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第9日目

毎朝電車に10分揺られて仕事に行く。最近の楽しみは、降りた宇治山田駅の土産物屋でその日のおやつを買うことだ。一昨日は「二軒茶屋餅」、昨日は「関の戸」を買った。地元の土産って、買うようで意外と買わない。最近は小さいポーションで売ってることも増えてるので、おやつにちょうどいい。知らない銘菓もいろいろある。しばらくは楽しめそうだ。

思えば、この駅だって観光客からしたら「いよいよ伊勢にやってきた!」という駅なのだから、私も心して降りるべきなのかも知れない。駅舎自体も古く、登録有形文化財だ。よく見ると細部も凝っている。天皇陛下をはじめとした皇族の方はみんなこの駅で降りる。観光協会もあるし、土産物屋もある。私は毎日10分旅をしているようなものだ。ものすごく小さい旅。よく人生は旅に例えられるけど、だったら、小さい移動だって旅になる。

私は電車旅が好きだけど、どんな田舎に行ったって、地方の名前も知らないような駅をいくつも過ぎても、そこにちゃんと人の生活がある。別に有名な場所でもない。ガイドブックにも載っていない。日本の人口のたいがいほとんどは東京に集中していて、日本の中心のように思われてるけど、実は東京なんて日本の面積の本当にちっちゃい僅かな場所で、東京以外のほうが広い。当たり前だけど。そして、きっちりと個性がある。その個性がほんとにどこに行っても魅力的。

忘れ去られたような日本地図の山と山の間の溝のような土地を電車が通り、庭先に干された洗濯物や、手入れのされた庭木、小型犬の散歩、電車に手を振る園児たちが見える。ちゃんとこういうところに人の生活があること毎回思い知る。ここにいる人たちだって、ちゃんと生活があるし、声もある。旅に出るといつもそれを思う。

毎日無人駅から普通列車に乗り込むと、多くの観光客がちらりと私を見る。

「へえ、こんなところにも人が住んでるんだ」

とでも言いたそうな顔だ。彼ら、観光客からすれば、私は「よく分からない田舎の人」「現地人」「地元民」で、場合によっては「よくこんなところに住んでいるな」と思われるような手合だろう。まあ、東京、政令指定都市、人口30万人以上の都市でなければ、大概の場所は「まあ、よくこんな田舎に住んでいられるな」と思われても仕方がない。

とは言え、私の町は少なからず一大観光地の中にある。一方では「こんなに伊勢神宮に近いところに住めるなんて羨ましい」と思われるかも知れない。そう考えると。ちょっと鼻が高い。毎日神宮の山を見ながら通勤するんだからね。それからしても、毎日が小さい旅で、毎日駅で小さいお土産を買っている。今はそんなちょっとした贅沢を味わっている。

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車なし生活の

第9日目

交通費 430円
出会った人 特になし
できごと 特になし
発見 特になし
歩いた時間 15分




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