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2022年度・共通テスト生物分析[確定版]

《全体講評》


●全問必須問題で,大問数は6つ。第2問はA・Bに分かれていてほぼ2大問分あるので,実質7大問である。配点は大問毎に異なっている。
●昨年度の共通テスト同様に,
 ・教科書の章割りにあわせない
 ・分野毎ではなく分野横断的な出題
 ・大問の配点はバラバラ
であった。
●去年よりは分野横断感は弱い。分野としては,第1問:進化,第2問A:生態系,B:遺伝子,第3問:発生+遺伝子,第4問:動物の行動,第5問:植物の発生と形態形成,第6問:植物の発生・植物ホルモンである。総合問題の印象はかなり薄い。
●冒頭から「進化・生態系」推しの出題は,今の受験生には全く関係がない次の学習指導要領を意識したものであろう。さもなくば,多くの受験生に対する嫌がらせであろう(進化は学習して間もない分野,また進度の遅い学校では超特急で終わらせる分野)。
●表やグラフのデータはシンプルなものばかりで読み取りに苦労するものはほぼなかったが,問題文のボリュームが多く,しかも内容を丁寧に追跡できないと解答できない問題が多かった。生物の知識なくても読めば解ける問題(いわゆる「国語の問題」)は批判が集まるので少ない。とにかく読むのに苦労する。長い文章を根気よく読む経験をしてこなかった受験生にとっては厳しい。
●細胞や代謝・神経の出題が全くない。代謝に関してはほぼ話題にも上がってない。呼吸は去年も出題がない。生態系についてもほぼかすっている程度である。一方で植物の発生がらみで2大問。これだけ出題分野に偏りが大きいことを出題者は気にとめないのだろうか。
●昨年度は異様に平均点が高かったので平均点を低くするために,直前講習『共通テスト生物★冬の完遂2022』などでも話したように知識問題がやや厳しくなった。
●設問数は28で,ここ3年で30→27→28となり,昨年よりも1つ増えたが,実はほぼ横ばいである。ページ数は31ページと昨年と同じである。解答時間は去年よりはゆとりがないが,十分であったと思う。
●連続してマークする問題はマークミスを誘発するからやめれや!と,センター試験の頃から何度も指摘されているにも関わらず,今年も[1]から[28]まで連続してマークする形式になった。大学入試センターはアホである。
●配点5点の設問はない。中間点を与える問題があった(2問)。
●昨年より分野別の出題が多かったので,1つの大問であっちやこっちに頭が行く問題がない点は解きやすかったと思うが,文章読み解きパズルみたいな面倒さがあるため,昨年度よりも平均点はかなり下がると思われるが,55点前後ではないかと思う。(実際は48.81点)

《大問分析》


★は点の取りにくかったと思われる問題。▲はちょっと出来の悪そうな問題。

第1問 【テーマ・霊長類の系統分類/分野・進化,系統分類】 難易度[やや難]
 いきなり進化からスタート。どんな総合問題かと思いきや,シンプルに進化分野の問題。
問1★ 単純な知識問題だが,ヒトの進化に関する知識は盲点的である。教科書的ではあるが,初っぱなからこの問題でガツンとやられた人は少なくないと思われる。拇指対向性は樹上生活に伴って発達したとされる。眼が前方についているのはヒトだけの特徴ではない。
問2 表1から,アミノ酸配列が最も類似しているのがゴリラとチンパンジーから,解答は①と③に絞れる。チンパンジーから見て,ゴリラ,オランウータン,ニホンザルの順にアミノ酸配列の相同性が低くなるので,③が正解。①ならばオランウータンとニホンザルの相同性が高いはず。難しい問題ではないが,手慣れているかどうか。
問3★チンパンジーとオランウータンのアミノ酸配列の違いが1.93%で,各々で約1%の配列の変化が1300万年で生じた。ここから,ヒトとチンパンジー間が600万年前に分岐したならば,各々で約0.5%の配列の変化がおこり,互いに約1%程度の配列の違いが生じると考えられる(ここまで概算)。Ⅰ・Ⅲなら実測値の値が高くなるので誤り。一方が正解で1点,両方で4点という配点は問題内容に比べて低すぎる。

第2問 【テーマ・植物の病原体に対する応答/分野・外来生物,遺伝子組換え】 難易度[やや難]
 植物の感染症を題材としているが,植物免疫の話にはならず,単なるデータ解釈と遺伝子組換えに関するかなり無理矢理な融合問題。
A 
問1★A全体で2000個,B全体で200個の種子を作ることと,選択肢からデータをていねいに読み解けば答えが出るパズル問題なのだが,そもそも設問の意図がくみ取れなかったかもしれない。⑤ではB株で種子が作れず,①~③では全体の種子数が著しく多くなってしまう。
問2▲健全区のグラフではAの成長がよいことから,感染がない状態ではAはBとの競争に勝ち,感染がある状態ではAの個体数が減少してBが生存に有利になることは読み取りやすいと思う。見かけよりは易しい問題だが,A自体が最初から手がつかなかったかもしれない。
B
問3 これは基本的な知識問題。
問4 実験の注意点は実験問題の知識問題として当たり前に日頃から確認しておきたい。基本的。
問5▲遺伝子発現のしくみに関する基本的な知識問題で,パズルの要素が高い。
問6 ヘテロ接合で遺伝子が染色体上に挿入されていることが明記されているので,基本的な問題。

第3問 【テーマ・動物の形態形成/発生と遺伝子】 難易度[やや難]
 みんなが苦手な発生分野で,「Hox遺伝子」とくれば,しっかり萎える問題。
問1★Hox遺伝子については教科書に掲載されているが,発生分野は前半でくじけてしまう人が多いと思われるので,そもそも壊滅状態かもしれない。選択肢の内容吟味もかなり厳しい。
問2▲3つの個別の実験から結論づけをする問題は2000年代のセンター試験ではよく見られたが,共通テストで復活している。問題文から,肢芽には表皮と側板由来の細胞(=中胚葉の細胞)が含まれていること,肢芽の形成はHox遺伝子がどの体節で働くかによって決まること(ミハルの発言)が描かれている点に注意。実験1で肢芽の伸長には表皮が関わることを,実験2ではWが肢芽の形成を促進することを,実験3ではXやYが翼や脚の形成の方向づけをすることがわかる。
問3 これは解答しやすいと思う。
問4 これも実験の注意点に関する問題。分裂する細胞では細胞分裂に先立ってDNAの複製が行われることから,チミンヌクレオチドが複製時にDNAに取り込まれる。細胞周期の問題でもよく見かける。
問5▲問2と関連する問題。わき腹の体節細胞を除去すると肢芽の形成が抑制できなくなる,という主旨が把握できれば答えられるが,実験の全体内容がとらえられていないと正解できないだろう。

第4問 【テーマ・アリと道しるべフェロモン/分野・動物の行動】 難易度[やや難]
 昨年に続き行動が主たるテーマの問題だが,フェロモンについては現行学習指導要領では取り扱いが簡素で,かつ,センター試験や共通テストだけでなく国公立私大入試でも近年出題が減少していることから,問題を見て驚いたかもしれない。
問1▲単純なデータの読み取り,言い換えで選ぶ選択肢で,センター試験や共通テストでおなじみの形式。とはいえ,正解率は高くなさそうである。
問2▲実験2は距離に関係なく,フェロモンが道しるべのはたらきをしているという単純なデータだが,[エ]の「正のフィードバック」についてきちんと認識できているかどうかがカギとなる。
問3★フェロモンに関する知識問題は,今の時代かなり厳しいと言わざるを得ない。本設問はなんとなく選べてしまいそうではあるが。

第5問 【テーマ・被子植物の組織と発生,昆虫の感覚と行動/分野・系統分類,減数分裂,動物の行動,細胞間情報伝達】 難易度[やや難]
 共通テストを象徴する総合問題形式が破綻した問題。「とってつけたような問題文に適当に下線部が引いてはあるが,設問は相互に関係しない小問集合的なもの」を総合問題としないとこが去年は各方面から褒められたが,そもそも無理がある。
問1▲被子植物の特徴に関する基本的な問題だが,植物は苦手な人が多いので正答率は高くないと思われる。植物の系統分類まで手が回っている人がどのくらいいるだろう…。
問2★配偶子の種類数を求める比較的典型的な問題。これまでこのような問題集にありがちな計算問題は回避される傾向にあったので意外である。[ア]と[イ]の区別は駿台のテキストではおなじみのテーマなのだが,できなかった人が多いのではないか。[イ]については「二重乗換え」を考慮する必要があり,本来は学習指導要領で扱わないとされる内容である。
問3 R8から放出される物質Yと,R7の受容体Xの関係を調べる問題で,明らかに⑤が異質で選びやすい。
問4 変異体YはR7が分化しないことは問3の設問文に示されている。変異体Yを欠くと紫外線が認識できなくなるが,可視光は認識して移動する。⒠はYの紫外線のみ照射した実験と,⒡はR7がなくてもYは可視光側に移動することに矛盾する。比較的選びやすい。

第6問 【テーマ・イネの発生と環境要因/分野・被子植物の発生,植物ホルモン】 難易度[標準]
 イネに関連した総合問題形式だが,これも小問集合的な感じがする。データ解釈,問題文読解,そしてまた実験と非常にボリュームが多いので,最後にこの問題は厳しい。全体を見渡してから解答始める習慣づけが必要か。
問1▲植物の発生がここでも登場。これも知識問題の内容がやや細かい。
問2 表1とグラフを照らし合わせて判断する問題で,比較的平易。
問3 「気温が極端に下がる時は,水田に水を入れる」という作業は稲作ではかなり有名なことで,農家の方々が日々苦労されてお米を作っている具体例である。⑤が明らかに設問趣旨に反する。
問4 実験の問題文に示された内容を読み替えて解答する問題で,比較的平易。
問5 低温に対する適応にモル凝固点降下を利用する現象は,植物のみならず昆虫などでも有名。①最初に低温にさらしてしまうと枯死してしまう。

《来年度への展望》

 共通テストへの対策として,結局はいつも通りの「教科書の知識の完全理解」と「過去問の徹底研究」に尽きる。それしかありません。丁寧な日常学習がまずは大切で,その定着度を知る上で過去問の解答は重要となる。
 本年の問題は出題者全員が去年の平均点の異様な高さをよってたかって一生懸命下げたら,こんな感じにやらかしてしまいましたぁ~テヘペロ(死語)だったので,2023年度はあまり不安に思わないでほしい。出題者には猛省してもらいたい。
 知識問題は細かすぎ,データ解釈の問題多すぎ,文章長すぎ,という状況で教科書と過去問だけでどうにかなるんだろうか?という不安な気持ちに,「そもそも教科書の内容だって理解できてないじゃないか!」と言いたい。教科書の内容が理解できていないと,今年のような問題文を限られた時間で正確に読み取って解答することができない。知識問題も曖昧な理解では太刀打ちできない。これまでの中学・高校入試式の幼稚な作業からの脱却しなければならないことを改めて認識してほしい。一問一答形式の問題反復とか,穴埋めプリントの正解合わせみたいな,勉強とは全然かけ離れたことはやめてほしい。用語の定義を覚えるのは問題文や設問文を正確に読むために必要なことで,生命現象の理解は問題の背景にある事柄を見いだすことである。点数に直接結びつかないようでも,日々の当たり前な生命現象の理解と,何気ない生命現象に対する疑問を解決することが重要である(この辺は去年のコピペ。大事なことなので主張は変わりません)。
 高校の先生方にもお願いしたいのは,「センター試験」の過去問を徹底的に分析すること。時間制限を設けて生徒に過去問を解かせて,解答を配って終わりにするなら,先生が教壇にいなくてもよい。先生自身が教壇に立って話をする意味を考えてほしい。問題を入り口に広大な生命現象の理解の世界に導くことが,日常学習を大学入試に直結させる近道なのだから(ここも去年のコピペ)。
 

そんなわけで,共通テスト対策は是非とも,

駿台夏期講習『共通テスト生物★夏の格闘2023』
直前講習『共通テスト生物★冬の完遂2023』

へどうぞ。(広告)


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