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春の恋

「おらイケメンになる!」

3日ほど前、小学校を卒業したばかりの息子が洗面所で叫んだ。

ませた女子にマスクの上からキスされたり、砂場に押し倒されてキスされたり、私を好きにならないなんて気に入らないと定規をへし折られたり、恋愛事情においては圧倒されてばかりのおぼこい息子。
女子から電話があっても「今ゲームしてるから」と言って切ってしまう。
遊ぶのは男子のみ。
イケメンになりたいなんて言葉が出てきた事に驚いた。

「お母の持てる全ての美容に関する知識を俺に教えてくれない?」

次に昨日の晩である。
一体どうした?
中学デビューしたいのか?

「それもそうなんだけど・・・春休み中に告白するんだ、俺!」

母、絶句。

子供とはお魚のようなもの。
追えばふいと逃げてしまう。そっとそっと自然に詳細を聞きだした。

相手とは一緒に試験勉強をした時に初めてちゃんと会話をし、目立たない子だと思っていたけど趣味が合って楽しくて徐々に性格の良さに惚れたのだそうだ。
息子曰く「チンパンジーみたいにギャーギャーうるさい可愛いだけの女子とは全然違う」らしい。
漫画好きの息子と、小説好きの彼女。
なんだその素敵な初恋。

同じ中学に進学するものの、マンモス校のため同じクラスになる確率は低く、忘れられてしまう前に告白したいということだ。

話はよくわかりました。

私の中に様々な感情が湧いてきた。
友達のような親子関係だとは自認していたけど恋愛話はさすがに非公開かと思っていた。
まず、話してくれるんだ。という驚き。嬉しさ。
そして
もう「お母さんが一番好き」じゃないんだ。
という寂しさ。
男の子だし、そうでなければならない。それは出産した時から100%承知している。
だけど、知らないうちにこの子の心の中に告白したいほど好きな子がいたのか、と思うと段々と変わっていく親子の距離感を感じてしんみりするのだった。

そんな思いを一巡して、さてこの初恋をどうしようか?と考える。
せっかく打ち明けてくれたのだから真剣にアドバイスしたい。
まず、彼女との関係性を聞くと告白は余りにも唐突な気がした。

「好きという気持ちは、ばっち来い!と構えていない限り大抵の人は受け取れずびっくりして困るものだよ。だから次会う時に告白するのはやめておきなさい。」

驚く息子。「でも俺には時間がないんや!」

「焦らず、せっかく相性が良さそうな子なんだからまずはLINEを交換することを目標としなさい。話はそっからだ。」

驚く息子。「LINEで告白するってこと?」

「それはやめておけ。スクショで晒される。その子がいい子でも、何があるかはわからない。『好き』も『悪口』もLINEではやめなさい。」

納得する息子。「そしたらLINEで何話すの?」

「その子の好きな小説を教えてもらったり、オススメの漫画を教えてみたりして今より仲良くなれたら、今度またみんなで遊びに行こうって誘うのよ。告白するならその時よ。」

前向きに検討を始める息子。「俺を応援するグループチャットが出来てるから作戦変更って伝えるわ。」

大変建設的な作戦会議だった。

ところで息子は告白して、どうしたいんだろう。
息子がその子にしてあげられることなんて一つもないのに。
そうか、ただ好きなのか。
好きだから好きって言いたいのか。
大人の恋とは違ってなんてシンプルなんだろう。

私もまた恋愛しようかな、春だし。












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