旅の炊事
調理道具一式。
燃料は、ほとんどのサイクリストがガソリン派だが、僕は一貫してガス派。
それぞれにメリット・デメリットがあるが、使いやすさにおいてはどう見てもガスに分があり、ガソリンに乗り換える気にはなれない。
ガスのデメリットのひとつとして、-10℃ぐらいの低温になるとうまく気化されず火力が低下して使い物にならない、というのがあった。
ここ数年使用しているSOTOは、マイクロレギュレーター機能による自動的な圧力調整でこの問題を解決している。
折りたたむとこんなにコンパクト。
カートリッジは、アウトドアショップなどで売っているOD缶。
コッヘルにすっぽりと収納できる。
ガスカートリッジは飛行機に積めないので、飛んだ後の出発地点の街でガスを探す必要がある。
全世界で規格を統一してくれたらいいのだが、残念ながらOD缶が入手できるのは先進的なアウトドアショップがあるような国のみ。
アフリカなどでは、互換性のない別タイプのガスを使用したこともあった。
日本のコンビニやスーパーでも見かけるCB缶がポピュラーな国も多い。
変換アダプターがあれば、ひとつのコンロでOD缶とCB缶を切り替えて使える。
CB缶はだいたい横置きで、場所はとるが安定感がある。
いつもフラットな場所で調理できるわけではない。
石や草や根があったり、デコボコだったり斜面だったりで、絶妙なバランスで調理することも多く、最悪ひっくり返してしまうこともありえる。
安定感という点では、カセットコンロが最強。
宿に泊まる時は、室内でも調理したり、お湯を沸かしてコーヒーを飲んだりしたい。
そんな時は、電気コンロが大活躍。
宿の人にバレたらおこられるかもしれないのでコッソリやるのだが、危険性はまったくない。
匂いは時間がたてば消えるし、ゴミはきっちり処理するので、何の痕跡も残さない。
平均的な人の3〜4倍の量を食べる僕としては、レストランや屋台の食事程度では到底維持できない、宿に泊まっても自炊する必要がある。
メキシコで買った電気コンロは、99ペソ(543円)だった。
キャンプだと、一般的には河原や湖畔や海辺がイメージされるかもしれないが、自転車旅における野宿ではそんな良好な環境に恵まれることは少なく、水はあらかじめ用意した量でまかなわなければならない。
12リットルの給水タンクを積んでいても、水が尽きることがある。
世界中どこへ行ってもお腹を壊すことがない僕でも、得体の知れない水をダイレクトに飲むのにはさすがに慎重になる。
そんな時は、浄水器。
調理用やコーヒー用は沸騰させれば問題ないが、飲水は量が多すぎるので沸騰なんてやってられない、浄水器を使って濾過する。
何もわからなかった最初の頃は、アウトドアショップで売っている即席の袋を買ったり、缶詰などを買ったりしていた。
しかしそれでは量が少なすぎるし割高だし、おいしくもない。
ある時出会ったサイクリストから、スープスパゲティなるものを教わった。
スパゲティを茹でながら、コンソメ、野菜、ソーセージなど好きな具材をぶちこんでいくだけ。
これはシンプルだし、最速でできあがる。
お湯をムダに捨てることもない。
米のように鍋にこびりつくこともなく、食べ終わったら、水で濡らしたトイレットペーパーで拭くだけで鍋はきれいになるので、水道がない環境でも問題ない。
スーパーでパスタやコンソメが売られていない国はほぼなく、世界中どこでも手軽につくれる。
ドイツでは、おいしいソーセージが安く買えた。
スープスパゲティは旅の定番メニューとなったが、毎日となると、具材を変えても次第にウンザリしてきて、味も何も感じなくなってくる。
日本人なら、どうしても米が食いたくなる。
しかし、水道がない環境での炊飯は、食器洗いが問題になる。
それに、炊きあがるまで時間がかかるので、米はパスタよりもガスを消費する。
そして、大半の国では、米といったらパサパサで味気ないロンググレインが主流。
あれは僕にはまったく理解できない。
大型スーパーに行けば、日本の米に近い、粘り気のあるラウンドグレインが売られている(ただし割高)。
ホステルには、たいていキッチンがある。
せっかくちゃんとそろっているのだから、ホステルに宿泊する時は米を炊くようになった。
旅が長引くほど、米を欲するようになる。
ふつうにおいしそうじゃないすか?
実際すごくおいしいです。
米の炊き方はコツがあり、何度か失敗を重ねて、慣れればうまく炊けるようになる。
調味料は、スーパーで売っている醤油。
醤油は日本的なものでなくてもいい。
油は持ち歩きたくないので、フライパンに醤油をひいて、肉や野菜を刻んで炒めれば、なんとなくアジアっぽいものができあがる。
おかずは、決して時間と手間をかけない。
米に火をつけてから炊きあがるまでの20~30分ほどで、おかずもできあがっていなければならない。
狂おしいほどの空腹感がつきまとう自転車旅。
とにかく最速最短でつくりあげなければ、待ってられない。
もちろん、米を研いだりもしない、そんな時間はない。
ネコも寄ってくる。
オムライスも得意レパートリーとなった。
重量は2kg超。
オムライスって、日本のオリジナルなのだろうか。
周囲の宿泊客が興味を持って「何これ!?」と聞いてくる。
「Omlet Rice」と答えると、なんか納得してくれる。
13万km突破記念オムライス。
近くにアジアンマーケットがあれば、日本のカレーを買ったりもする(やはり割高)。
モロッコでつくってみた、オリジナルタジン。
ブリ大根?
「大根」は英語で「radish」だが、そのまま日本語で「daikon」でも通じることもある。
宿のキッチンで、プリンづくりにハマったこともあった。
プリンはなかなか奥深い。
材料は、牛乳と卵と砂糖のみ。
牛乳と卵の割合をちょっと変えただけで、火力や加熱時間をちょっと変えただけで、全然違った仕上がりになる。
側面をなめらかにするのがすごく難しい。
やっぱり鍋だけじゃ足りん、フライパンも購入。
自転車旅をしていると、頭の中の8割ぐらいはメシのことで埋まっている。
ディナータイムは一日の最大のイベント、鼻息が荒くなる。
キャンプ場でも食器は洗えるし、フライパンがあればバリエーションが増える。
北米のキャンプ場では、各テントサイトにかまどがあり、薪も用意されていて、燃料を気にせず調理できる。
気のせいなんだろうけど、焚き火メシは最高にウマく感じる。
焚き火はいいものだ。
火を見ているだけでも落ち着く。
クマだらけの北米で野宿する時の調理は、周囲を見渡せる広い場所で。
あとは、オーストラリアでは轢死したワラビーを食べてみたり。
パミールではマーモットを食べてみたり。
生きてる獣を捕まえて食えたら最高だろうな。
いつかやってみたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?