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「コスパ至上主義」の長期的損失

かけた金額に対して見返りが大きいことを「コストパフォーマンスがいい」と言われています。最近ではお金に限らず、時間などにも使うようです。例えば、通常2時間ある映画を10分で見た(&理解)できた場合1時間50分得したから「コスパがいい」と言われるようです。

ところで、2時間の映画を10分で理解したとして、残りの1時間50分は貯金できるのでしょうか。時間は貯蓄できませんね。10分が終わったらすぐに10分1秒が来て、10分30秒、11分、12、13分、15分、30分…容赦なく次から次へ時が訪れ、そして過ぎていきます。時間を止めることはできません。つまり、時間と言うのはですね、姿がないのです。貯めることも止めることも、触ることもたぐることもできません。そう考えると人が「時間」と呼んでいるものは実態がないと言えるのではないでしょうか。

時間があると言うのはその時間で何かができたときにはじめて感じられることであって、2時間の映画を見ればそれは2時間の時間を得ることができるし、10分なら得た時間は実は10分だけなのです。

その場合、どちらが得なのでしょう。わたしは2時間の映画のほうが得だと思います。時間がお金だとしたら2万円ももらえるのに1600円だけもらって「得した!」と喜んでいるようなものです。でもそれは私が映画が好きだからですね。

もうひとつ。時間は伸びたり縮んだりします。好きなことをしていると「もう2時間経った」ってなるし。好きな人から連絡を待っているときに「30分くらい経ったかな」と思うとまだ5分なんてことがあります。

さらにもうひとつ。時間には密度あります。同じ2時間を映画を見るのか、Twitter見て過ごすか、ゲームをするのか。トイレと台所と風呂場の掃除をするか、残り材料で常備菜を仕込むか、田んぼで草取りをするか。時計の針では同じ2時間でもその2時間で得られるものが大きく違ってきます。

2時間の映画を10分で見た場合、この場合のコスパとは何を指すかと言えば、残りの1時間50分でさらに生産的なことができるとか、逆にゆっくりするとか、そういう「映画を見ること以外に使える」ことであるかと思われます。けれど、それは映画を見ていないだけであって残りの1時間50分が貯蓄されるわけではないし、お金に替わるわけでもない。映画と同等かあるいはそれ以上の成果を得ることができなければ「コスパがいい」とは言えないと思います。

さて、時間をどのように感じることができるかを考えたとき、例えば何もない空間にずっと石が置いてあるとして、その石だけを見てどれくらい時間が経ったか計ることができるでしょうか。その石が5分前に置かれたのか、400年前に置かれたのか判別つくでしょうか。

時間を判別できるのは変化であり、変化だけが時間を示すことができます。成長や発酵、生や死。時間そのものに価値はありません。姿かたちがないのですから。では、ゲームをしている時間と勉強をしている時間。どちらに価値があるのでしょう。大人なら「それは勉強に決まっているだろう」と言うかも知れません。本当でしょうか。

勉強していい大学に入って立派な会社員になったとして、出張ごとに地方のデリヘルの品定めをする大人になるかも知れません。ゲームばかりしていた子が将来なにかのきっかけで海外に行ったとき、どこかでマリオをすることになったらあまりの上手さに地元の子どもから崇められるかも知れません。彼らの時間の使い方に価値があるかどうかなど、決めることができるのは本人だけです。何に時間を使えば得なのか、そんなことを短期的なコスパで判断できるでしょうか。

2時間の映画はコスパが悪く、10分ならコスパがいい。果たしてそうでしょうか。映画を10分で見た人と比べたら2時間の映画を見た人は余分に1時間50分を使っているけど、その1時間50分が将来の自分の行動を変える可能性もあります。

先に、時間を感じることができるのはその時間で何かができたとき、と書きましたが、同様になにもできなかった時も時間を感じます。時間がなかった、と。けれど、これは実はおかしな考え方で時間がないのではなくあるわけです。実態はないけど世界中で同じ量の時間をみな獲得しています。その人の時間だけ1時間が10分になるわけでもありません。それでもどうにも時間がないんだ。そう思うなら、問題があるのは時間ではなく自分ではないかと思います。

人の生は有限であることを思えば、何かを得ようと終生もがくよりも、もしかすると捨てることの方が豊かである場合もあるでしょう。効率のいい時間の使い方を追い求め、目先のコスパを追求し、得ることができたコスパのいい人生。これが豊かであるかどうか。でもそんなことを考えることさえ、もしかするとコスパの悪い時間の使い方なのかも知れません。

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