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存在は眠り、踊る。

在宅勤務の朝。
息子を送り出してから朝食を食べ、掃除機をかけてひと息ついた頃に三毛猫のマコちゃんが自分のベッドでうとうとしている姿が目に入った。

外からマンションの管理人が箒を履く音が聞こえる。柔らかいベッドに柔らかい体を沈み込ませてゆっくり目を閉じていく。

それを見つめていると、昨晩買い物に行ったドラッグストアで軽快なステップを踏み踊る息子の姿を思い出した。

楽しみにしていた中学校生活が始まった息子はここ1週間ずっと浮かない表情をしている。
小学校の頃の友達とただの1人も同じクラスになれなかったのだ。
あの手この手でフォローしているけれど今のところ苦戦しているようで、こちらも毎日が心配で祈るような気持ちで過ごしている。

そのような状況の息子と仕事終わりにドラッグストアに買い物に行った。
その店は以前はスーパーだった。近所で狭いながらも面白い品揃えで私のお気に入りだったが半年ほど前に急に閉店し、ピッカピカのドラッグストアになった。
蛍光灯に照らされ「圧倒的な品揃え!!!」と合唱しながら店作りしたような気合の入った店内。
息子の好きなグミもお菓子コーナーの一面を飾っている。

グミを買いに来たのではないのだ。
文房具まで豊富なこの店に、我々はノートを探しに来たのだ。
そのはずなのに息子は文房具コーナーを通り過ぎ、お菓子コーナーへ吸い寄せられていく。
何をしに来たのか。
すっかり呆れていると、どこのドラッグストアにも流れているような軽薄なBGMが流れ始め、息子は当然のように踊り始めた。
軽快なステップを踏んでいる。

何も考えていない。
ふかふかのベッドでうとうとしているマコちゃんも、買い物の目的を忘れ踊る息子も、何も考えていない。

この2人の様子が私の胸を打つのは何故だろう。

意味がないな、と思う。
それに意味なんかいらないんだな、とも思う。
生まれたから、生きている。
色々あるけど縁あってここでこうして生きている。
今は重なり合っているけどすぐに消えて無くなるこの時間をただ生きている。

「ド〜ラックイレ〜ブン〜!」だし、
「ドンドンドン ドンキ〜 ドンキ〜ホ〜テ〜!」なのだ。

無意味で、切実なのだ。



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