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『なんで僕に聞くんだろう。』-聞いているのは誰だろう

幡野広志さんによる毎週月曜更新の人生相談コラム、それが書籍化されたものです。
わたしがこの連載を知ったのは、「相談者は読まないほうがいい」回によってでした。つまり結構最近だ。
ウワッ……なにこれスゴッ……となったので、それ以来毎週読んでいる。毎週「ウワッ」「スゴッ」となっている。紙の本になるのをめちゃくちゃ楽しみにしていて、出るなり買った。
「出るなり」と言っても我が居住域は書籍の発売日が東京より2日遅れるので、2日遅れの「出るなり」ですけどぉ……(この毎回の恨み節そろそろもう飽きたんじゃない?)
アマゾンで注文すれば東京発売日当日に届くというのはもう知っているんですけど、わたしはこの町の本屋さんを延命させたいので本屋さんに行って紙の本を買うのです。「こういうコラムを電子データで終わらせず紙の本にしようと考えるひと」の命も繋ぎたいからです。

さて前述のとおり当コラムを知ったのが結構最近なので、本を開いてみると知らない相談と回答がいっぱいでした、ハッピ~。今更こういう新鮮な喜びを得られるのが、にわかマンの良いところ。
そして、正直言うと「おわりに」が一番良くて、このあとがきだけで買った価値あったな……! と思いました。このあとがきで「良さ」「スゴ」の理由がちょっと理解できた気がした。
幡野さんは相談者の思いを本当にじっくり「聞こう」としているんですね。
この連載コラムのタイトルは「なんで僕に聞くんだろう。」だけど、本当に「聞いている」のって、相談者じゃなくて幡野さんの方なんじゃん……! 相談者は「言いたい人」だ、その心を本当に聞こうとしているのは幡野さんの方だ……!
こんなにも相談者の言葉をじっくり聞いて分析して、相談者本人すら掴みかねている本当の欲望をさらっと掬い上げる(あるいは救いあげる)人いる?
いやこれタイトル「なんで僕に言うんだろう。」の方が実態に合っているのでは!?

つまり、幡野さんのすごいところって、「相談者に何を言うか」よりも「相談者から何を聞くか」なんだなと、ようやく気付いたんですよ。
いや本当にすごい、こんなにも深く相手の心に分け入っていけるのに、幡野さんご自身は心の健康を静かに保っているようなところが、一層すごい。引きずられたりしないのかな。
「突き放し方」が絶妙に巧いから、大丈夫なのかな。
幡野さんの語り口って、受容と突き放しが絶妙のブレンドで、とても心地良い。難しい表現はなくて、ふと笑っちゃうようなお茶目な冗談があったりして、結構厳しいこととかも同時に言ってるはずなのに人を拒まない。
距離感の保ち方がすごい。

それと、答えながら自分自身が揺らがないだけの地盤も必要だなと思う。
幡野さんは回答の中でよく息子さんや奥さんのことを話すけど、そういうのを読むと、幡野さんには「大切なもの」が揺るがずにあるということ、その「大切」のためにご自身が決めたスタンス・行動原理があってただそれに従って発言をしているということが、感じ取れるんですよ。
柔軟に風にそよぐけど、根っこを深く広く張ってある植物みたいだ。

こういうスタンスで相談に答えたい。
直前にわたしもひとつ「相談」に答えていたので、この本を読んでいる間中ずっと、相談者よりも幡野さんの方にばかり気持ちが寄ってしまった。回答者としての立ち位置、その位置取りが、本当にすごいと分かったので。

これがつい最近浅木が受け取った「人生相談」と、わたしの答え。
わたしは匿名メッセージボックス「マシュマロ」を設置していて、そこに普段は浅木の些細なツイートだの作成物だのに対するホンワカコメントが投げ入れられてるだけなんだけど、たまにこういう相談がある。
相談の相手に選んでもらえるというそれ自体がわたしにとってはすごく嬉しいので、必死にお返事文章をコネコネするんですよ。

こっちは初めて「人生相談マシュマロ」に対して長文レスをしたとき。浅木、めちゃ必死。よく喋る。
今のわたしが読み返してようやくそれと分かるけど、たぶんわたしは相談者より自分自身が「言いたい人」になっちゃってるんだよ。
もっと「聞く人」になりたい。

もうしばらくこの本をじっくり読み返して、幡野さんの言葉のつかい方と耳のつかい方をこの身にも染み込ませたい。


そういえばカバー裏表紙の写真がめちゃくちゃ好きです。
プール……に浮かぶ桜の花びら……? とその影? きれい。
特に濃い青緑色の影が好き、こんな色と形のモワモワ影になるんだな。
この柄のふわふわスカート欲しい。
もしくはでっかくプリントして額装して壁にかけたい、不思議な “窓” ができそう。



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