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愛犬からのでんわ

15年ほど実家で飼っていた愛犬が旅立ちました。私が沖縄を旅行しているときでした。

愛犬が息を引き取る前日の夜、不思議なことがありました。

宿泊していた石垣島のリゾートホテルは、大浴場が少し歩いた先の別館にありました。温泉や大浴場とでは、いつもはゆっくり1時間程度かけてお風呂に入ることが多いのですが、その日は30分早々で湯船を上がり、化粧水もつけず髪も乾かさずに、夜道の庭を足早に歩いて部屋に戻りました。

自室に着きドアを開けると、夫はまだ戻っていないようでした。私のほうが早いなんて珍しいなぁ〜なんて考えながら、今日買ったばかりのビーチサンダルを脱ぎ、廊下に一歩足を踏み入れた時、しんとした部屋に電話の音が鳴り響きました。スマホではなく、ホテルの部屋に備え付けの電話器です。時刻は既に22時近く。こんな時間に誰?何だろう?と不思議に思い、ソワソワした気持ちで「はい」と受話器をとると、無言のままスッと切れました。

ホテルの電話にかかってくるなんて、何か落とし物でもしただろうか?それとも夫に何かあった?間違い電話…?と、あらゆる可能性を巡らせてはすこし心配な気持ちになりつつ、「ま、緊急だったら、もう一度かけてくるはずか」と思い直し、スキンケアもそこそこに晩酌のお酒とおつまみを買いに売店行くことにしました。部屋を出たところで丁度大浴場から戻った夫と合流できたので安心し「さっきこんなことがあって、、新手の泥棒の手口かな。何も盗むものはないけど笑」なんてお喋りをしつつ買い物を済ませ、ひとときの間、ビーチで石垣島の星空を眺めてから部屋に戻りました。月の明るい夜でした。

明くる日、実家の母から「愛犬が危ないかも」と連絡が入りました。元気がないことはしばらく前から聞いていたものの、いよいよ覚悟しなくてはいけないのだろうか、と胸がキュっとなりました。

私は愛犬に声をかけたいと思い、落ち着いたタイミングで母にでんわをかけました。母曰く愛犬は既に意識が朦朧としている状態のようでしたが、「声は聞こえていると思うから話しかけてあげて」とのことだったので、でんわをスピーカーにしてもらい、愛犬に話しかけました。一番伝えたかったのは「ありがとう」という言葉でしたが、それを言ってしまったらもう最後になってしまいそうで、まだ持ち直すかもしれない可能性を残したいという思いから、結局何を喋ろうか定まらないまま「大丈夫〜?わかる?私だよ〜」と、なんでもない言葉を投げかけました。すると、母が「手をパタパタ動かしている。少し目に正気が戻った」と言いました。その後電話から小さく「ゥン、ゥゥン、ウン」という愛犬の声が聞こえてきました。母は「何か喋ってる」と言いました。私も愛犬が私に喋りかけてくれているような気がしました。しばらく話した後「またね」と声をかけて電話を切りました。


お昼過ぎ、母から「息を引き取ったよ」と連絡がありました。生きているうち会いにいくことができなかったが故、言葉にし難い思いがありますが、それでも最後に愛犬と話すことができて良かったと思いました。


旅先に夫を1人残してしまうことを悩みましたが、最後に愛犬に会えずに後悔したくないと思い、急遽飛行機を取り実家に帰ることにしました。ホテルを発つ前にお土産売り場で目に止まったシーサーの置物を1匹買って帰りました。

実家に着くと愛犬はいつものクッションの上に寝ていました。耳をたて、つぶらな瞳を開けたまま横たわっているので、名前を呼べばいつものように私に気づいて近寄ってくるんじゃないか、と思いました。本当にそうだったらいいのになと、寂しい気持ちになりましたが、横たわる愛犬を撫でてありがとうと声をかけ、お守りのシーサーを渡してあげることができました。

後から母から聞いた話になりますが、愛犬は意識朦朧として寝ている間中ずっと、耳をピンと立て続けていたようです。「家族の声をいつでも聞けるようにしていたかったのかも」と、母は言いました。

もしかすると、前夜の石垣島、お風呂上がりにかかってきたあの不思議な電話は、愛犬が私に何かを伝えたくてかけてきてくれたのかもしれない、と思っています。

就職して実家を離れてからは、帰って愛犬に会う機会も限られていました。もし、旅立つ前に私を思い出し何かを伝えようとしてくれていたのだとしたら、お別れは寂しいけど嬉しいなと思いました。生きているうちに電話ができてよかったです。

愛犬がうちに来てからの日々について、
振り返るといろいろな思い出があります。

ウチにやってきたころはまだ子犬だった愛犬。
散歩も遊びも全力ダッシュでした。

私が心身の体調不良でダウンしているときは、すっとそばに寄ってきて、温めてくれたこともありました。

家族で一緒に旅行に行き、ドッグランと海辺の散歩を楽しみました。ちょうど去年のことです。

直近では、年をとって歩くペースもゆっくりになりましたが、そんな姿を見て、一緒に年をとってきたんだなぁとしみじみとした気持ちになりました。とはいえ、朝起きて散歩を催促しにきたり、散歩中に調子がいい日は「走ろうよ〜」と見上げてくることもあったので、年の割に元気だったと思います!

写真を見かえしていると、癒しと楽しい時間を沢山くれていたんだな、と改めて感じます。
だっこしたときの暖かさと声が懐かしいです。

最後は家族みんなで揃ってお別れをし、愛犬の旅を見送りました。空の世界では好きなものを鱈腹食べて、また全力疾走で走り回って楽しく過ごしていると嬉しいな、と思います!

一緒に過ごした日々は忘れません。
ありがとう!

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