るSobaのみなさん。ぐるりと囲まれて
「みて。なにかちがうの。」と言われてよくよく見ると、
彼女たちの髪や衣装のよく見える位置にひとつずつ、リラックスタイムに私が折っていた折り紙が飾られていました。
この人たちの人生の中心はきっと人を喜ばせることなんだなと思いながら、改めてこの経験をできたことの嬉しさを味わいました。
そのときどきどこで生きるか
その後別れを惜しみつつ一緒に帰り支度をしたのですが
その時にSobaチームのうちの1人、40代という1人の歌手が私に声をかけてくれました。
あなた、歌手でしょう。私、オーストラリア人だけど働くためにヨーロッパに来たの。あなたも来るなら早くおいでよ。きっと良かったと思うから。いつか一緒に歌おうね。
その時によってどこで生きるか、自分の基準で考えるって大切なことよ。
他にも具体的なことを色々話してくれたけれど、この言葉はいまでも私にとって大切な物差しのうちの一つになっています。
こうして書き出してみてもやっぱり素敵な思い出でした。またSoba teamのみなさんに会いたいなぁ。
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