ものづくり現場の技術者と学歴、製造業の未来

「学歴」。

おそらく日本では、人生で一番最初に学歴を意識するのは就職のとき。
指定校枠、応募条件4大卒以上、最終面接まで行ったのに、最後は「今年は大卒しか採りません」

社会に出ると、特に製造の現場(ライン)では高学歴の方にはほぼ出会うことはなく、製造管理者として高学歴者もしくは非技術者が赴任してきて、厳しい管理やカイゼンが始まると、「現場を知らないくせに」

どちらも、自らの体験談です。

ものづくりの製造現場に学歴は必要ないか? 
私は、必要だと思っています。


そもそも、学歴って?

日本で学歴と言うと、
個人の学んだ(修めた)教育段階別の歴史。というよりは、学校歴の意識が強いように感じる。

中国でも、"211"や"985"と言われる重点大学(一流大学)があり、その学校を卒業した学校歴が重視される面があるのは確か。

それよりも重視されているのは、専門性。何を学んで、修めたか。
もちろん学びと職種が必ずしも一致するわけではないけれど、専門性を深め学んだ経験値、研究開発の計画と検証、個人の見解や人生設計など、学校歴+αの部分を伸ばす力。

 一般企業のHRは、一昔前は大学卒であればある程度の教養と素養を備えていると判断していたけれど、現在は、皆が大学に進学するのが当たり前の時代になったので、必ずしも素養高いよね~ 教養あるよね~ にはならないというのが現場の話。おそらく日中共通しているのではと思います。

中国や韓国は厳しい学歴社会と言われるが…

メディアで紹介される、大学入試の状況や”ゆとりなんか与えない”学生生活等、これは肌感でも全く同じ。学校の宿題、親の教育(学校)への関心、本当にすごい。

少なくとも、二級都市(新一級都市とも言われる)である杭州市内に住む一般的な家庭の親たちの、子供に与えうる限りの教育、情操教育にかける情熱とお金は、並々ならぬものがある。

それだけ競争が激しいという面と、彼らなりに真剣に子供の未来を考えている面。決してメンツだけではない。国内だけではなく、グローバルに活躍できることを考え、見据えている。
学びを修めることは、グローバル社会で活躍するためにまず必要なパスポートであることを、理解しているからこそ、「厳しい」。

社会が学校歴を求めている面は少なからずあるけれど、学んだ(修めた)専門性という教育段階別の個人の歴史を重視していて、学生がそれを把握した上で学びを追求している姿勢は、国際的に共通しており、中韓が厳しい学歴社会なのではなく、日本が学校歴重視の傾向が強いだけだと感じています。

ものづくり現場の技術者

製造業と聞いて、一般的にどういったイメージだろうか。
また、技術者と聞いて、一般的にどういったイメージを持つだろうか。

家業が金型屋だった私は、製造現場=技術、ものづくりの現場。
もしくは、経験主義・現場主義。
私にとっての、技術者とは、まさに先代で、金型を設計し製造する技術を持った人間であり、製造能力が高い人。

そこに「学歴」は問われない。現に先代は高校も出ておらず、現場に入って技術を覚えた、完全なる現場主義。

先代の口癖:「大学校に行け。」
彼の、社会に出てからの経験が、言わせていたのだと思います。

実際、私の工場で活躍する現場社員の中に、いわゆる高学歴者はいない。
中国の時代背景…20~30年前ぐらいでは、大学の進学率が高くなく、高校卒・専門学校卒は、「素養がある」と判断されるレベルだったため、今の50代前後の管理者層は、小規模工場においては、現場経験値が高く現場で学んだ、実践タイプということになる。

ものづくり現場においては、経験・積み上げてきた知識と技術が必要不可欠であり、こういった人(あえて技術者とします)は、残念ながら決して社会的、もしくは収入的に見て、優遇されてこなかったのが、現実。

が、これでメシを食ってきた! というプライドが彼らには、ある。
優遇されてこなかったことも、わかっている。
だからこそ、彼らを「下」に見る人間、もしくは技術や現場経験を持たない人間に出会うと、物凄い拒絶反応を起こす。

技術者は、自分の専門にプライドを持ち、専門外は他者と協力したいと、強く思っているものの、それを有効的に表現する素養教育(訓練)を受けておらず、現場を知らないくせに…と高学歴や非技術者に対して一歩置いた立場をとってしまうのが現実ではないかと、感じています。

技術者に、学歴は必要か。

私は、必要だと断言したい。

ものづくりの現場は、意外とエキサイティング。
技術で解決できること、技術というよりは経験やアイデアで解決できること、問題解決をして、お客様からの信頼を得ること。
こうしてまた、現場が1mm前進する。

ものづくり現場を、有効かつスムーズに動かしていくために、ロジカルな思考能力は絶対に必要。

新技術の研究や開発をしている”学”と”現場で培われる技術”を融合し、それをビジネスにしていく力を、エコシステム化しないと、製造業は生き残れないのです。

今までの製造業は、お客様は神様。
特に金型屋は、製造メーカーから数社商社などが中間に入る、いわゆる下請けとして事業を展開していました。だからこそ、お客様の言う通りに製造し、納期に間に合わせるために、現場主義でアイデアを出し技術を磨いてきた。

しかし、その技術に名はなく、それが当たり前だと思っていた”下請け”は、それをビジネスにつなげる力が、ない。

技術者に学歴が必要か… 私は必要だと断言したい。

今は、お客様が大切なのはもちろんだけど、お客様の声を聞いて技術を磨いていては、取り残される時代。ニーズは作るよりも、導いてニーズにする時代になってしまった。
だからこそ、より効率的にゴールにたどりつく思考・技術の融合が必要。

専門性を掘り下げつつも、広げて応用していく力。
それにはやはり、専門性を学ぶための幅広い理論と思考能力が必要。
そしてそれは、一個人に求めるのではなく、さまざまな専門性を持ったチームとして達成するのが現実的で、そういう訓練が必要なのだ。

製造業の未来が楽しみ

中国でも、技術者の高学歴化が進んでいます。
国を挙げて技術者育成に積極的に取り組んでいるのが、今の中国の製造業。
国の政策もありますが、専門性&経験を融合させた、より高度なものづくりを目指す方向に進んでいるためです。

非技術者と技術者をつなぐ、お互いに尊敬しあえる現場と、それを循環させるエコシステム。

”体系的な学び”が必要であり、今までの製造業が培ってきた”経験技術”も必要。両者を融合したデータに基づき、操作性を伴った、高付加価値のものづくり現場ができあがる。
それがわかっているからこそ、中小企業という基礎のレベルアップを、強力にバックアップしている。

弊社のお客様も、"211"や"985"卒業の博士、修士の方が非常に増えてきました。そして彼らが現場に入り、弊社の技術者と交流しています。
問題を解決するという、同じ目的を持って、お互いが尊敬尊重しあっている企業が、どんどん成長しています。

この数年のうちに、中国はさらにドラスティックに動くであろう予感。
日本は、ものづくり大国としての現場経験値が、まだある。
データからか、現場からかの違いはあるけれど、製造業が大きく動くてあろう未来が楽しみです。

長くなりました。
ここ杭州で生きてます。
2024年2月16日





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