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『自転車屋さんの高橋くん』 -やさしさのリアリティ

ふと出会った本でしたがこんなにも心に根を張られるとは思わなかった、今日はもう一日ずっとこの本のことを考えていました(仕事をしろ)
帯や裏表紙の説明によると「心優しいガテン系激甘年下ヤンキー×人付き合い苦手恋愛初心者アラサー女子」の恋愛模様なわけです。なんとキャッチーな!
なんかもう女子の夢を詰め込んだかのような……女子こういうの好きでしょ系要素のバラエティーパック……てんこ盛りじゃん……? まあ素直に好きなんですけども……
実際、高橋遼平くんはめちゃんこ格好良くてちょっと怖いけど優しいしグイグイくるし、ついでに言うとバリバリの方言を喋るのもめちゃ良いし、最高に女子の夢詰め込まれ男子なわけです。ありがとよ、現代社会に疲れた女に良い夢見させてくれてよォ……
でもそれだけじゃやっぱりこんなにも読者の心を掴むわけなくて、「ふわふわ夢の世界」ではないちゃんと地に足のついた優しさの描写があるからこそ真に身に迫るんですよね。

わたしが「あっ……すごい……」と気付いたのは、1巻の書き下ろし小話ですね。オタク・テルちゃんと、ヤンキー・りょーくんの出会い。
高橋くんはアニメキャラ「草野かすみちゃん」のことを「ちょっとイラっとすんな ウジウジしすぎやろ」と言う。それに対して三輪くんは「かすみちゃんは自分が一人じゃないってことに気付いてないだけなんです!」とオタク全開で擁護するんですよね。
そして高橋くんはそんなよく喋るオタクをキモがらずに「かすみちゃんはそういう子か、そして三輪はかすみちゃんの理解者なのか」て受け止めることができるすでに良いヤツなんですけど、それはともかくこのおまけ小話により、ああそうか、こういう会話を交わした少年たちが大人になって、今ともちゃんに優しく接してくれてるんだな!? て気付くんですよね。
あのアニメ内台詞や三輪くんのオタク節をじっくり読むと、この草野かすみちゃん、完全に飯野朋子なんですね。ぜんぶ自分が悪くて、親の不幸も自分のせいで、自分は居場所がなくて自分は一人で……ってウジウジしてる子でしょう、かすみちゃんも、ともちゃんも。スタンス完全一致。
そんなともちゃんに遼平くんが今「イラっとする」ではない対応をしているということ。
つまり、かすみちゃんを擁護した三輪くんと同じ思考が今の遼平くんはできているということ。かつて三輪くんの示した「優しさと理解」を、遼平くんがちゃんと学んで身につけて実践しているということ。
遼平くんッッッ!!! なんて良いヤツなんだ高橋遼平くん!

いやしかし高橋遼平……やさしさの発露がとても良いな……ふとした一言がめちゃ良いんだよな……それを彼自身は「やさしさ」だと認識してなさそうなところもめっちゃくちゃ良いんだよな……!
わたしは2巻で事故により服の前面にホットコーヒーぶっかけられてしまった彼の第一声「あったけー」に悶えました、この天然のやさしさよ!? 即座に相手の首元掴んで「どうしてくれるんじゃ」て言いそうな顔とファッションしといてお前……あったけーって……
いやもう好きな彼の台詞挙げてったらきりがないんですけど、「目ぇキラキラしとるな」「泣いとったん?」、これピカイチに好きですね。相手が泣いていたかどうかという問いの前のワンクッションが「目がキラキラしている」である、なんだお前……おい……詩人になれ……
あとともちゃんが彼に助けを求めて電話して「ホント無理だと思うから」「その…」「フツーに断ってくれていいんだけど」って言いかける「その…」の時点で内容も聞かずすでに車のキー掴んでる高橋遼平、あまりに良い男で震える。

高橋遼平はそういうわけで最高なんですけど、もちろん飯野朋子ちゃんもすごく良いです。
いや基本「守ってあげたい女の子」テンプレ感はあるんですけど、料理上手でドジっ子で控えめで意外と胸がデカイというこっちはこっちで男の夢詰め込み福袋って感じの女の子ですけど、遼平くん同様に彼女もふとした瞬間の描写のリアリティに心奪われるんだよな。
たまに口調が雑になるのとか。つまらない映画のこと「クソ観たくないの」とか言っちゃうし、漫画のグッズを「どちゃくそかわいい~」とか考えるし、基本独り言が全部可愛くて面白い。
そして食べ物を美味しそうに食べる顔すっごく可愛いね。よく食べる女の子はとても良いです。ともちゃん好き。

あとちょっと気になってるのは山本氏だな……
いやあ……彼、どうなんだ? でも分かるんですよ、彼は本当に何の悪気もないんですよね。どの行動、どの発言も、彼は何の疑いもなく「良いこと」「別にしても良いこと」だと思ってやってる。
今まで要領よく多数決の多数側に居続けられた人だなって感じ。世間一般の認識と自分の認識がズレたことが一度もないような人間だ。マイノリティの存在すら知らないような人間だ。
でもそれは、なんというか、彼自身の薄っぺらさというか、彼の人間関係の薄っぺらさも感じてしまうので、わたしは山本くんを可哀想だなとは思うけど、嫌いにはなれないような気がする。
たとえば映画館で観賞中にスマホを見ることとか。それを「やめろ」と叱ってくれる人が彼にはいなかったんですね。
ともちゃんのお母さんも遼平くんの話だけ聞いたときは「何その人」「まともな人と付き合いなさいよ」と言ったけど、実際に会ったらその認識や態度を改めた。山本くんにもそういうブレイクスルーが発生してほしい……

本当に各方面がとても良いので永遠に読んでいたい漫画ですこれは。

ところで内容と無関係ですがこの本とわたくしとの出会いを書き残しておいていいですか。
月曜日、自転車20分かけて通ういつもの本屋さんの新刊台に、2巻が積まれているのに気付きました。
なんとなく気になって、試しに1巻買ってみようかな~と思って探したんですよ。それがまあ見つからない。目を皿のようにして棚を眺め、店内検索機で在庫ありを確認して地図も印刷して、めちゃくちゃ探した。いやなんでこんなにムキになって探してんの? 内容も評判も作者も何ひとつ知らない・分からないマンガを?
あと3分探して見つからなければ店員さんに頼ろう……と思った1分後にやっと見つけた。店内の本当に一番隅の棚に1冊置いてあった。ウワ~ッあった~! ヤッター!
そして1巻だけ買って帰りました。
で、家で読んだらメチャ・サイコウ・マンガブックでした、あれだけ執着して探したわたしのセンサーは完璧に正確だったし、同時に2巻もあわせて買わなかったわたしの判断力はクソザコだったというワケ。
(ちなみにこの時点でネット検索しまくり、同人版がBOOTHで販売されていることを知り、即座に購入手続きをした)(現在は在庫なしになっている、ギリセーフ。今度こそ正しい判断力を発揮したぞ)
翌日火曜日、よし今日は2巻を買いに行くぞ! と思ったものの小雨っぽくて、徒歩20分のところにある別の本屋さんに行く。普段行かないので在庫や陳列の勝手が掴めませんが、まあ新刊だしあるでしょう。
と思ったが、なんと無かったんですよ。えっマジで? この22日に発売された新刊ですよ? まためちゃくちゃ探した。2日連続で本屋内の棚をひたすら睨んでカニ歩きする女。そうだったこの本屋さんは品揃えがいまひとつなんだった、だから近いけど普段来ないんだった……
この日のうちに2巻を入手したければ、ここからまた20分歩いて帰宅して、そこからカッパを着て自転車で20分かけていつもの本屋さんに行くという手段はあったんですがさすがにそこまでの元気がなかったので諦めた。かなしい。
ちなみにアマゾンにはあるのか? と確認したが無かった。めちゃキンドル推しだった。わたしは紙の単行本が欲しいんです、サヨナラ……
というわけで本日水曜、いつもの本屋さんに行って月曜日に見た出会いの2巻をようやく我が手中におさめたわけです、長く苦しい戦いだった。ハッピーエンド。
みんなも買うときは既刊いっぺんに買った方が良い。「試しに1巻」とか言ってると確実に二度手間が発生します。この1巻を読んで2巻を買わずにいられる人間がいるとは思えない。必ず既刊ぜんぶ買え。



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