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『青春カンタータ!』第1話

ずっと書きたいと思っていた合唱学園モノ、ようやく日の目を見る瞬間が来ました!!全12話(たぶん)、今回はその1話をお送りします。

【登場人物】

糟屋瑛一(かすや えいいち)(21)(8)(5) 慧明大学経済学部4年生
森園繁(もりぞの しげる)(22) 同理工学部4年生
糟屋希美子(かすや きみこ)(48)(32) 糟屋の母
男子学生A
男子学生B
男子学生C

【第1話】
○(回想)小学校・音楽室
眩しく差し込む陽光の中、ピアノの鍵盤に両手がふわりと舞い降り、伴奏を奏で出す。
制服姿の育ちの良さそうな児童たち、元気な声で歌い出す。その中で糟屋瑛一(5)も楽しげに歌う。
ピアノ伴奏をしながら、児童たちを優しく見守る糟屋希美子(32)。
糟屋(21)の声「合唱。声の質も高さもさまざまな複数の人間が集って各々の旋律を歌い、
一つの音楽を作り上げる、音楽形態。互いに足りないところを補い合い、支え合って生まれ
る、美しいハーモニー。合唱が教えてくれる、人を思いやる心、友情、信頼。合唱のもとに
集えば、みんなが仲間。ああ、純情な少年たちには、まだ分かるはずもない。自分たちが・・・」
暗転。音楽も止まる。
糟屋の声「どんだけダサい取り組みに参加させられているのかを!」

○糟屋家・収納
糟屋(21)が扉を開け、暗闇に明かりがさす。糟屋、たくさんの服がぶら下がっている中をかき分ける。スーツを引っ張り出し、踵を返したところで、アップライトピアノにつまずく。
糟屋「ケッ、邪魔なんだよ」
糟屋が出ていく。再び真っ暗になる。

○同・ダイニング
希美子(48)が朝食の支度をしている。
糟屋が車のキーを指先でくるくる回しながらやってくる。
希美子「瑛一おはよう」
糟屋「んー」
糟屋、食卓上のイチゴを摘まみ食い。
希美子「パンとシリアル、どっちがいい?」
糟屋「いらね」
希美子「またそうやって!朝はちゃんと食べないと」
糟屋「父さんはいつも食べてないじゃんかよ」
希美子、一瞬言葉に詰まり、
希美子「今日、夜ご飯は?」
糟屋「(スマホをいじりながら)だから、父さんと、統括本部長と会食だって」
希美子「ああ、そうだったわね。スーツはもう出した?」
糟屋「ああ。てかさ、あそこのピアノ、いい加減何とかしろよ。邪魔くさくて仕方ねえよ・・・
ってかいけね、もう行かねーと」
糟屋、急いで出ていく。
希美子、悲しげな目で糟屋を見送る。

○都内・国道
一台のスポーツカーが猛スピードで走っていく。

○走行中のスポーツカー・車内
サングラスをかけた糟屋、ラジオをかけながら運転している。
ラジオの声「次は、今週3日に発売されたミオリのニューアルバム、『hands』から、
『I need you』です。どうぞ」
女性シンガーの歌声が流れ出す。
糟屋、叩くようにボタンを押し、ラジオを切る。

○慧明大学・門前
スポーツカーが勢いを落とさず突っ込んでくる。若い守衛、慌ててよける。
守衛、唖然と車の去った方を眺める。

○同・中庭
リクルートスーツ姿の学生が大勢行き来している。
〝就活相談会~二次面接に向けて~〟と書かれた立て看板がある。
糟屋の声「あっ、中島?俺だけどー、8月のロサンゼルスの件さ、」

○停車中のスポーツカー・車内
糟屋、フロントガラスの外を眺めながら、電話している。
糟屋「お前、何時のフライトにする?親父にそこんとこ頼むにしても、早めに決めとかねえとぉ」
糟屋、シートから身を乗り出す。
糟屋「は?最終面接?ンなもん、ずらしてもらえるだろ。てかお前もかよ。富澤の奴も、インターンだなんてっつって・・・ああ、はいはい、そうっすか。そりゃあ悪かったっすね、
呑気なご身分で。あーはいはい、もういいよ。二度と誘うかよてめぇなんか」
糟屋、電話を切ると、スマホを助手席のシートに叩きつける。
糟屋「ったく、どいつもこいつも付き合いわりぃな」
糟屋、カーナビをつけ、煙草をくわえる。カーナビから、ワイドショーの音声が流れる。
司会の声「えー、それでは続いてまいりましょう。ついさっき入ったニュースですよ。総合
商社最大手の八田(はった)物産、就職先としても大変人気の企業ですけども、なんとこちらの秘書の
女性に、執拗なセクハラを繰り返している役員がいる、と告発があったんですね」
糟屋、怪訝そうにカーナビを見る。
アナウンサーが、ボードを指し示しながら解説している。
アナウンサー「その役員というのが、この方、糟屋昌史氏。責任ある立場にある人間が、ど
うしてこうも卑劣極まりない・・・」
糟屋、カーナビを両手で掴む。
糟屋「はあああああああああ!?」

○慧明大学・食堂
リクスー姿の糟屋、必死の形相でノートパソコンのキーボードを叩いている。
ノートパソコン画面には、就活サイトの画面。
糟屋「くそっ・・・くそっ・・・」
男子学生Aの声「(音読)誰もが認めるエリートビジネスマンの裏の顔!本誌は、その実態
に迫った」
糟屋の背後、男子学生2、3人が週刊誌を囲み、読み上げている。
男子学生B「これなんかヤバいぜ。(音読)執拗にキスを迫られて・・・美人秘書の涙」
男子学生たち、いやらしく笑うも、糟屋が恐ろしい形相でこちらを振り向いているのに気付き、そそくさと退散。
糟屋、再びパソコンに向かうも、
男子学生Cの声「(音読)己の立場の強さを利用して、女性を弄んだ責任は重いと言わざるを得ない」
糟屋、勢いよく席を立って振り向く。
男子学生一同、笑いながら逃げていく。
糟屋、憤然と着席し、パソコンに向かう。
糟屋「くそっ・・・」
パソコン画面には、『今後のご活躍をお祈り申し上げます』のメール文言。
糟屋「(絶叫)くそぉ!」
周りの学生たち、驚いて糟屋の方を振り向く。
肩を上下させ、荒い呼吸をする糟屋。
森園の声「瑛ちゃん・・・?」
糟屋、顔を上げる。
森園繁(22)が顔を覗き込んでいる。
森園「(微笑んで)あ、やっぱり!覚えてる?僕、森園!森園繁!幼稚園のとき、うぐいす
児童合唱団で一緒だった!」
糟屋、目を細める。

○同・中庭
オーケストラサークルの金管メンバーが数人で練習をしている。トランペットの間の抜け
た音が響く。

○元の同・食堂
森園、1枚のチラシを差し出す。『混声合唱団コール・シンフォニア団員募集中!』と書か
れている。
森園「最近僕ね、合唱団立ち上げたんだ」
糟屋「はーっ、ショボいチラシだなおい」
糟屋、チラシをつまみ上げる。
糟屋「せめて綺麗な姉ちゃんのグラビアでも乗っけろよ。こんなの視界に入れる気にもなんねえわ」
森園「貴重なご意見どうも。それでさ、ここで会ったのも何かの縁ってことでさ、協力して
くれない?」
糟屋、しばし硬直したのち、無表情でチラシを丸める。
森園「ちょっとおおお!」
糟屋「見て分かんね?俺ね、今それどころじゃねえーの(パソコンを叩く)」
森園「うん、そう来るよね。だから、物は相談なんだけど」
森園、名刺を見せる。『株式会社三丸硝子 代表取締役 三橋孝明』の表記。
糟屋「三丸硝子って、あれじゃん。〝やっぱり窓は、ミツマルに相談だ♪〟ってCМ!」
森園「そう。その人ね、僕の叔父さん」
糟屋、顔色を変え、名刺に向かって手を伸ばす。
森園、名刺を持った手をさっと引く。
森園「こちら非公開求人でございます」
ニヤリと笑う森園。

○タイトル
「青春カンタータ!」

つづく

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