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たぶん、日本で一番やさしい介護保険の手引き

看護師になって11年

患者さん、そしてご家族から
これまで最も多く受けた質問、それは

介護保険の申請って
どうすればいいんですか?

次に多いのが

介護保険の申請って
そちらでやってくれないんですか?


意外に思われるかもしれませんが
そちらではやってくれません。


介護保険は自己申告制。
だから、こっちではできません。


自分で動かないとダメなんだよ!


なんて言ったらクレームになってしまうので、もっと優しくしたVer.を100万回以上、臨床で伝えて参りました。

冷静になって考えて欲しいのですが、国にとって赤字となるような政策やサービスを必死にPRすると思いますか…?

代わりにやっておきますね〜なんて、役所の人が言ってくれると思いますか…?

国の歳出のうち、介護保険を含む社会保障費にどれだけ消えてるかご存知ですか…?


なるだけ出費をおさえ、かつ生活に寄り添った介護保険を利用するには、自分で調べて、自分で行動するしかないんですよ。


なんて言われても、ちんぷんのかんぷんだと思うので、最低限度知っておけばなんとかなる介護保険の仕組みと申請方法についてお伝えしていきますね。

各自治体によって、サービスの名称や期間、対象が異なることもあります。
ご了承ください。


そもそも、介護保険ってなんなん?

詳細な情報についてはこちらにありますが

読み終わったところで

…で…どうしたらいいの?
どこに行けばいいの?

って話ですよね、わかります。
順番に説明していきますね。

介護保険とは…を話してると永遠ですし、3年おきに制度が細かく変わるので割愛しますが

ざっくり言うと、介護が必要な人へのサービスとそのシステムです。

介護保険制度、受けたいな
介護保険サービス、使いたいな

と、思ったら

まずは、介護保険サービスを受けられる対象なのかを確認しておきましょう。

・65歳以上であること
もしくは
・40〜64歳の人は、特定疾病に該当すること

上記、どちらかが介護認定を受ける上での最低条件となります。

そのため、わたくし33歳のナースあさみは、いかなる病気にかかろうとも介護保険制度を使ってサービスを受けることはできません。
(もちろん、他に使えるサービスがあります)

反対に、70歳のがん末期患者さんなんか、ばっちりですね。

65歳以上の人は認定が下りれば、介護保険サービスが使えます。どんな疾患・障害であろうとOK

加えて、40歳以上の人で16種類ある特定疾病に該当する人も、申請し認定が下りれば介護保険サービスを使うことができます。

この16種類の疾病ですが、ざっくりイメージでお伝えすると

令和のこの時点においても、治癒・寛解する可能性が極めて低く、病気の進行とともにADL低下が免れない病気

って感じです。
ADL低下については、こちらもぜひ。

そうすると、残念ながら精神疾患系は特定疾病の該当から外れます。
良くなるか悪くなるか、本当にさきの読めない病気だからです。


何を持っていけばいいの?

介護保険の申請に必要なもの
まず、ひとつめは

要介護・要支援認定申請書

介護保険を使いたいからよろしく!という書類です。

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上記は、わたしの住んでる大田区の書類のpdfファイルです。
役所にも書類が置いてありますし、あらかじめpdfからダウンロードし記載しておくのもいいでしょう。

ここには、主治医の名前をはじめ、医療機関の住所や電話番号を書く欄があるので、かかりつけ医の診察券を持っておくとベター。

なぜ、医師の情報が必要になるのか。

それは

この人、これこれこういう病気や障害があって、こんな看護やあんな介護が必要な状態なんだよね。私が証明するよ!

という書類を、のちのち主治医が書くことになるからです。
(主治医意見書と言います)

介護保険制度は、介護が必要な人のためにあるもの。

ちょっと家のことやるのめんどくさくなってきたな~…
歳も歳だしヘルパーさんお願いしちゃおっかな☆

という元気なお年寄りは、当たり前ですが対象から外れます。こういうことを客観的に判断するためにも、医師の意見書が必要となるんです。 


もうひとつ、必要なものがあります。
65歳以上の人は介護保険証を持参してください。

多くの国民が持ってる医療保険証とは別のもの、介護保険証です。
紙のハガキくらいの大きさで3つ折りになってることが多いと思います。

65歳になった時点で、保険料を納めてきた人のご自宅に必ず届いているはず。

このふたつが揃って、いよいよ申請スタートです。


どこにいけばいいの?

役所にある介護保険課、もしくは地域包括支援センターに向かいましょう。

ちなみに、わたしが住んでる大田区には22の地域包括支援センターがあります。最寄りの場所を調べてみてくださいね。


介護認定調査を待たれよ

申請の手続きをしたら、介護認定調査を待ちましょう。

役所から調査員が自宅まで来ます。
生活の様子や現在の状況を聞き取りに来るんです。

もし、一緒に住んでる人が在宅可能ならば、居てもらったほうが良いでしょう。

高齢者に限った話ではないのですが、はじめて会った人にいい顔しようとする人もいます。

いつもは全然動けないのに、調査員の前では座れるフリをする

とか

いつもはボケボケなのに、しっかりしてるように見せかける

とか。

反対に、より重症な介護度をGETしようと、動けないフリをする人、なんかもいます。

そういうのを精査する意味でも、家族や一緒に住んでる人が居てくれると、より良いのです。

調査員側としても、より信頼度の高い情報を得ることができますしね。


さらに、この介護認定調査、入院中であっても受けることが可能です。
むしろ、個人的には入院中こそオススメ。

手術して元気になるはずが、いろいろあって寝たきりに近い状態。
施設はお金が厳しいし、だいたい満杯で入れない。
家で介護するにも、一体どうしたら……

ってケース、少なくありません。

入院中に介護認定調査を受けるメリットがあるとしたら、本人、家族の他にわたしたち看護師の意見も調査員にお伝えできること。

調査員側も、日頃の状態を正確かつ客観的に捉えているわたしたちの情報や意見を求めたほうが、より妥当な介護度を認定することができるはずなんです。

日中は穏やかだけど夜になると手がつけられないくらい暴れる

とか

やる気にムラがあって車椅子に座れる日と座れない日がある

とか

関係性が近いとなかなか言えないことも、わたしたちは伝えることができます。

一緒にケアするチームメンバーに、正確な情報を端的に伝えることが仕事でもあるからです。

もちろん、嘘はつけません。

正直に、その時の患者さんの状態をお伝えするわけですが、誰よりも患者さんの生活を客観的に知っている立場。

他の誰よりも、調査員からめちゃくちゃ質問されるケースも過去にはありました。

入院中に介護認定が必要になるかどうかの判断は難しいと思うので、気になったら病棟看護師まで尋ねてみてくださいね。


認定を待つあいだ、行われていること

介護認定調査が行われたあとは

主治医に作成してもらった主治医意見書と照らし合わせて、会議にかけられます。

ここで介護度(要支援1~要介護5)までの区分、もしくは該当しないという判断が下されるわけです。

この間、約1ヶ月くらいと言われています。
(これより早い場合も遅い場合もあります)

がん終末期など、サービス導入まで一刻の余裕もない場合には、担当ケアマネージャー、MSW(メディカルソーシャルワーカー)などと一緒に暫定のケアプランを作成し、自宅で介護やケアを受けられる体制を整えることも可能です。

早め早めに相談してみることをおすすめします。


認定が下りたあとは?

ケアマネージャーの一覧を貰えますので、何人かに連絡してみましょう。

これも、自分でやります。

入院中の場合には、退院支援チームの看護師やMSWが近隣のケアマネージャーにはたらきかける場合もありますが、最終的にどこどこのこの人にお願いする、と決めるのは患者さんとご家族です。

ケアマネージャーに連絡して、何をするかというと、ケアプランというものを作成してもらうんです。

ここがケアマネージャーの専門性

ケアマネージャーは

これぐらいの介護度で
こういう身体の状態で
ああいう生活における困難を抱えているから
こんなプランはどうでしょう?

と、提案&調整してくれる人。

その人のカリキュラム(介護度を踏まえた生活の目標)に応じて介護とケアの時間割を作ってくれる人、と思っていただけるとわかりやすいかもしれません。

しかも、彼女たちは介護度に応じた予算(限度額)も知り尽くしています。敵を知り尽くした上でHPとMPの振り分けをする戦略家、わからないときは一旦丸投げするのもアリです。

その上で

・このサービスはなくてもいいかな
・あのヘルパーさんとはウマが合わない、他の人に変更できない?
・この時間にもヘルパーさんきて欲しいんだけど、さすがに自費になっちゃう?

など、より個別性の高いプランに変更していくといいかもしれません。

かなりドライな言い方になってしまいますが、介護と育児、違う点があるとしたら育児は手が離れていく一方で、介護はどんどん手がかかっていきます。下手したら、いつまで続くかわからない、本人が死ぬまで続きます。

だから、本人はもちろん介護者や同居している人の負担軽減も、ケアプランを作成する上での大きな要素のひとつだと言えるのです。


代表的なサービスをちょっとだけ

具体的にどんなサービスがあるのか、メジャーなものだけ紹介しておきますね。

・訪問看護

看護師が利用者の自宅に伺って、バイタルサインの測定や採血、薬の投与、点滴交換、褥瘡処置などを行います。

病院と同じようなケア、本当にしてくれるの…?

と思われる利用者の方も多いですが、環境が変わってもケアの本質は看護師の頭と手。

物品さえ揃っていれば、病院と同じケアができるので安心してください。

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上記は、訪問介護指示書という医師の指示書。
わたしたちは、これに順じてケアを提供するわけです。

在宅や施設内であっても、病院の中と同じく医師の指示・許可があってこその看護ケア。突然、他院から処方された薬を使いたい!と言われても、すぐに対応できないこともあるので、ご理解いただけるとうれしいです。


・訪問介護

医療処置にはあたらない、おむつ交換、食事介助、着替え、お風呂介助、買い物付き添いなんかがこれにあたります。

30分単位で組み込まれることが多いかな。

塗り薬を塗る
目薬をさす
湿布をはる
爪切りをする

実際の現場ではグレーな部分もありますが、これらは原則ヘルパーさんが実施することはできません。医療行為にあたるものだからです。

家族ならOKということがほとんどなので、ここはケアマネージャーやヘルパーさんともよく相談してみてください。


・通所介護(デイサービス)

介護度にもよりますが、まる1日利用者さんを預かって介護してくれるものです。介護者にとっては、負担軽減の大事なサービス。

子どものベビーシッターがそれなりのお値段、保育園や幼稚園が比較的お手軽なように、人を面倒をみる上では「一箇所にまとめてプロがみる」のがコスト面でも管理面でもやりやすいんですね。

食事はもちろん、お風呂にも入れてくれるし、レクレーションもあります。

朝迎えにきて、夕方送り届けてくれますし。

仮に具合が悪くなっても、看護師が常駐しているので安心。
横になれる保健室みたいなスペースもあります。

誤解があっては悲しいですが、大人版の保育園だと思っていただけると想像しやすいかなと思います。

ひとりで家にいるのが不安、寂しいという人には合っていますが、ひとり家で静かに過ごしたいという人、この年になってみんなでカラオケなんかやってられるか!なんて気質の人もいます。

こればかりは相性があるので、介護者の事情と合わせて、本人の意向や性格も考慮する必要があります。


・福祉用具の貸与

車椅子、介護用ベッド、歩行器などを借りることができます。

もちろん、購入してもいいのですが、身体の調子が良くなって不要になる人もいれば、一気に悪くなる人もいます。

そのため、借りるのが最もメジャーな方法です。


・住宅改修費の支給

あまり知られていないかもしれませんが

・手すりをつける
・階段なくしてスロープへ
・ドアから引き戸へ

などの改修ををおこなった際、その費用を支給してくれます。

個人的には、手すり最高です。
手すりがあるだけで、トイレまでなんとか歩ける人の多いのなんの。

自治体によっては、合わせて使えるサービスや支給事業もあるので、ケアマネージャーに相談してみましょう。


・施設に入れるサービスも

これまでは、在宅での生活にサービスを導入するものを紹介してきましたが、ここからは施設入所パターンもお伝えしておきます。

そう、介護保険を使って施設に入所することもできるんです。

・特別養護老人ホーム
・老人保健施設
・療養型病床群

なんだか難しい言葉ですが、「とくよう」とか「ろうけん」なら聞いたことがあるって人も多いんじゃないでしょうか?

これです。

それぞれ、入所するための条件や状態は異なるので、希望される方は早めに相談してほしいです。

じゃないと、高齢社会の昨今ですもの

施設に空きがある、なんてことは滅多にありません。

特別養護老人ホーム・療養型病床群に至っては、誤解を恐れずに言えば、利用者の誰かが亡くならないと新規の利用者は入れません。

ベッドが常に満床状態なんです。

わたしが知っているパターンだと、平成元年入所の92歳のおじいちゃん(脳梗塞後で要介護5)なんて人もいました。

特養歴32年!!!!

これまた言い方が難しいですか、施設でしっかり管理されているから、なかなか病気にならないし、なっても治してしまうんですよね。

こんなに長生きするなんて思ってなかったんです…
もう、ここまで生きたんだもの、いいよねお父さん?
だから、積極的な治療は一切しないでください
ダメだったら、ダメでもう結構ですから…

そういう娘さんも70代、介護保険の被保険者でした。

施設に入ってしまえば安心、という介護者の心理もわかりますが、お金もかかってくることなので、いろいろと天秤にかけながら意思決定していくしかないよな〜なんて思います。



あくまでも介護保険は手段

以上が、おおまかな介護保険の流れとなります。

上記は、大田区の介護保険パンフレットです。

各自治体、こういうものを発行しているはずなので、ぜひ手にとってごらんになってみてください。


あらためて、自分から動かないとなにも進んでいかない制度、というのがおわかりになったんじゃないかと思います。

確定申告と一緒ですね。

中には、個人情報保護の観点やお金に困っていないという理由で介護保険を使わないという人もいますし、他人が家に入ってくることがストレスすぎて以来リハビリをめちゃがんばり、介護保険サービスを使わないほどに回復した人もいます。

大家さん友人など、介護保険のサービスではなくインフォーマルなサポートを受けつつひとりで暮らしている認知症の人もいます。

介護保険は、暮らしのための手段のひとつ。

その人がなるべく不自由さを感じずに、安全に暮らせたら、使っても使わなくてもそれで良いのです。


ここまで読んでくれたあなたなら

なるべくコストをおさえて
仲良しの人たちと
自分らしく、自由に生活するには

自分で自分のことができる
これが必須条件です。

かかる病気や障害を選ぶことはできませんが
身に付けたい習慣や理想の暮らしを実現するための努力は
自分で選び、実践していくことができます。

これは、年齢も性別も社会的地位も関係ありません。

日々の生活をたいせつに
そして、サポートが必要になったら
自分で調べて、自分で動く

自分の暮らしを整えるのは自分
自分の健康を守るのも自分

「自分」の定期的なメンテナンス
どうか、お願いしますね。


貴重な時間を使い、最後まで記事を読んでくださりどうもありがとうございます。頂いたサポートは書籍の購入や食材など勉強代として使わせていただきます。もっとnoteを楽しんでいきます!!