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なぜ、よい脚本と悪い脚本があるのか

 今回は、演出家と役者にとっての「よい脚本」を定義し、脚本家として「悪い脚本」を世に出さないための方策を考えます。

 多くの脚本には、定まった構造があります。抽象芸術や即興芸術として作られたものであったとしても、必ずそこには表現されるものを観客に伝えるための定まった構造が伴うのです。

 よい脚本とはなにか。ここでは一旦、その構造と表現される内容、そして表現形式が噛み合っており、事前に提示される情報と齟齬のないものであると定義づけます。

 なぜなら、それらが合致していれば、演出家と役者は稽古中に混乱することがないからです。たとえば距離や時間や人などの不一致も、作品のジャンルによっては不問とされる場合があります。コメディだと事前に知っていれば登場人物が出たり入ったりする動きも笑いに転化できますし、何キロも離れた場所から一瞬で移動しても問題はありません。逆に厳密に組み立てられたシリアスなミステリーをコメディと間違えた際に取り落とされる繊細さは、想像するだけで吐き気をおぼえますが、ブラックコメディとして描かれていればその吐き気は面白さに転化されます。

 要するに、もっとも大切なのは「事前に提示される情報と齟齬のないもの」という部分です。

何を書いたかわからない

 多くの脚本初心者は、そもそも自分の書きたい作品が何で、書けた作品が何なのかを判断できません。なぜなら多くの人間は「作品のジャンル」とは表現形式のことであって書く人間の人生のことであるとは思っていないからです。

 人間は、自分の理解できない物事について語ることができません。これは書けないという意味ではなく、書いたとしてもそれが「理解できない物事」を正確に書いたものかどうかを判断できない、という意味です。

 ですから、世の中には平気で自分でも知らないことを適当に書いて、観客もそれを適当に受け入れている例が多々あります。作演出として主宰として作品を作る場合は、それでも何ら問題はありません。興業としての成功があり、一定の観客に受け入れられ、生活ができればそれはそれで成り立つものなのです。

 しかし、脚本家としての作品を他人へと提供する場合は、異なります。

 多くの人間は「見たことのないもの」をガイドなしに理解することができません。これは知能の問題ではなく、認識の機能として人間の脳は「見たことのないもの」の形をうまく捉えることができないからです。

 そこで必要とされるのが「一行で内容を説明できる文章」です。これはパンチラインなどとも呼ばれ、どこの誰が目にしても一発で内容を想像し読みたくなる文章であることを求められます。

 このパンチラインをガイドに、最初の観客(プロデューサーか演出家、もしくは監督)は、脚本へ目を通します。

 もし、表現の端々からパンチラインとのずれを感じたら、観客はどう感じるでしょうか。騙されたと感じるのではないでしょうか。

 この「騙された」という感覚は、作者に対する不快感や不満へと転じます。「思ってたんと違う」と感じた観客は続きを読むことを拒否するかもしれません。ざっと流し読みして結論を急ぐかもしれません。いずれにせよ作者が本当に語りたかったことへと到達する道筋は、隠されたまま辿り着けません。

 何らかの方法でその脚本を世に出したいと考えるのであれば、自分が書いているものが「何で」あるかを一文で表現できるようになりましょう。どうしても難しければ信用できる誰かに読んでもらい、その芯となる要素を読み取って言葉にしてもらいましょう。 

 以下に、実践的な方法をいくつか紹介しています。サブタイトルを参照して、自分で内容を考えてみるのもいいでしょう。

見終えたあとの観客の顔は?

 観客の顔はあまりにも雄弁です。本当に面白いと思えばそれが残酷なホラー映画だったとしてもウキウキと色めき、つまらないと思えばハッピーなラブストーリーも灰色の沈んだ目の中に消えていきます。「逆に自分は腐った沼みたいな目になるラブストーリーを書きたいんだ」と思えばそれがパンチラインです。観客は「どんな腐った沼みたいな目にしてくれるんだろう」という期待で胸を膨らませて、あなたの脚本に挑むでしょう。

伝聞されるあなたの作品は?

 どんな風に表現されるのでしょうか。「つまらない人生に風穴を開ける最高のライフル」なんてポエテイックに伝えられるのでしょうか。それとも「どん詰まりの男と男が命をかけて誇りを奪い合う地獄」といった具体的なものでしょうか。いずれにせよ、あなたが望ましい要約であってほしいならば、脚本もまた観客が望ましいものであるべきです。

期待される次回作の内容は?

 あなたに次回作を依頼してくる誰かは、どんな作品が出てくることを期待して企画を立ててくるのでしょうか。強烈なバイオレンスでしょうか、それともリリカルなフェイアリーテイルでしょうか。もし現実に出てくる企画が「何でこれを自分に頼むんだ?」という内容であれば、どうやらあなたの作品はうまく理解されていないようです。

  まずは書いてみましょう。エンドマークをつけて読み直したときに、あなたの顔はどんな表情ですか? 誰かに伝えたいパンチラインはどこですか? そして次回作は何を書きたいと考えましたか?

 よい脚本を世に出すために、私たちにできることは何でもしましょう。

 追記には、悪い脚本の書き方が列記してあります。反面教師としてご利用ください。

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