6年目のいたずら
※この投稿は4年前のFacebookに投稿した記事のリライトです。
この世界に生きていると私たちは時々、亡くなった人からこんな風にメッセージを受け取ることがある。
自転車で転んでケガをした
2017年12月の頭にちょっと大きな怪我をした。自転車で走行中、自宅から最寄駅へ向かう急な下り坂のカーブで転倒し頭を切った。すごくたくさんの血が流れて、数分の間、意識を失っていた。
近くのマンションの住人や車から降りてきた人たちに救助され、救急車で病院へ行って頭を縫った。
忙しかった11月、あと少しで駆け抜けられるゴールの直前でスケジュールは強制終了となり、しばらく安静の日々がやってきた。
岡山から届いた牡蠣
12月に向けて忙しくなっていく時期だったし、当時のバイトは超繁忙期だった。でも結局、いくつかの予定はキャンセルした。
けっこうひどい出血だったから必然的に貧血になり、できるかぎり栄養のあるものを食べるよう努めた。早く回復するようにと早寝早起きも心がけた。
そんなとき、父の知人から岡山産の牡蠣が大量に届いた。なんというタイミング!牡蠣には多くの鉄や銅、ビタミンB群が含まれているから、まるで自分の鉄不足を補うための贈りものみたいに思えた。
父はそれを牡蠣鍋にして夕飯に出してくれた。
残った牡蠣で作ったオイル漬けもすこぶる美味しかった。
母の本棚から出てきた本
家にいる時間が増えたので、父からの要望もあって、ずっと放置されていた母の本棚の整理にとりかかった。
多くは癌の治療に関する本だったが、他には園芸やベルカント唱法(母はコーラスをやっていた)、画集、詩集、聖書や宗教にちなんだもの、料理本から小説など、その分野は多岐にわたった。
母の小宇宙からそれぞれを手にとって眺めていると、作業はちっともはかどらなかった。
そのとき1冊のカバーのない文庫本を発掘した。
M.F.K. フィッシャー
「オイスターブック」
1900年代半ば、フードライティングの分野で活躍したアメリカの女流作家による、牡蠣にまつわる本だった。
本にはアメリカ産の牡蠣の生い立ちから、世界のあらゆる牡蠣料理のレシピが綴られていた。
中には"牡蠣の中に閉じ込められた小さなカニの食べ方"なんていうのもあった。
著者の牡蠣愛溢れる言葉は、傷心の私をとても豊かな気持ちにしてくれた。
母のいたずら
それにしても、偶然とは思えないタイミングで私のもとにやってきた大量の牡蠣と、牡蠣の本。イタズラ好きな母らしい仕業だ、と思った。
こんな風にして、亡くなった人は時々、生きている私たちにメッセージを送ってくれることがある。
12月27日は母の命日。あれから6年経って、父も姉も姪も私も6つ歳をとった(今は2021年だから、もう10こも歳をとった)。
夕方、家を出たら目の前に大きな大きな雲があった。寒い冬空に美しい夕陽を携えて、まるで見守るように浮かんでいた。
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