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ネットショップでする旅

私はサトナカという菓子を作って売っている。これが本業で稼ぎはここから得ており、百姓では自分たちが食べる分を作って余りを販売している。

住まいの隣に工房があり、そこに4人のパートさんが来て毎日せっせと作ってくれている。ネットと実店舗での販売。伊勢神宮前の店舗への卸も少しだけしている。最初はそれぞれ売り上げが分散されていたのだけど、今は主にネット売れる分が大きい。ネットは自社サイトと楽天で販売している。

楽天には出店する気はなかったのだけど、当初楽天の営業の人が電話をしてきてくれたとき「今は楽天では売らねえ1年くらいたったら気持ちが変わるかも」などとエラそうなことを言ったらその営業さんがちゃんと1年後にまた電話をしてきた。そのしつこさと律義さがなんかいいぞ!って思って楽天でもショップを始めることにした。

ネット販売をしていると、当たり前だがあらゆる地域の人の住所を見ることになる。東京が多いかと思いきや、案外日本全国まんべんなく送っている。都道府県はさすがに全部知っているし、県庁所在地もまあ分かるが、知らない市というのが結構ある。東京と言えば23区、あと八王子や立川くらいは知っていたが、西東京市なんて言うのは知らなかった。あと、あきる野市なんていうのもある。自分の中の勝手な「東京=23区」をいつも反省する。そもそも大島だって東京なのだ。ひらがなの市、というのは割にあって、有名はところではさいたま市だが、なぜひらがななのかまったく分からない。県は普通に埼玉県なのに…。カタカナでは南アルプス市というのもある。これらは平成の大合併で作られた市で、以前は群だったところが集まってできたと言うのが多い。

いろんな住所を見ていると「あ、ここは今年行ったところだ」などと勝手にテンションが上がる。注文してくれたお客さんはそんなこと知る由もないのだが「うおー、あそこらへんに住んでいるのか~」とこっちは思っているわけでおそらく気持ち悪いだろう。ホントすみません。

今でこそパソコンで出力しているけれど、最初は手書きで送り状を作っていた。それでだ、苦手なのは「新潟県」だ。バランスが難しい。あと「岐阜」も地味に難しい。東京23区の住所は長いのでマンションの名前がまず長い。田舎は「○○町17」とか簡素でいい。23区で町名+番地だと「ほえー、昔からの家なのかなぁ、すごいなぁ」などと勝手に豪奢な家を想像している。

忙しく配送業務をする中、これらはささやかなインナートリップであり、決してお客さんを詮索したりするわけではない。こんな遠くの土地の人がうちのお菓子を見つけてくれて取り寄せてくれて、サトナカがこんな遠くまで行くのかーと毎回感慨深い。私は行くことはできないけれど、私たちが作ったサトナカが旅をするだなぁと思う。行って来いよー、って。

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人間は宅急便で運ばれるのは無理だが、ものは宅配便の人が届けてくれる。遠くからやってくるものは全部その土地から旅をしてやったきたものだ。今はあまりにも便利になりすぎて、その距離感を忘れそうになることもある。物流もこれまた旅であり、物とものが行き来して、時に人のこころに届くわけで、段ボールの中にはその土地の空気が入っているんである。

とはいっても、昨今の物流はアマゾンの倉庫に代表されるように一元管理されることが増え、かの土地から送られてくる、という部分が希薄になってきた。実際のところ、うちも配送量が増えてきたら外部委託、という選択をするかも知れない。

今はまだ自社で発送しているので、忙しい中でもお客さんの住所にワクワクしながら発送処理をしている。気持ち悪いと思われようが「あ!ここは次行こうと思っている場所だ」とか「あそこに住んでいるのか~いいところだろうな~」などと勝手なインナートリップを楽しんでいる。


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