2021年度・共通テスト生物分析[暫定版]

《全体講評》

●全問必須問題で,大問数は6つ。ただし,第5・6問はA・Bに分かれていてほぼ2大問分あるので,実質8大問という感じである。配点は大問毎に異なっている。
●昨年度までのセンター試験との差別化が明確にするために,
 ・教科書の章割りにあわせて出題しない
 ・分野毎の出題にせず,融合問題が中心となる
 ・大問の配点は一定にしない
という第2回の試行調査を踏襲した出題だった。というか,「センター試験じゃないんです!共通テストです!」ということを言うために作成した試験問題とも言えるのではないだろうか。というのは,センター試験の時にすでに詰め込み知識を要求する試験ではなかったのに,「マーク式は詰め込み知識が試されるから,今の若者に足りない思考力や判断力を養うために大学入試を変えることは不可欠で,そして我々のポケットに多額の利益が入るよう…(略)」というクソ連中の無理筋な注文に,文科省ががんはってくれなくて「へいへい,旦那の言うとおりにしまっせ。へへへ」なんかの帳尻合わせをするための出題。「共通テストはセンター試験と違うんだもん!」と涙目で訴えるかのごとくの出題ですよ,これ。
 第2回の試行調査で平均点がかなり低く,選抜を目的とした試験で平均点が低くすぎるのはよくないので,知識問題が従来通りに含まれるのではないかと予想したが,その通りに知識問題は消えることはなかった。ただ,知識問題自体は若干少なめである。
 知識問題がある程度出題されると,ほどほどの勉強をしていた人でもそこそこの点数がとれるが,分野融合の総合問題となると断片的な知識では到底太刀打ちができないので,「生物は入試が難しい」という評判になって選択者が減るだろうねぇ。こういうのは国公立大の個別試験でやればいいのに,どうしてこうもまた隷従して難解な入試問題にしてしまうんだろうなぁ。
●各問題とも出題分野が際立っていないので,「ふわっとした総合問題」の印象が強いが,なんなとく勉強してるだけでは正解率は低いのではないか。
●かつて批判の的になった「読めば解ける問題=(いわゆる)国語の問題」が著しく増加した。生物用語の定義や生命現象が的確に理解されていれば,データを読み取って選択肢の意味がとれると正解できる。高校生物をきちんと理解しているとさほど難しくないのはセンター試験と同じ路線。決してコウサツ問題が難しいとか,そういう話ではない。共通テストはコウサツ問題増加した云々かんぬん言う人とは仲良くなれない(そもそも仲良くしてないけど)。
●分析すると幅広い分野から出題されている。呼吸からの出題がここ数年なく,今年もほぼなかった。遺伝子分野についても個別の現象のしくみについては問われていない。遺伝計算の問題も出題されなかった。系統分類についても出題がなかった。前半は,進化分野と生態系分野に関する考え方が底流にある問題で,この分野は高校での進度が遅く適切な学習ができないままに苦手とする人が多いので,いきなりこれらの問題から始まって頭をガツンとやられた人が多かったかもしれない。
●実験問題やデータ分析問題は,「国語の問題」が多くなり,実はかなり平易で答えやすい。試行調査の結果を受けてこのレベルに調整したのではないだろうか。
●設問数は26で,ここ3年で26→30→26となり,昨年よりも減少したが,実はほぼ横ばいである。解答数が大きく減って27と減少したのは,知識問題が減ったことによる。ページ数も31ページは昨年よりも減っている(選択問題があったことを差し引いても)。解答時間は十分であったと思う。
●大問数は6だったが,前述通り,第5問と第6問はA・Bに分割されているので,実質8大問である。第5問は植物で1テーマ,第6問は眼で1テーマだ,というならば,第2問と第3問は1つにしてよいだろう。不可解な大問構成であった。
●連続してマークする問題はマークミスを誘発するからやめれや!と,センター試験の頃から何度も指摘されているにも関わらず,[1]から[27]まで連続してマークする形式になった。大学入試センターはアホじゃなかろうか。
●配点5点の設問があったが,過不足なく選ぶ問題で,中間点(2点)が与えられたのはよいと思う。
●生物のことをよく理解している人にしてみれば拍子抜けな感じで高得点が期待できそうだけれども,従来通りの分野別に問題を解いていただけの人はかなり苦戦したのではないかと思う。ただ,設問数や配点にはかなり配慮があったと思うので,平均点は60点程度かなと思う。

《大問分析》

★は点の取りにくかったと思われる問題。▲はちょっと出来の悪そうな問題。

第1問 【テーマ・乳糖不耐性/分野・膜輸送,集団遺伝,遺伝子発現調節,SNP】 難易度[標準]
 一瞬,去年も出題されたラクトースオペロンかと思いきや,乳糖不耐性をモチーフとした総合問題。乳糖不耐性は,レギュラー授業で扱った。
問1★ 教科書では扱いの乏しい「浸透圧」をしれっと出題してきた。日頃から「塩類濃度」とか甘ったるいこと言ってないで,理系は黙って浸透圧学べや!と言ってきたので,問題ないはず。[ア]「濃度にかかわらず」輸送するのは能動輸送の特徴。定義からきちんと学んでおくことが肝心。濃度差に逆らう=能動輸送と覚えていた人には冒頭から鉄槌の問題。[イ]発酵で乳糖から何の気体が生じるかについては教科書にない。ただ,酸素が発生するはずはないから二酸化炭素を選べ,というのではお粗末な問題。
問2 集団遺伝の基本的な問題。ハーディ・ワインベルクの法則が成立しているので,これは難しくないはず。
問3 遺伝子発現や調節などに関する基本的な知識問題。平易。
問4▲実験2から,L有の塩基配列がT,L無の塩基配列がCと読み取れる。実験3からはCがもともとの配列で,突然変異で生じたTがおそらくヨーロッパで生じて広まったと考えられる。第1回の試行調査に似た問題があった。正解を選ぶのは難しくない。

第2問 【テーマ・外来生物移入の影響/分野・外来生物,個体群,ニッチの分割】 難易度[やや易]
 生態系分野からの出題。
問1 これは常識的な知識問題。
問2 グラフの読み取り問題。平易。
問3 問題文の要約問題。導入区のグリーンのうちパッドが大きいものが高いところでブラウンとすみ分けた,という内容が理解されていれば容易に選択できる。
問4 実験について設問が続くのは,00年代前半のセンター試験でよく出題された。ブラウンとの競争には負けるグリーンが共存するのはニッチの分割によるため,という結論づけをする。ニッチの分割については冬期講習「生物★トリプルミラクル#」で扱っているので,受講した人は容易に理解できたのでは。

第3問 【テーマ・生産構造図/分野・生産構造】 難易度[やや易]
 生態系分野からの出題。データを読み取って計算する問題が中心で,実験の結論づけがないのはつまらない。
問1▲グラフの読み取りで難しくはないが,あれこれ間違いそうな選択肢ではある。①を選んだ人は植物の成長についてそもそも理解していない。
問2 グラフを読み取って計算する問題で難しくない。
問3 設問文から読み取った内容で計算する問題。計算問題が続くのは,センター試験ではあまりなかった。

第4問 【テーマ・鳥のさえずりと学習/分野・学習,種間競争】 難易度[やや易]
 行動が主たるテーマだが,ここでも進化と生態系分野が絡んでくる。現代生物学の視点では環境に対する適応と進化は不可欠なテーマであるが,ここまで分野に偏りが大きいと食傷気味になる。
問1▲学習に関する知識問題。単に用語を問うのではなく,具体例を示して選ばせるのは,試行調査でもみられた。
問2 データを素直に読み取ればよい。
問3 ほぼ文脈から判断できてしまう。

第5問 【テーマ・葉の分化,根における葉緑体の発達/分野・植物の発生,植物ホルモン】 難易度[標準]
 Aは茎頂分裂組織の葉の形成に関する実験問題,Bは根における葉緑体の発達と植物ホルモンとの関係をさぐる実験問題で,どちらも初見のテーマである。第5問にひとくくりにする必要が全くないのだが,さすがに大問が7とか8とかになったらまずいということだろう。
A
問1 選択肢のどれもこれもが大問のテーマにしてもよさそうなものばかりであるが,雑に知識問題としてまとめられている。平易。
問2▲茎頂分裂組織の構造と,その三次元的な位置関係を把握せよという問題。三次元的なもののも方は発生分野では特に大切なものの見方である。茎頂分裂組織については冬期講習などで扱っている。
問3★(a)と(c)で「葉を扁平にする」ことと「葉の向き」の決定は異なる事象であることに気づけただろうか。ここで戸惑うと失点しそうである。過不足なしの問題で実験問題では中間点を与えるのは,センター試験時の批判によるものであると思う。
B
問4▲比較対照する実験が明確に判断できれば難しくない。未処理に対してサイトカイニン添加でクロロフィル量が増加していることからサイトカイニンは根の緑化に促進的で,切断に対して切断・オーキシン添加ではクロロフィル量が減少していることからオーキシンは抑制的であることがわかる。
問5 間接的な知識問題である。ただ,実験内容を深く理解していなくても,オーキシンとサイトカイニンだから頂芽優勢と選べてしまうので,サービス問題かも。
問6 根の光合成を調べる実験であるから,オーキシンは不要である。
問7 問6につづいて,これまで何も述べられていない「ひげ根の長さ総和」が出てきて,これもカンで解けてしまう問題である。これが思考力・判断力を評価する問題?なんだろうか。

第6問 【テーマ・A:眼の発生,B:オタマジャクシの視覚と行動/分野・動物の発生,中枢神経,動物の行動】 難易度[やや難]
 Aは眼の発生のしくみを調べる実験問題,Bは視覚と行動の関係を探る実験問題だが,これも1大問にする必然性はない。
A
問1★下線部が思わせぶりで誤答を誘うんじゃないかな。「眼のできる頭部の領域を移植する」とわかりよいとは言えないし,「眼をつくらない場所に眼ができる」も意地悪い。
問2 これは問題文内容の要約で正解できる。
B
問3 誤答の選択肢が明らかである。ただ,「眼がないのになんで光がみえるの???」という先入観に固執するのは受験生のやらかしがちのことである。
問4▲これも「眼がないのに,なんで光がわかるの???」という先入観があると解けないだろうが,問題文の内容が把握できていれば正解できる。
問5▲「なんで唐突に脳がでてくるの?」という疑問が湧いたかもしれないが,「刺激→感覚器→感覚神経→中枢神経(脳や脊髄)→運動神経や自律神経→行動や反応」という基本的なことが理解されているだろうか。赤色光の勝者と電気ショックとの関係を学習するのは脳のはたらきであり,尾にできた眼からの刺激が,脳に到達しないと学習は成立しない。難しくはないが,正解を選ぶときに現象全体を把握できた人は多くないかもしれない。

《来年度への展望》

 共通テストへの対策として,結局はいつも通りの「教科書の知識の完全理解」と「過去問の徹底研究」に尽きる。それしかありません。丁寧な日常学習がまずは大切で,その定着度を知る上で過去問の解答は重要となる。
 本年の問題を見て,教科書と過去問だけでは不安に思う,という気持ちは理解できる。知識問題的な知識問題はなりを潜め,見たことのないデータ分析問題ばかりが並んでいるのだからね。しかし,これまでの中学入試や高校入試式の学習からの脱却しなければならないことをわかってほしいのだ。一問一答形式の問題反復とか,穴埋めプリントの正解合わせみたいな,勉強とは全然かけ離れたことはやめてほしい。用語の定義を覚えるのは問題文や設問文を正確に読むために必要なことで,生命現象の理解は問題の背景にある事柄を見いだすことである。点数に直接結びつかないようでも,日々の当たり前な生命現象の理解と,何気ない生命現象に対する疑問を解決することが重要である。
 高校の先生方にもお願いしたいのは,「センター試験」の過去問を徹底的に分析すること。時間制限を設けて生徒に過去問を解かせて,解答を配って終わりにするなら,先生が教壇にいなくてもよい。先生自身が教壇に立って話をする意味を考えてほしい。問題を入り口に広大な生命現象の理解の世界に導くことが,日常学習を大学入試に直結させる近道なのだから。


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