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旅をして、人と出会って、考えた

「わじま」
小学校の時、A4サイズに入る大きさに描かれた日本地図の上でたくさん並ぶ日本の伝統工芸の名産地を一生懸命暗記していた時に、出会った地名の一つ。
20年以上前の当時、「輪島」が位置する石川県に行ったこともなければ、教科書の中のピカピカ光る器の写真にも特段心を動かされることもなかったと記憶しています。
そして、最近、輪島に旅行にいくことになりました。日本海の風を肌で感じながら、輪島塗を専門にする方々の工房がある小道を歩いたり、手に取って漆の艶を感じながら、改めて目の前で見る輪島塗りというのは、まるでそれまでの白黒写真に色がついたかのような体験でした。

今回の旅では何人かの職人さんとの出会いを通じて、日本の伝統工芸について考える機会になりました。今回は私が旅で職人さんからお伺いしたお話を中心にお伝えしたいなと思います。

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500円のB級品から◯◯万円?!のワイングラスまで

輪島塗りは、1975年に経済産業大臣指定の伝統的工芸品とされ、その2年後には全国の漆器産地で最初に重要無形文化財に指定されたということで、まさしく「由緒正しき」という言葉が当てはまる漆器です。
私自身、旅行に行くまでは、とにかく高級だ、程度の知識しかなかったのですが、なぜお値段もそれなりにするかというと、100を超える工程を経て作られ、その工程は分業制でそれぞれの専門の職人さんが担当しているということにも起因するそうです。例えば、器のベースになる木を切り出して形にする方がいて、次に割れやすい部分には布地をはって補強して下地をぬる方がいて、漆を均一に塗る人がいて、最後に装飾を施したり艶を出す人・・・と、たくさんの方々の熟練技術の集大成として、一生物になる丈夫で美しい器が出来上がるとのこと。

そんな日本の文化と歴史を背負った伝統工芸品ですが、実際に私が旅をして色々と見てみると、朝市という朝早くから露店が並ぶところでは、職人さんが「難アリ」と判断した、いわゆるB級品の輪島塗りがなんと1つ500円から手に入ったりします。素人の私からすると、一体何が問題なのかはさっぱり見つからずお店の人に聞いてみると、お店の人もうーん・・・と唸りながらあっちから、こっちからと器を眺めては、「多分このあたりが、うまく塗れていないとかですかね」と推測していました。そんな風にして料金の安さで勝負しているお店がある一方、独自のデザインを極めて芸術作品を作りあげている人もいらっしゃいました

あるお店では輪島塗りのワイングラスを見つけました。あまりの美しさに感動していたのに、お店の人がなかなか売ってくれるそぶりを見せず「いやー、これは本当に実験的なところもありまして。たまに東京からきたお客さんが買っていくことはありますが・・・」と濁す感じです。
いやいや栃木住まいの田舎者になった私たちにだって売ってくださいよ!と思いながらしつこくお値段を聞いたところ、1つのワイングラスがびっくりの15万円でした!それまでもう自宅に持って帰る気満々で手に持っていたワイングラスを、お店のディスプレイに戻す時にはちょっと緊張したほどです。(もちろん買えませんでした・・・「東京から来たお客さん」すごい!)

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大型バスで乗り付けるお客さんの激減、そしてインスタ映えしないという現実

私たちが輪島に泊まった時、ホテルはキャンセル待ちにギリギリに滑り込めたというほど予約でいっぱいだし、地方暮らしで人が集まっている景色に見慣れていない私からすると、朝市にもかなり人でワイワイと賑わっているように見え、観光客の数もそれなりに戻ってきているのかなーと感じていたのですが、実際にはまだまだパンデミック以前のような状況には戻っておらず、多くのお店が苦戦しているというお話でした。
例えば以前は海外から来た観光客の方々が大型バスでお店の前まで乗り付けて、たくさん買って行ってくれることも多かったそうですが、今はそういった種類の観光客はほぼいなくなったとのこと。そんな風に嘆かれていた店の方に、都会の百貨店で売るのはどうでしょうか?と尋ねたところ、百貨店にマージンを払った後に、お店の人たちに残る売上というのは非常に少ないため、百貨店頼みではやっていけないということでした。

それでは、こんな時代だからこそ、海外展開やオンライン販売はどうなのか、と思う人も多いかと思います。私が話したお店の方の一人は、以前は香港経由で中国でたくさん売っていたそうです。しかし、香港の政治状況が悪化したことをきっかけに販路が絶たれてしまい、今は日本での売上に頼っているということでした。
一方、オンラインでの販売については、漆の魅力というのがなかなか画面越しには伝わらないのが何よりも課題とのこと。画面上ではプラスチックの輝きと漆の輝きの違いがうまく伝わらず、数万円の商品にも関わらず逆にチープに写ってしまい厳しいというお話でした。
確かに私も、実際に手に持ってその器の質感を感じたり、漆が丁寧に塗られた様子を自分の目で確認すうまでは、漆器の価値のようなものを感じれなかったので、あーこの辺りは本当に難しいのだなーと素人ながらに思いました。

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魅力が伝わらなければ、それは私の写真技術のせいでもあります

挑戦し続ける人達がいる

話を聞けば聞くほど、500円で高級なはずの器が買えるなんて!と小躍りできないなーとしみじみしてきて、重要無形文化財に指定された神々しいはずの伝統工芸品が直面する厳しい現実に圧倒されてきてしまいます。
しかし、だからといって八方塞がりの状況かというと、新たな取り組みに挑戦し、希望の光を自ら作り出している人たちにも出会いました。

例えば、漆器といえば、お雛様のひな壇に飾られたお籠や重箱のように、黒地に煌びやかな装飾が施されたようなものだったり、宮内庁御用達といった言葉がぴったりな鮮やかな朱色の器を多くの方が想像するかと思います。実際に輪島で器を見ていると、想像通りの黒と赤のピカピカとした器がズラーっと並んでいます。こういった華やかな器が似合うような食卓のお家には良いのかと思うのですが、我が家は庶民的な食卓なので、こんな華やかそのもの!という漆器が来ても、まるで菜の花畑に一輪のバラが咲くかのように、他の食器とあまり馴染まない様子しか想像できません。もう少し、他の色の器があればいいなーと思っていたところ、カラフルな輪島塗りというのに挑戦をされている方がいらっしゃいました! 
もともと、漆というのはその顔料の特性上、黒と赤色系以外の発色は難しいそうです。そんな中、研究所の方と協力しながら17色ものバリエーションを生み出された方がいました。オリーブ色、パール色、瑠璃色・・・とプラスチックの器にも、ガラスの器にも、陶器にも出せない輝きと深みある色の漆器を作られていました。

このカラフルな漆器を生み出したアイデアマンの方は、昨今の空気清浄機の需要ニーズにうまく応えられないかと思いつき、美しすぎる空気清浄機として人気がある空気清浄機メーカーとコラボレーションして輪島塗りの清浄機をプロデュースされていました。実際にその商品を直接ご説明いただいたのですが、輪島塗りのデザインについての説明は一切なく、いかにこの空気清浄機がすごい性能で空気がとても綺麗になるのか、とまるでメーカーの営業マンかのような熱の入れっぷりでお話しされているのが、とにかく私には印象的でした。

他にもパリコレのデザイナーとコラボレーションをして漆を使ったアクセサリーを開発されている方にもお話をお伺いしました。有名な日本のモデルさんも購入して行ったんですよーとおっしゃっていて、じゃあ私も!と、そのモデルさんのファンでもなんでもないのに(むしろそのモデルさんのお名前をお店の方が覚えていなかったのですが・・・)、一番お手軽に買えるピアスを一大決心して購入したのも旅の思い出です。

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先日、あるニュースメディアの対談番組を見ていたら、論客の一人の方が、無駄な消費は一切なくなるのがいい。人間の欲はキリがないんだから、必要なものとそうでないものを、誰かが決めて無駄なものをとにかく排除しないとダメだと自論を述べていました。

その方がもしも輪島塗をみたなら、100円均一やニトリのお椀でも十分機能的には不便はない中で、美しさのために職人さんが時間をかけて、お客さんがそれなりのお金を払うのなんて無駄そのものだと一刀両断するのかもしれないな、とディベートを聞きながらボンヤリ考えていました。

とは言え、「遊びや文化は人生に欠かせない必要ムダ。」と美輪明宏さんが言ったそうですが、輪島塗については、自分の目でみて、自分の手で触って、あー美しいなーと心から感じた身としては、輪島塗は必要ムダだと信じています。こういう美しいものが全てなくなってしまい、ただ機能性だけを求める世の中になるのは寂しいなと。

一生懸命、家電メーカーやパリコレデザイナーとコラボしながら頑張る輪島塗の職人さんたちが、これからも色々なことに挑戦し続けられるだけの市場と必要ムダがあり続ける世界に私は生きたいなーと私は今回の輪島での滞在で思った次第です。

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💡Podcastの新エピソードを公開しました!(5月27日)】

本ブログ記事に関連する内容で、Podcastで新エピソード「不安と恐怖に立ち向かうー私はこうして、起業の一歩を踏み出したー」(19分)を配信しています!
輪島で新しい取り組みをしているイノベーターの職人さん等に出会って、自分が起業した当時のあのソワソワとワクワクが混ざった感じを思い出しました。
2013年に会社を始める時に、どんな不安や恐怖があったのか、それをどう克服したのかということについてお話ししています。起業に興味がある人のみならず、何か新しいことに挑戦したいけどどうしよう・・・と迷っている人が、少しでも「私だって出来るかも!」と思ってくれればと願っております🙏

もしよければ、ぜひお聞きください👂↓






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