見出し画像

「鬱病は心の風邪」という表現がもたらす誤解

私は現在鬱病を患い治療中の身である。鬱病になったと会社や周囲の人々に報告したとき、鬱病を含む精神疾患に対する世間一般の認識が少し厄介なものであると実感した。
それによって私が感じたこと、苦しんだことについて書いていきたいと思う。

「鬱病は心の風邪」という表現について

以前メディア等で「鬱病は心の風邪」という表現を何度か聞いた。この表現の真意は定かではないが、「誰でも罹りうる病気である」ということを伝えたかったのであろう。
しかし、端的に言えば鬱病は心の病気ではない。脳の物質伝達回路のバグで起きる一連の現象だ。詳しいことは精神科医が書いた本でも読めばわかる。
心が脳にあると考えるのであれば「心の風邪」という表現もあながち間違いではないが、多くの日本人の思考的には「心=脳」という解釈は少し難しいところがあるのではないだろうか。
これ以上は哲学問題になってしまうのでこの辺りでやめておく。

何故「心の風邪」と表現したのか

上記の通り、このような表現は精神疾患に対する誤解を招きかねないと私は思っている。
では何故「心の風邪」と表現したのか。それは前述の通り「誰でも罹りうる病気である」ということを教えたかったのだと考えている。
鬱病を含む精神疾患は、誰でも罹る可能性がある。確かに「鬱病になりやすい人」というものはある。
現在の担当医曰く「真面目で責任感が強く完璧主義」な性格の人、また遺伝的要因もある。
だがそれはあくまで「罹りやすい」というだけであって、どんな人でも条件が揃えば発症する可能性があるのだ。これは決して気合や根性の問題ではない。


誰でも罹りうる病気である

以前歯科助手として働いていた頃、歯を折って歯科医院を受診してくる人が何人もいた。
理由は様々だが、「お煎餅を食べたら歯が折れてしまった」「乾燥芋を食べたら歯が割れた」といった予約電話を受ける度に「えっそんなことで歯って折れるの?」と驚いていたことをよく覚えている。
私はありがたいことに歯は丈夫だ。今まで一度も欠けたり折れたりしたことがない。私には兄がいるが、彼も同じく歯は丈夫だ。加えて健康に非常に気を使っている。
しかしそんな兄ですら、両手に荷物を抱えた状態で新幹線のホームでつまずき、見事に顔面着地をかました末、前歯を折った。もうそれは見事に折れていた。
兄についてはとても書きたい内容があるのでまたいずれ違う記事でも触れたい。彼は簡単に言えば強靭なメンタルの筋肉モリモリマッチョマンだ。
そんな彼の歯ですら折れたのだ。

鬱病もそんなもんだ。私は確かに鬱病になりやすい人間の典型例だろう。
だが、決して鬱病は心の弱い人間だけが罹る、そんな疾患ではないのだ。それをどうか理解してほしい。


鬱病は気合や根性では治らない

残念ながら「心の風邪」や「心の病気」という表現がされてしまう鬱病だが、原因は冒頭に書いた通り脳の機能がバグっている、そんな病気なのだ。
脳の機能がバグっているので、気合や根性では治らない。しかしここがあまり理解されていないのだと実感した。
「気持ちが前向きならきっと元気に戻れる!」という言葉をいただいたことがあるが、回復してきた今の私なら「ちょっとそれやめてもらっていいっすか?」と言ってしまいそうだ。
本人は完全な善意なのだろう。だからこそたちが悪い。
足を骨折している人に「気持ちが前向きならきっとすぐ走れようになる!」と言っているのと同じようなもんだ。
気持ちが前向きだろうがなんだろうが折れた骨が再生するのには適切な治療とそれなりの時間がかかる。

私はこういった善意の言葉を受ける度に「早く治して職場復帰しなければ」「私の心が弱いんだ」といった自己嫌悪に陥り、余計に鬱が悪化した。


いつも通りに接してほしい

もしもこの記事を読む人に、身近な人が鬱病にかかってどう接したらいいかわからないというような場面があったら、どうかいつも通り接してほしい。
これは私自身の経験から書くことだから主観的な意見となってしまうが、実際に鬱病にかかったと報告した後、周りから腫れ物に触るような扱いを受けて悲しくなったのだ。
いつも通りといってしまうと語弊が生まれるだろう。鬱病の症状をきちんと知って、できないことはできないと割り切り、そこについては触れないでほしい。
鬱病にかかると様々なことができなくなる。本当に生活が困難になる。今までできていた当たり前のことができなくなるのだ。
「できない」ということは本人が一番わかっている。痛いほどに実感している。怠けているわけではない。できないのだ。
まぁ脳内バグってるからしょうがないんですけどね。
つまり、「できない」のは脳の病気のせいなので治療が進めば自然とまたできるようになってくる。時間はかかるが。どうか長い目で見てほしい。

だって足が折れてる人に「いますぐ走れ」なんて言わないでしょ?


「鬱病は治ります」という医師の言葉

仕事で頭がおかしくなって精神病院に担ぎ込まれた私に医師が放った一言は一筋の光だった。
「大丈夫。鬱病は治りますよ」
ただ非常に再発率が高い病気なんですよね~というその後の言葉は聞き流してしまった。
治る。ただその言葉だけで十分だった。
大学時代にも脳をこじらせメンタルクリニックに通っていたが、その時の担当医は決してそういった断定的な言い方はしなかった。
一生このままなんだと思いながらクリニックに通い続けていた。
結果的にセカンドオピニオンのような状態になったが、いま私は穏やかに過ごしている。それでいい。

鬱病は「心の病気」ではない

まとめると、鬱病は決してメンタルの弱い人間だけがかかる心の病気ではない。誰でもなりうる。そして気合や根性では治らないが、きちんと病院に通えば治せる。
そういう意味では風邪と一緒なのかもな。散々批判しておいてなんだって話だが。


まぁ、とりあえず生きていこうぜ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?