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ベイブレードX「風見バードはなぜ勝てないのか」考察



ベイブレードXのあらすじ

アニメ・マンガ「ベイブレードX」の主人公の一人・風見バードは、プロの世界に憧れてXシティを訪れるも、プロとの戦いに敗れ相棒のベイブレードを破壊されてしまう。その後、もう一人の主人公・黒須エクスと出会い、プロの世界に飛び込んで戦っていく・・・というのがおおまかなあらすじだ。

主人公の勝率0割

ところが、その後の世界で風見バードの勝利は一度も描かれない。アニメ26話を終えた時点で一度もだ。バードのファンであるヒナちゃん(一般の子供)相手にも勝てない。描写外でも勝てている様子はない。ホビーアニメとしては異例すぎる「勝てない」主人公が風見バードだ。
一方で、バードとチームを組むエクスや七色マルチはスペックが非常に高く、エクスは現状無敗、マルチも多才すぎる才能を活かして勝ち続けている。
この現状にバード自身も苦悩しており、「自分がチームの足を引っ張っている」と自覚し、日々トレーニングに励んでいる。それでも勝てない、勝たせてもらえないのが「ベイブレードX」の世界だ。なぜこんなにも勝たせてもらえないのだろうか?

従来のホビーアニメ主人公像と風見バード

従来の主人公像を振り返ってみると、バトルの才能に恵まれ、基本的には勝利し、時には強大な敵の前に一度は敗北を喫するもパワーアップを経て勝利する、というものだ。
視聴者は基本的に主人公に感情移入する。その中で勝利を味わい、爽快感にしびれ憧れ、「自分もカッコよく戦いたい!」とホビーを購入する、という動線を作るのが販促ホビーアニメの鉄板だ。
ここで「ベイブレードX」は大きく異なる。風見バードの活躍はホビーアニメの定石からはずれ、勝たせることなく次のステップへと進ませている(ように見せかけている)。バード自身の機転の良さもあり、いい線までいくが惜しい結果となることも多い。バードの才能としては、スポーツ万能型で地元ではスカウトをたくさん受けるタイプである一方、日々の鍛錬を重ねるなど努力型であることも示唆されているが、「ベイの才能だけはない」と評されてしまう。努力と希望だけでは勝たせてもらえない、厳しい世界だ。

勝てない主人公に魅力はない?

このようにベイブレードで勝てないバードだが、それは「魅力がない」という答えに直結するだろうか? 答えは否だ。だが、今までのホビーアニメファンからすれば受け入れがたいキャラクターでもあるのも確かだ。
「勝ってこそ主人公」「強さが魅力」というわかりやすくキャッチーなキャラ造形はホビーアニメに限らず浸透している。戦隊やライダーも基本的には勝利するし、勧善懲悪型の物語は勝たなければ意味がない。ここから、「主人公は勝たなければいけない」という物語感覚が養われるのは自然な道かもしれない。だが、物語の形は千差万別で、「主人公が負ける」というものがあっても良い。そういう作品も過去いくつも存在する。しかしホビーアニメでは受け入れがたいだろう物語造形だ。そこに漬物石のごとき一石を投じたのが「ベイブレードX」だった。
そもそも「ベイブレードX」は勧善懲悪型の物語設計をしていない。ホビーで世界の支配をたくらむ悪の結社も存在しない。中核にあるのは「プロスポーツの世界」で、ここには倒すべき悪はおらず、ただ相手と戦うのみだ。勝利は物語の絶対条件ではない。ここで視聴者は、「従来のホビーアニメとは違う物語なんだ」と頭を切り替える必要がある。従来の見方だと、バードはただの弱いプレイヤーでしかなく感情移入の対象にはなりえないだろう。
バードは負けるが、ただ無策に負けるわけではない。勝利を目指して努力し、時には機転を利かせ、相手とぶつかるも負けてしまう・・・と結果だけ見れば敗北しかなくなってしまうが、そこまでのドラマがないわけではない。むしろそこがポイントだ。バードに寄り添うのに必要なのは「ひたむきさ」を見つけることだ。勝利への「ひたむきさ」と、何が欠落しているのかへと近づいていく様子が見所だろう。そして今後重要になるのは「バードが勝てる条件」をクリアすることだ。条件とはいったいなんだろうか。

バードが「勝てる」条件

一度、「なぜバードが勝てないのか」という話になる。
簡単にまとめれば、「自分の『ベイブレード』を持っていないから」だ。これは概念的な話になる。
チームメンバーのエクスとマルチを見てみると、二人とも自分の『ベイブレード』をもっている。エクスであれば「X(見えないもの)」、マルチであれば「マルチプルな戦略と戦術眼」といったところか。他のキャラクターも各々、「これが自分の『ベイブレード』だ」と呼べる「ナニカ」を持っている。それはアニメ表現で言えば4DX演出や「技」などで表されることが多い。バードはそういった表現が少なく、逆説的にオリジナルの「技」が発動した時、バードは勝利に近いところにいる。
自分の『ベイブレード』を持っていないバードが今持っているものは、借り物の「技」やベイブレードだ。Xタワー(プロベイブレード界)の頂上を目指すという目標も、漠然とベイブレーダーが憧れるものを借りているだけで、頂上になにかを見据えているわけではない。
さて、借り物しかないバードが、仮にバトルで勝ったとしよう。その勝利にはどんな意味があるのだろうか? 厳しいプロの世界が作中で描かれてきたが、漫然と彼らに勝ってしまうバード。努力は認められるかもしれないが、それは彼の力ではない。誰かの『ベイブレード』の表層をなぞっているだけに過ぎないのだ。それを主人公の勝利として認めてしまった場合、「ベイブレードX」の勝利はむなしいものに成り下がる。とりあえず努力した、とりあえずバトルした、なんとなく勝った。その程度の勝利になんの意味があるだろう?
バードを勝たせないのは、意地悪でも作者のへそ曲がりでもない。無理なく負けさせ続けることも難しいが、意味なく勝たせることも「ベイブレードX」自体の価値を下げてしまう。「ベイブレードX」の勝利に価値をもたせるための作戦であり、ホビーアニメという定型への反抗であり挑戦だ。「ベイブレードX」とは風見バードという今は何者でもない一人の少年が「勝利」という名の『ベイブレード』を手にする物語なのだ。
ここから考えられる答えは単純で、「バードが勝つ」というのは一つのゴールであり、バードが勝てる条件とは『ベイブレード』を手に入れた時だ。

おわりに

「ベイブレードX」は、しきりに「見えないもの(=X)」を見せようとしてくる。エクスの決めセリフだが、これは作品全体にも言える。
勝利は見えやすく、単純で明快だ。強い者が輝いて見えるのは道理だ。では、その影にいる者は? 勝てないから価値がないのだろうか? そうではない、と「ベイブレードX」は言っている。
バードはこれからも、前述した「勝てる条件」に到達しない限りは負け続けるだろう。しかしそれらの敗北に意味がないわけではない。すべてが積み重なって、いつか自分の『ベイブレード』を手にする時への布石になる。むしろ敗北の数だけ勝利の価値は上がるだろう。
一つの回答がアニメ26話『インビテーション』でも明示されている。バードはチームのために自分は身を引くことを提案し、エクスとマルチはそんなバードをチームメンバーだと受け止める。勝利だけがすべてではない。
視聴者も、バードの敗北を受け止め、勝利だけではない「ベイブレードX」の魅力を脇を締めて探っていくのがよいだろう。見えないもの=Xを探すのも「ベイブレードX」の楽しみ方のひとつだ。

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