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会社の名前が生まれた日

note移設記念として、ちょっとお題に取り組んでみようかなと思う。
「#名前の由来」このお題に。

会社の名前、Bit Beansといいます。
この名前ができたのは2003年の6月。そうだ、当時わたしは30歳だった。
あの日のことはまだ記憶に鮮明に残っている。
暗くて、窮屈で、湿気を感じて、叫びたいような泣きたいような空気感。

わたしと2人…3人で会社を立ち上げたのは、前身となる組織が立ち行かなくなったことが理由にあった。
辞めるにあたってはなんだかややこしい人間関係や、なんだかややこしい事情が複雑に絡み合っていて、足にも心にもべっとりと何か濁ったものが絡みつくような状況で、その日は朝から「今日会社の名前を決めなくちゃ」って話をしていたのに、3人が集まれたのは終電がなくなりそうな時間だった。

少し雨の降る西日暮里の暗いガード下。
ゆっくりと歩きながら、

「今日決めなくちゃだよ」
「わかってるよ」
「やっと集まれた」
「空いてる店さがそう」

そうして1つだけみつけたファミレス(あれはなんていうファミレスだったのかな)は、人の気配がなくて寂れていて、安っぽくて、少しじめっとしていた。
少なくとも私の記憶の中では。
当時はかなり精神的に追い詰められていたから、もしかしたらすごく明るくて綺麗なファミレスだったのかもしれないけれど、とにかくその時は自分がすごく小さくみじめなものに感じられて、そんな中で新しい名前を生み出さなくちゃいけないことは、ものすごいプレッシャーだった。

「アリキックでいいじゃん」
「なにそれ」
「もう、デムラマツリでいいよ」
「…ふざけないでよ」

1時間、2時間、アイデアを出しても出してもなんだかしっくりくるものが出てこない。でもそれでも終電逃しても考えていたのは、妥協はできないとみんなが思っていたからだ。それはわかっていた。
しかし、この暗くてじめっとしたところからどうやってそれが出てくるのか。朝になる前に決めなくてはいけないのに。

「そうだ、Beansをつけたらって言われてるんだ」
「ああそうだったね」
「BEAMSみたいに英語5文字だとロゴにしたときかっこいいかな」
「でもBEANSだとちょっと普通すぎるよね」
「オリジナリティほしいよ」
「うん」
「なんかくっつけるか」

ヤングビーンズ、いやないない。
レッドビーンズ、なにそれ野菜みたい。
ビーンズラボ、違う、豆つくるわけじゃないし。
うーん、ビーンズ・・・

ビーンズしばりでも容赦無く時間が過ぎて行って、だんだんと体力も奪われていき、焦りもピークだった。
わたしたち、もうこの暗い場所から這い上がれないんじゃないか。
始めることすら、できないんじゃないか。

そんなときに

「Bit Beansは?」

パーンと何かが弾けたような感覚があった。

「Bit はコンピューターの最小単位だし、俺たちWEBやるわけだしいいと思うんだよね」

ポンと空気を割いて浮かびあがったその言葉には光があった。
ーでも、Bit Beansって他に有名なところあったりしない?
ーBit Beansって言葉としておかしくない?
今まさに鳥籠に入れた「Bit Beans」は、本当にわたしたちの名前となりうるのか。するりと抜けてどこかに飛んでいってしまうんじゃないかって怖くて、恐る恐る「Bit Beans」を手に取って、お願いわたしたちの鳥になってくれって祈るような気持ちで問うて。

「だいじょうぶだと、思う」
「小さな可能性が詰まっている豆、Bitを扱う豆」
「わるくない」
「これにしよう!」

そうして私たちは外に出た。
明るくなりかけた空気の中、朝焼けは暗いガード下も照らしていて、帰り道はなんだか景色が違って見えた。

Bit Beans、言葉に勢いがあって明るい。
しなやかな強さがあって、多くに開かれた印象。
わたしはこの名前を、とても気に入っているんだ。

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